【完結】追放王女は辺境へ

シマセイ

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第十一話:夜明けの決意、そして新たな旅路へ

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レオンハルト辺境伯からの、魂のこもった求婚の言葉。

その夜、フィリアはミモザ村の小さな小屋の窓辺で、満月が照らす夜空をいつまでも見上げていた。

彼の金色の瞳に宿っていた、揺るぎない愛情と決意。

「君の全てを、受け止める覚悟はできている」

その言葉が、何度も何度もフィリアの胸の中で繰り返される。

過去の裏切りがもたらした深い傷は、まだ完全に癒えたわけではない。

人を信じることへの恐怖も、そう簡単には消え去らないだろう。

しかし、レオンハルトの誠実な眼差し、彼が示してくれた数々の優しさ、そして何よりも、フィリアという人間そのものを受け入れようとしてくれるその大きな器に、彼女の心はかつてないほど強く揺さぶられていた。

マーサの言葉が蘇る。

『差し伸べられた手が、本当に温かいものかどうかは、一度勇気を出して握ってみなければ分からんこともあるんじゃないかねぇ。』

夜明けが近づき、東の空が白み始める頃、フィリアの心はようやく一つの答えに辿り着いていた。

怖い。でも、逃げてばかりでは何も変わらない。

この人の手なら、もう一度信じてみたい。

そして、自分の過去とも、いつか必ず向き合わなければならないのだと。

朝日が昇り、ミモザ村が新しい一日の始まりを告げる頃、フィリアはレオンハルト辺境伯の元を訪れた。

彼は、負傷した左肩の治療を受けながらも、既に騎士団長ゲルハルトと今後の村の復興計画について話し合っていた。

フィリアの姿を認めると、レオンハルトはゲルハルトに目配せし、人払いをした。

静まり返った部屋で、フィリアはゆっくりと口を開いた。

「レオンハルト様。昨夜のお言葉……そして、これまでのご厚情に、心より感謝申し上げます。」

彼女は、深々と頭を下げた。

「私には……あなた様にお話しなければならない、重い過去がございます。それは、もしかしたら、あなた様や、グリューネヴァルト辺境伯領にご迷惑をおかけすることになるかもしれない……そんな過去です。」

フィリアの声は、微かに震えていた。

しかし、その青い瞳は、強い決意の色を湛え、真っ直ぐにレオンハルトを見据えている。

「それでも……もし、それでもあなた様のお気持ちが変わらないと仰ってくださるのなら……私は、あなた様と共に、グリューネヴァルトの都へ参りたいと存じます。そして、いつか……いつか必ず、私の全てをお話しできる日が来ると、信じております。」

それは、彼女が絞り出した、精一杯の誠実な返事だった。

レオンハルトは、その言葉を静かに聞き終えると、ゆっくりと立ち上がり、フィリアの前に進み出た。

そして、彼女の華奢な両肩に、そっと手を置いた。

「……フィリア。君のその言葉だけで、十分だ。君がどんな過去を背負っていようとも、私の決意は変わらない。君が話してくれる日を、私はいつまでも待とう。そして、その時が来たら、君の全てを、この私が必ず受け止める。」

彼の金色の瞳には、深い愛情と、絶対的な信頼が溢れていた。

その温かさに、フィリアの目からは、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。

それは、悲しみの涙ではなく、安堵と、そして新たな人生への希望から生まれた、浄化の涙だった。

レオンハルトは、そんなフィリアを、優しく、しかし力強く抱きしめた。

二人の間に、もはや言葉は必要なかった。

フィリアが辺境伯と共にミモザ村を離れるという報せは、すぐに村中に広まった。

村人たちは、皆、寂しさを隠せない様子だったが、それ以上に、フィリアの新たな門出を心から祝福した。

「フィリア、お前さんがいなくなると、この村は灯が消えたように寂しくなるだろうねぇ。」
「じゃが、お前さんの幸せが一番だ。辺境伯様なら、きっとお前さんを幸せにしてくれるだろうよ。」
「時々は、ミモザ村のことも思い出しておくれよ!」

特に、村の長老であるマーサは、自分の娘を嫁に出すかのように、フィリアの手を握り、何度も何度も「達者でな」と繰り返した。

子供たちは、フィリアの足元にまとわりつき、「フィリア先生、行っちゃやだー!」と泣きじゃくったが、フィリアが「また必ず会いに来るからね」と優しく諭すと、涙をこらえて小さな手作りの花飾りを彼女に手渡した。

出発の日まで、あと数日。

フィリアは、その短い時間を惜しむかのように、ミモザ村での最後の日々を過ごした。

村の仕事を手伝い、子供たちと最後の時間を過ごし、そして、お世話になった一人ひとりに、心からの感謝の言葉を伝えた。

そして、出発の朝が来た。

空はどこまでも青く澄み渡り、まるで二人の新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。

レオンハルト辺境伯の一行は、ミモザ村の村人たち総出の見送りを受けて、都へと出発する準備を整えていた。

フィリアは、村人たちから贈られた、素朴だが心のこもった餞別の品々を手に、一人ひとりと別れの挨拶を交わした。

その目には、感謝の涙が光っていた。

「……皆様、本当にお世話になりました。このミモザ村での日々を、私は決して忘れません。いつか必ず、このご恩返しに参ります。」

フィリアが深々と頭を下げると、村人たちから温かい拍手と、「元気でな!」「幸せになるんだぞ!」という声援が送られた。

レオンハルトは、そんなフィリアの姿を、誇らしげな、そして愛情に満ちた眼差しで見守っていた。

やがて、彼がフィリアに手を差し伸べ、彼女はその手をしっかりと握る。

レオンハルトにエスコートされ、彼が用意した、長旅にも耐えられるように頑丈に作られた馬車に乗り込むと、フィリアは最後に一度だけ、ミモザ村を振り返った。

手を振り続ける村人たちの姿、煙突から立ち上る炊事の煙、そして、彼女が愛した素朴な村の風景。

その全てを胸に焼き付け、フィリアは、新たな人生の舞台となる、グリューネヴァルトの都へと、希望と、そしてほんの少しの不安を抱きながら、力強く一歩を踏み出した。

馬車は、ゆっくりとミモザ村を後にし、まだ見ぬ都へと続く道を進み始める。

その隣には、彼女の全てを受け止めると誓ってくれた、誠実で力強い辺境伯の姿があった。

フィリアの心には、確かな温もりと、未来への期待が満ち溢れていた。
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