落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第2話 嘲笑と模索

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夕暮れの茜色に染まった空の下、アルトは一人、とぼとぼと家路を歩いていた。
数時間前まで抱いていた期待と興奮は、冷たい失望感へと変わり果て、足取りは鉛のように重い。
ガレスたちの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
『君の働きは無かったものとして』
『今のままではうちのパーティでは扱いきれない』
『リスクが高い』
事実上の、戦力外通告。
冒険者になるという夢は、初日にして砕け散ったのかもしれない。

家のドアを開けると、心配そうな両親と、少し呆れたような顔をした兄が出迎えた。

「アルト、おかえり。どうだったんだ?成人の儀のあと、冒険者の人たちに誘われて行ったんだろう?」

母が心配そうに尋ねる。
父も兄も、言葉にはしないが、アルトの様子から何かを察しているようだった。

「…うん。スライム討伐に」

アルトは俯いたまま、力なく答えた。

「スライム?ははっ、それで、お前の『ダメージ反射』ってのは役に立ったのか?」

兄のヨハンが、少しからかうような口調で言った。
ヨハンは既に20歳で、数年前に「農具修理」という地味ながらも実用的なギフトを授かり、父と共に畑仕事に励んでいる。
アルトが冒険者になるという夢を語るたび、彼はいつも現実を見ろと諌めていた。

「…全然。スライムの攻撃じゃ、僕が受けるダメージも、反射するダメージも、ほとんど無くて…」

アルトの声は、どんどん小さくなっていく。

「だろうな。そんな都合のいいギフトがあるわけないだろ。攻撃を受けたらダメージを返す?ふん、結局は自分が痛い思いをするだけじゃないか。大人しく畑仕事でも手伝え」

ヨハンの言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。
父は黙ってヨハンを睨んだが、アルトを慰める言葉も出てこないようだった。
母だけが、

「まあまあ、ヨハン。アルトだって、今日初めてだったんだから…ね、アルト、夕飯にしましょう?」

と、無理に明るく振る舞った。
その日の夕食は、気まずい沈黙の中で過ぎていった。

翌日、アルトが村に出ると、昨日とは明らかに違う空気が流れているのを感じた。
すれ違う村人たちの視線が、どこか好奇と、そして憐憫の色を帯びている。
子供たちが、アルトを指差して何か囁き合っているのが聞こえた。

「あ、昨日の『ダメージ反射』の人だ」

「スライムも倒せなかったんだって」

「へーんなのー」

大人たちも、遠巻きにアルトを見ながらひそひそと話している。

「聞いたかい?アルト君のギフト、全然使えないらしいよ」

「あれだけ派手な光だったのにねぇ。見かけ倒しってやつかね」

「ガレスさんたちのパーティも、一日で追い出されたそうだ」

昨日まで、アルトを「期待の新星」だとか「珍しいギフトの持ち主」だとか言って持ち上げていた人々が、手のひらを返したように噂話に興じている。
アルトは顔を上げることができず、逃げるように家へと引き返した。

自室のベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
悔しさと、情けなさで涙が溢れてきた。
どうして、僕のギフトはこんなに役に立たないんだろう。
皆をがっかりさせて、笑いものにされて。
冒険者になるなんて、やっぱり夢物語だったんだ。

しばらくして、少し落ち着きを取り戻したアルトは、ふと疑問に思った。
本当に、このギフトは全く使えないのだろうか?
『ダメージ反射』。
敵から受けたダメージの、1割を返す。
確かに、スライムのような弱い相手には効果がない。
でも、もし、もっと強い攻撃を受けたら?
例えば、大男に殴られたら、それなりに痛いダメージを受けるはずだ。
その1割なら、相手にもある程度のダメージを与えられるんじゃないだろうか?

「そうだ…強い攻撃なら…」

アルトはベッドから跳ね起きた。
完全に役に立たないわけじゃないのかもしれない。
問題は、どうやって「強い攻撃」を受けるかだ。
わざわざ危険な魔物に殴られに行くわけにもいかない。
それに、1割返すだけでは、依然として自分が受けるダメージの方が圧倒的に大きい。
例えば、100のダメージを受けたら、相手には10しか返せない。
自分が瀕死になるような攻撃を受けたとしても、相手は少し痛い程度かもしれない。
これでは、やはり戦闘では使い物にならないのではないか。

「うーん…」

アルトは再び頭を抱えた。
何か、もっと別の使い方はないだろうか。
ギフトは戦闘だけじゃない。
生活に役立つものだってたくさんある。
もしかしたら、「ダメージ反射」にも、戦闘以外の使い道があるのかもしれない。
…いや、ダメージを反射する、なんて能力が、日常生活の役に立つとは思えない。

考えれば考えるほど、袋小路に迷い込んだような気分になる。
もしかしたら、ギフトにはレベルのようなものがあって、使っているうちに反射率が上がったりするのだろうか?
エルリック神父は、ギフトについて詳しいかもしれない。
聞いてみようか。
いや、でも、また「使えないギフトだ」と再確認させられるだけかもしれない。

アルトは意を決して、村の広場にある冒険者ギルドへ向かった。
昨日、あれだけ多くのパーティから勧誘されたのだ。
ガレスたちのパーティはダメだったとしても、他のパーティなら、あるいは…。

ギルドの扉を開けると、昼間から酒を飲んでいる冒険者たちの喧騒が耳に飛び込んできた。
アルトの姿を認めると、数人がニヤニヤしながら声をかけてきた。

「よう、『反射』のアルト君じゃないか。もう次のパーティは見つかったのかい?」

「スライム相手に無傷で勝てる、無敵のギフトなんだってな?」

嘲笑が混じった言葉に、アルトは顔を赤らめながらも、カウンターに向かった。
カウンターには、恰幅の良いギルドマスターが座っている。

「あの、すみません。パーティに入れてくれるところを探しているんですが…」

アルトがおずおずと尋ねると、ギルドマスターは大きなため息をついた。

「ああ、君か。ダメージ反射の。悪いがね、坊主。君のギフトの噂はもう広まってる。正直、今の君を欲しがるパーティは、ここには無いだろうな」

「で、でも、強い攻撃なら、ちゃんと反射できるはずです!盾役としてなら…」

「盾役?冗談じゃない。ダメージを1割しか返せない盾なんて、ただの的だ。それに、君自身が攻撃する手段を持っていないんだろう?パーティのお荷物になるだけだ。悪いことは言わん、冒険者は諦めて、別の道を探しな」

ギルドマスターの言葉は、冷たく、そして現実的だった。
アルトは、もはや反論する気力も失い、すごすごとギルドを後にした。

完全に打ちのめされ、村の外れにある小川のほとりに座り込んでいると、後ろから優しい声がかけられた。

「アルト?こんなところでどうしたの?」

振り返ると、幼馴染のリナが心配そうな顔で立っていた。
彼女は、小さな籠いっぱいに薬草を摘んでいた。

「リナ…」

アルトは、リナの顔を見ると、堪えていた涙がまた溢れそうになった。

「昨日、ガレスさんたちのパーティ、ダメだったって聞いたよ…」

リナはアルトの隣にそっと座った。

「うん…全然、役に立てなくて…追い出されちゃった。僕のギフト、やっぱりダメみたいだ」

「そんなことないよ!」

リナは、きっぱりとした口調で言った。

「神様がアルトにくれたギフトなんだよ?きっと、何か意味があるはずだよ。ただ、まだアルトがその使い方を見つけられていないだけかもしれないじゃない」

「でも、スライムにすら効かないんだよ?どう考えたって、使い道なんて…」

「諦めちゃだめだよ、アルト。アルトは、昔からそうじゃない。一度決めたことは、なかなか諦めないでしょ?冒険者になりたいって夢も、ずっと言ってたじゃない」

リナの言葉は、不思議とアルトの心に染み込んできた。
そうだ。
僕は、冒険者になりたかったんだ。
こんなところで、諦めていいはずがない。

「それにね、私も『治癒(小)』だけど、まだ、うまく使えないんだよ。ちょっとした切り傷を治すのにも、すごく時間がかかったりして。でも、薬師のおばあさんに教えてもらいながら練習したら、少しずつだけど、早く、きれいに治せるようになってきたの」

リナは、自分の手のひらを見つめながら言った。

「ギフトだって、訓練次第で少しは使えるようになるって、神父様も言ってたでしょ?アルトのギフトも、何か訓練する方法があるかもしれないよ。例えば、わざと何かにぶつかってみて、反射する感覚を掴むとか?」

「わざとぶつかる…?」

アルトは、リナの言葉に少しだけ希望の光を見た気がした。
確かに、ギフトの感覚を掴む、という発想はなかった。
ただ攻撃を受けるだけではなく、もっと能動的にギフトと向き合ってみる必要があるのかもしれない。

「ありがとう、リナ。なんだか、少し元気が出てきたよ」

アルトは、涙を拭って、リナに微笑みかけた。

「よかった。アルトは、笑ってる方がアルトらしいよ」

リナも嬉しそうに笑った。

「私、これからも薬草集めとか、治癒の練習とかでこの辺りにいるから、何かあったら、いつでも話聞くからね」

「うん、ありがとう」

リナと別れた後も、アルトはしばらく小川のほとりに座って考えていた。
状況が好転したわけではない。
相変わらず、ギフトは使い物にならず、パーティに入れてくれる仲間もいない。
村人たちの視線も、明日になればまた冷たいだろう。
でも、完全に希望が潰えたわけではない。
リナが言ってくれたように、まだ諦めるのは早い。
この「ダメージ反射」というギフトと、もっと向き合ってみよう。
どうすれば、この力を活かせるのか。
どうすれば、成長させることができるのか。
答えはすぐには見つからないかもしれない。
それでも、何かできることがあるはずだ。
アルトは、固く拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
嘲笑や侮蔑に立ち向かう覚悟は、まだできていないかもしれない。
けれど、自分のギフトから逃げることだけは、もうやめよう。
そう、心に誓った。
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