落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第116話 英雄の凱旋、Bランクへの階梯

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王都の地下迷宮から、アルトは文字通り這うようにして地上へと生還した。

その姿は、これまでのどの戦いの後よりも凄惨だった。
全身は泥と汗、そして自らの血で汚れ、身にまとった革鎧は見る影もなく裂け、左腕には砕け散ったバックラーの無残な残骸がぶら下がっている。

しかし、その右手には、討伐の証である巨大なミノタウロスの角が、勝利の証として、確かに握られていた。

よろめく足取りでギルド本部へとたどり着き、アルトがカウンターにその禍々しい角を置いた瞬間、ホールにいた全ての冒険者が、三度(みたび)、息をのんだ。

あのアルトが、また何かとんでもないことをしでかした。
その場の誰もが、そう直感した。

「……ミノタウロス……だと……?」

カウンターの向こうで、ギルドマスターが、震える声で呟いた。
その目は、信じられないものを見るかのように、アルトのボロボロの姿と、カウンターに置かれた巨大な角とを、何度も何度も見比べている。

「まさか、アルト君……君が、単独で、あの迷宮の主を……本当に……?」

「はい。依頼『迷宮ミノタウロス討伐』、達成しました」

アルトは、かすれた声で、しかしはっきりとそう告げた。
その言葉が、ギルドホールに三度目の、そしてこれまでで最大の衝撃とどよめきを巻き起こした。

「Cランクが、ソロでミノタウロス討伐!?冗談も休み休み言え!」

「いや、だが、あの角は本物だ…それにアルトのあの姿…」

「ホブゴブリンの次はミノタウロスかよ!あいつ、本当に人間なのか!?」

賞賛、驚愕、そしてもはや畏敬の念すら入り混じった視線が、アルトへと一身に集中する。
ギルドマスターは、しばらく呆然としていたが、やがて我に返ると、深い、深い感嘆のため息をついた。

「……もはや、言葉もない。アルト君、君の実力は、間違いなくCランクの域を、完全に超えている。いや、Bランク冒険者と比較しても、遜色ないどころか、ある面では凌駕しているとさえ言えるかもしれん…!」

マスターは、依頼報酬である銀貨5枚に加え、Cランク冒険者による単独でのミノタウロス討伐という、前代未聞の偉業に対する特別報酬として、アルトが目を疑うほどの大量の金貨を手渡した。

「これは、君の偉業に対する、ギルドからの最大の敬意と評価だ。そして…」

マスターは、そこで一呼吸置き、周囲の冒険者たちにも聞こえるように、はっきりとした声で言った。

「この功績をもって、ギルド評議会に対し、君を【Bランク】へ特例昇格させるよう、私が責任を持って強く推薦しよう。おそらく、これに異論を唱える者は、もはや誰一人としておるまい!」

Bランクへの、特例昇格の推薦。
それは、アルトにとって、あまりにも予想外の展開だった。
アッシュフォード村を出て、王都に来て、まだそれほど時間は経っていない。
自分が、もうBランクへ…?
アルトは、ただただ驚き、そして込み上げてくる達成感と、少しばかりの戸惑いに、言葉を失っていた。

報酬を受け取り、マスターに深く礼を述べた後、アルトはエリアーヌの研究室を訪れた。
ミノタウロス討伐の報告と共に、戦闘中にギフト「リフレクト・ショック」が、ついに明確な意志を持って発動したことを、興奮気味に伝える。

「まあ!まあ!まあ!ついに!アルトさんの意志に応えて、あの力が!完全な覚醒の瞬間ですわね!?素晴らしい!これはギフト研究における、歴史的な大発見ですわ!」

エリアーヌは、アルト以上に興奮し、研究室中を喜び勇んで飛び跳ねんばかりの勢いだ。

「これで、リフレクト・ショックの制御訓練を、いよいよ本格的に開始できますわ!あなたの精神状態とギフトエネルギーの相関関係、発動時のバイタルデータの詳細な分析…そして、どうすれば任意に、かつ安全に発動させられるか!ああ、やるべきことが山積みですわね!」

彼女の目は、もはやギフトの謎そのものへの、純粋な探求心で爛々と輝いていた。
アルトは、この頼れる(そして少しばかり危なっかしい)研究者と共に、未知の力を解き明かしていく未来に、大きな期待を寄せていた。

休息と回復。
それが、今のアルトにとって最も必要なことだった。
彼は下宿屋に戻り、数日間、再び深い休息に入った。
リナが、医療院での仕事が終わると、毎日アルトの部屋を訪れ、上達した治癒魔法と薬草で、彼の深い傷を丁寧に癒してくれた。

「アルト…本当に、無事でよかった…。でも、お願いだから、もうあんな危ない戦い方はしないでね。バックラーも、鎧も、こんなにボロボロになって…見てるこっちの心臓が、いくつあっても足りないよ…」
リナは、涙ぐみながら、アルトの手を優しく握った。

「ごめん、リナ。心配かけたな」
アルトは、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「でも、大丈夫だ。俺はもっと強くならなきゃいけないんだ。強くならなきゃ、リナや、みんなを守れない。そのためには、時には危険な壁も、乗り越えなきゃいけないんだ」

アルトは、リナの手を握り返し、力強く答えた。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
リナは、そんなアルトの姿を、心配そうに、しかしどこか誇らしげに見つめ返すしかなかった。彼女は、アルトの決意を理解し、それを支える覚悟を、静かに固めていたのかもしれない。

休息期間中、アルトは破損した装備のことも考えなければならなかった。
革鎧と黒曜の剣は、頑鉄工房のボルガン親方の元で、完璧に修理・強化してもらえるだろう。
しかし、ミノタウロスの一撃で砕け散ってしまったバックラーは、もはや修復不可能だった。

アルトは、再び頑鉄工房を訪れた。
砕けたバックラーの残骸と、討伐の証であるミノタウロスの角を見せ、事情を説明する。
ボルガンは、アルトのボロボロの姿と、その戦果に、さすがに驚きを隠せない様子だった。

「ふん…あの程度の盾で、ミノタウロスの突進を受け止めようなどと、全くもって無茶をしおって…。だが、その無茶を乗り越え、生きて帰ってきたお前さんの根性は、ドワーフの戦士としても認めざるを得んな」

ボルガンは、アルトの実力を素直に評価した。そして、力強く提案した。

「これだけの実力をつけたお前さんには、もはやそこらの安物の盾じゃ何の役にも立たんわい。…どうだ?このわしが、お前さんのために、特別な盾を一つ、新たに打ってやる。素材は、お前さんのその黒い剣と同じ、わしが得意とする『夜闇鋼』だ。黒曜の剣と対を成す、最高のバックラーをな。お前さんの妙な反射の力も、最大限に活かせるように、特別に調整してやろう。ただし、時間はかかるし、代金も、お前さんが持ってる金のほとんどをふんだくることになるかもしれんぞ?それでもいいか?」

夜闇鋼で作られた、特製のバックラー。
自分のギフトに合わせて調整された、最高の盾。
それは、アルトにとって、まさに望外の、そして最高の申し出だった。

「ぜひ、お願いします!ボルガン親方!」
アルトは、迷うことなく、深く頭を下げた。
新しい盾の完成が、今から待ち遠しくてたまらなかった。

ミノタウロス討伐という偉業。
そして、ギフト「リフレクト・ショック」の明確な覚醒。
アルトの冒険は、大きな、大きな節目を越え、新たなステージへと突入した。

新しい盾の完成を待ちながら、アルトはエリアーヌと共にギフト制御の訓練を本格化させ、そして、近いうちにBランク冒険者として、次なる依頼に備えることになるだろう。
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