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第四章 全てを暴いて幸せになります!
68・隠し扉
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「じゃあそろそろ俺は行きますんで、後はお二人でどうぞ」
当たり障りのない言葉でその場を辞そうとするブラウンを、アルヴェリオはじろりと睨んだ。
「何を言っている。裁判までに証拠を見つけて、冤罪疑惑と一緒に追い詰めるぞ」
「……でもどうやって?敵は警戒してるんですよね?もう何かを聞き出すとかのレベルじゃないでしょ」
「だから忍び込む」
「は?」
ブラウンは耳を疑う。
……忍び込む?
現在は便宜上男爵家当主だが、本来であれば王弟殿下の忘れ形見だ。しかも現陛下にはお子はおられず、順当にいけば次期国王……その人が侯爵家に忍び込むだと?
「立場をお考えの上、その軽率なお口を閉じていただけますか」
「慇懃無礼とはお前のことだな。だが時間はない」
「……ライネル様はどうお考えで?」
突然水を向けられたライネルは、戸惑いながらも小さく頷いた。
「確かにいい方法とは言えませんが、アシュレイは悪知恵が働きます。彼が焦っている今、畳み掛けるのがいちばん効果的とは思います」
「ライネル様まで~!」
「そうと決まれば今夜決行だ。早速準備を整えろ」
「あーもう!分かりましたよ!」
半ばヤケクソのようにブラウンは部屋を出て行った。
「ブラウンさん、怒ってますね」
「ああ、いつものことだ。俺が男爵邸に来た時からの付き合いだからな」
「来た時?」
アルヴェリオは優しく微笑んでライネルの髪を撫でる。
「まだ話していなかったな。俺は男爵の実子ではない」
「そうなんですか?」
貴族社会では珍しいことではない。爵位を得るためや、上位貴族との婚姻を進めるため、様々な理由で養子縁組が行われていた。
「俺は幼い頃、市井で生まれ育った。父を亡くし母と二人きりでな」
(それは大変な苦労だったに違いない。)
「あの、言いにくいなら言わなくても大丈夫ですよ」
「いや、ライネルには全部話しておかないと。なんせ結婚するんだからな」
「けっ……!」
アルヴェリオの言う結婚とは正式なものを指すのだろうか。そう思い当たったライネルは慌てて「無理です!」と叫ぶ。
「何故だ?俺が嫌いか?」
「違います!僕は男です!男爵家の後継を産めません!」
「知ってる。それに俺は後を継ぐつもりはない。それは男爵も知っている」
「けれど、アルヴェリオ様の代で家門が途切れたら男爵様が死んでも死にきれないのでは……」
「いや、生きてるぞ」
「え??」
「アシュレイからの追跡を防ぐために、ある人の助けを借りて別の場所で暮らしている」
「そうだったんですか。では解決すればその方が男爵に戻られると?」
「そうだ。元々男爵は自分の代で家門を終えるつもりだった。だから後継はいらない」
その言葉にライネルの胸はドキドキと跳ねた。
「で、では結婚は正式な……あの、愛人とか側室ではなく……」
「当たり前だ。一生ライネルだけを愛すると誓おう。もちろん他に愛人なども作らない」
「!!!!」
夢物語だと思っていた。
お互いだけをずっと思い合う関係なんて。
それが今、ライネルの目の前にあるのだ。
「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたしまし」
ぴょこんと頭を下げるが、噛み過ぎて伝わっているか不安だ。ライネルは恐る恐る顔を上げた。
「……あの、本当に僕でいいのでしょうか」
「ああ、職人村をライネルには譲ることも男爵に了承を得ている。これから先もずっとあの村を二人で盛り立てて行こう」
「はい!」
またみんなと仕事が出来るのだ!
ライネルは幸せ過ぎて夢を見ているのではないかと思う。
「では、その為にもアシュレイにとどめを刺すぞ」
「はい!小屋には僕が案内します!……うちは使用人が少ないので日が落ちたら基本的に庭には誰もいません」
「分かった。では行こう」
そうして三人は、闇に紛れて侯爵邸に向かった。
「……本当に侯爵家の家計は逼迫しているんだな」
アルヴェリオの言葉に、ライネルは乾いた笑いを漏らした。
「それはもう、入ってくる端から使うような金食い虫と言う名の継母がいますから」
こんな家を継がされるかもしれなかったと考えるだけでライネルは震える。
「まあ、簡単に忍び込めたので良しとしましょう」
ブラウンは気にしていない様子でサクサクと歩みを進めていた。
「あ!あそこです」
ライネルが指差したのは、今にも壊れそうな小屋だった。確かに鍵もなければ隠し部屋などあるはずもない建物だ。
「真っ暗なのでランプを着けますよ」
ブラウンの灯した灯りは小屋の中を明るく照らすが、やはり何も変わった所はない。
「やはりここではないのかも。近くを探してみるか」
「いや、待ってください」
ブラウンが朽ちかけた壁の一部を手で撫で始めた。
「……ここ、木に見えますが、鉄です」
「鉄?」
木屑を手で払うと、確かに鍵穴が二つ見えた。
「まさか、ここに隠し部屋が?しかしよく見つけたな。木にしか見えない」
「ええ。昔、これとよく似た隠し扉を見たことがあります」
ブラウンはそう言いながら、鍵穴のついた小さな扉をどうにか開けようとするが、それはびくともしなかった。
「おい、フェルナンドが寄越した鍵が使えるんじゃないか?」
そこでようやく鍵の存在を思い出したブラウンは、鍵穴の一つに手にした鍵を差し込んでみた。
「あ、反応がありました。でも、もう片方の鍵は形が違うようです」
「二つないと開かないってことか」
「そのようですね。もう一つはアシュレイが持っているのでしょう」
「くそっ!ここまで来て。どうにか壊せないのか」
「そうですね。隠し部屋というには小さい気もしますが、がっちりと埋められていて、何かで固定されていますね」
あまり大きな音を立てるわけにもいかない。できる範囲で試してみるが、結局その入り口は開くことはなかった。
「朝まで、まだ時間はある。どうにか方法考えてみよう」
「……待て、誰かの話し声がする」
「分かった。ひとまず隠れよう」
三人は部屋の隅にある木箱の後ろに姿を隠した。
◇◆◆◆◆◆
その日、アシュレイは侯爵邸の自室にいた。あまりのショックにアルヴェリオの顔を見られず、実家に舞い戻ったのだ。
「悔しい。どうして俺がこんな思いをしないといけないんだ」
何でも思い通りになった。
ライネルも、周りの人間たちも。
面白いくらい自分の手の上で踊ったし、誰も逆らわなかった。
それなのにどうしてアルヴェリオは自分のものにならないのか。
「とにかく、男爵の件の証拠を消さないと。いつか使い道があると思って取っておいたが、こうなるとリスクの方が高い」
だが、肝心のフェルナンドが戻ってこない。怪我をして療養していると短い手紙を寄越したまま、音信不通になっているのだ。
「あいつがいないと鍵が開けられない。まったく、怪我くらいで何をやってるんだ」
裁判のことは耳に入っているだろう。恐らく今夜辺り帰ってくるに違いないとアシュレイは思っていた。
そして、その予想通り。
夜になってフェルナンドはアシュレイの前に姿を現した。
けれど、それは酷い状態での帰還だった。
「お前……どうしたんだ」
「申し訳ありません」
フェルナンドは、片足を無くし、利き腕は骨折が治りきらず、だらりと垂れ下がっている。
「どこかで治療をしていたんじゃないのか」
「森の中に潜んでいました。足は腐敗したので切り落としました」
「……何をやってるんだ」
「しくじってしまい、申し訳ありません」
その変わり果てた姿に呆然としたアシュレイは、その後、小さく舌打ちをして顔を背けた。
「小屋に行く。ついて来い」
「はい」
当たり障りのない言葉でその場を辞そうとするブラウンを、アルヴェリオはじろりと睨んだ。
「何を言っている。裁判までに証拠を見つけて、冤罪疑惑と一緒に追い詰めるぞ」
「……でもどうやって?敵は警戒してるんですよね?もう何かを聞き出すとかのレベルじゃないでしょ」
「だから忍び込む」
「は?」
ブラウンは耳を疑う。
……忍び込む?
現在は便宜上男爵家当主だが、本来であれば王弟殿下の忘れ形見だ。しかも現陛下にはお子はおられず、順当にいけば次期国王……その人が侯爵家に忍び込むだと?
「立場をお考えの上、その軽率なお口を閉じていただけますか」
「慇懃無礼とはお前のことだな。だが時間はない」
「……ライネル様はどうお考えで?」
突然水を向けられたライネルは、戸惑いながらも小さく頷いた。
「確かにいい方法とは言えませんが、アシュレイは悪知恵が働きます。彼が焦っている今、畳み掛けるのがいちばん効果的とは思います」
「ライネル様まで~!」
「そうと決まれば今夜決行だ。早速準備を整えろ」
「あーもう!分かりましたよ!」
半ばヤケクソのようにブラウンは部屋を出て行った。
「ブラウンさん、怒ってますね」
「ああ、いつものことだ。俺が男爵邸に来た時からの付き合いだからな」
「来た時?」
アルヴェリオは優しく微笑んでライネルの髪を撫でる。
「まだ話していなかったな。俺は男爵の実子ではない」
「そうなんですか?」
貴族社会では珍しいことではない。爵位を得るためや、上位貴族との婚姻を進めるため、様々な理由で養子縁組が行われていた。
「俺は幼い頃、市井で生まれ育った。父を亡くし母と二人きりでな」
(それは大変な苦労だったに違いない。)
「あの、言いにくいなら言わなくても大丈夫ですよ」
「いや、ライネルには全部話しておかないと。なんせ結婚するんだからな」
「けっ……!」
アルヴェリオの言う結婚とは正式なものを指すのだろうか。そう思い当たったライネルは慌てて「無理です!」と叫ぶ。
「何故だ?俺が嫌いか?」
「違います!僕は男です!男爵家の後継を産めません!」
「知ってる。それに俺は後を継ぐつもりはない。それは男爵も知っている」
「けれど、アルヴェリオ様の代で家門が途切れたら男爵様が死んでも死にきれないのでは……」
「いや、生きてるぞ」
「え??」
「アシュレイからの追跡を防ぐために、ある人の助けを借りて別の場所で暮らしている」
「そうだったんですか。では解決すればその方が男爵に戻られると?」
「そうだ。元々男爵は自分の代で家門を終えるつもりだった。だから後継はいらない」
その言葉にライネルの胸はドキドキと跳ねた。
「で、では結婚は正式な……あの、愛人とか側室ではなく……」
「当たり前だ。一生ライネルだけを愛すると誓おう。もちろん他に愛人なども作らない」
「!!!!」
夢物語だと思っていた。
お互いだけをずっと思い合う関係なんて。
それが今、ライネルの目の前にあるのだ。
「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたしまし」
ぴょこんと頭を下げるが、噛み過ぎて伝わっているか不安だ。ライネルは恐る恐る顔を上げた。
「……あの、本当に僕でいいのでしょうか」
「ああ、職人村をライネルには譲ることも男爵に了承を得ている。これから先もずっとあの村を二人で盛り立てて行こう」
「はい!」
またみんなと仕事が出来るのだ!
ライネルは幸せ過ぎて夢を見ているのではないかと思う。
「では、その為にもアシュレイにとどめを刺すぞ」
「はい!小屋には僕が案内します!……うちは使用人が少ないので日が落ちたら基本的に庭には誰もいません」
「分かった。では行こう」
そうして三人は、闇に紛れて侯爵邸に向かった。
「……本当に侯爵家の家計は逼迫しているんだな」
アルヴェリオの言葉に、ライネルは乾いた笑いを漏らした。
「それはもう、入ってくる端から使うような金食い虫と言う名の継母がいますから」
こんな家を継がされるかもしれなかったと考えるだけでライネルは震える。
「まあ、簡単に忍び込めたので良しとしましょう」
ブラウンは気にしていない様子でサクサクと歩みを進めていた。
「あ!あそこです」
ライネルが指差したのは、今にも壊れそうな小屋だった。確かに鍵もなければ隠し部屋などあるはずもない建物だ。
「真っ暗なのでランプを着けますよ」
ブラウンの灯した灯りは小屋の中を明るく照らすが、やはり何も変わった所はない。
「やはりここではないのかも。近くを探してみるか」
「いや、待ってください」
ブラウンが朽ちかけた壁の一部を手で撫で始めた。
「……ここ、木に見えますが、鉄です」
「鉄?」
木屑を手で払うと、確かに鍵穴が二つ見えた。
「まさか、ここに隠し部屋が?しかしよく見つけたな。木にしか見えない」
「ええ。昔、これとよく似た隠し扉を見たことがあります」
ブラウンはそう言いながら、鍵穴のついた小さな扉をどうにか開けようとするが、それはびくともしなかった。
「おい、フェルナンドが寄越した鍵が使えるんじゃないか?」
そこでようやく鍵の存在を思い出したブラウンは、鍵穴の一つに手にした鍵を差し込んでみた。
「あ、反応がありました。でも、もう片方の鍵は形が違うようです」
「二つないと開かないってことか」
「そのようですね。もう一つはアシュレイが持っているのでしょう」
「くそっ!ここまで来て。どうにか壊せないのか」
「そうですね。隠し部屋というには小さい気もしますが、がっちりと埋められていて、何かで固定されていますね」
あまり大きな音を立てるわけにもいかない。できる範囲で試してみるが、結局その入り口は開くことはなかった。
「朝まで、まだ時間はある。どうにか方法考えてみよう」
「……待て、誰かの話し声がする」
「分かった。ひとまず隠れよう」
三人は部屋の隅にある木箱の後ろに姿を隠した。
◇◆◆◆◆◆
その日、アシュレイは侯爵邸の自室にいた。あまりのショックにアルヴェリオの顔を見られず、実家に舞い戻ったのだ。
「悔しい。どうして俺がこんな思いをしないといけないんだ」
何でも思い通りになった。
ライネルも、周りの人間たちも。
面白いくらい自分の手の上で踊ったし、誰も逆らわなかった。
それなのにどうしてアルヴェリオは自分のものにならないのか。
「とにかく、男爵の件の証拠を消さないと。いつか使い道があると思って取っておいたが、こうなるとリスクの方が高い」
だが、肝心のフェルナンドが戻ってこない。怪我をして療養していると短い手紙を寄越したまま、音信不通になっているのだ。
「あいつがいないと鍵が開けられない。まったく、怪我くらいで何をやってるんだ」
裁判のことは耳に入っているだろう。恐らく今夜辺り帰ってくるに違いないとアシュレイは思っていた。
そして、その予想通り。
夜になってフェルナンドはアシュレイの前に姿を現した。
けれど、それは酷い状態での帰還だった。
「お前……どうしたんだ」
「申し訳ありません」
フェルナンドは、片足を無くし、利き腕は骨折が治りきらず、だらりと垂れ下がっている。
「どこかで治療をしていたんじゃないのか」
「森の中に潜んでいました。足は腐敗したので切り落としました」
「……何をやってるんだ」
「しくじってしまい、申し訳ありません」
その変わり果てた姿に呆然としたアシュレイは、その後、小さく舌打ちをして顔を背けた。
「小屋に行く。ついて来い」
「はい」
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