姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

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第三王子

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 私は言葉を選びながら、ゆっくりと時間をかけて全部を話した。
 エドモントは何度も頷いて、相槌を打って、しっかりと聞いてくれた。

「なるほど。毒を盛って貴女の体調を崩し、第一王子との接点を奪い取ってから伝令役となり、お互いに深紅を利用してヘイトを与え、疑心暗鬼にさせた状態で取り入ったのか。おそらく、泣き落としだろう」
「でしょうね……あの、私は誓ってエレナをいたぶってなどおりません」

 むしろめそめそと泣く彼女をずっと励ましていたのだ。
 もっとも、それも演技だったのだろう。
 ほとんど毎回、泣いてしまう彼女を励まして仕事へ送り込んでいた。つまり、私の部屋から出たエレナは泣いている。使用人たちも目撃するわけで、当然、変な噂として流れたのだろう。

 エレナはそれを最大限利用したのだ。

 そして鳥篭の中にいた私は何も知らなかった。他の使用人も、私の目の前でそんな噂などするはずがないからだ。
 狡猾なやり口だ。

「もちろんです。我が家にきてからの貴女は、常に聡明で誠実だ。使用人が毎回お礼を言ってくれると感激していました」

 それは公爵家にいた頃からの教えだからだ。
 使用人は仕事で世話をしているのであって、常に感謝の心を忘れてはならぬ、と。同時に、だからこそ仕事に対しては厳しくあれ、という教訓だ。

 私はただ、それに従っていただけだ。

 とはいえ、我儘な令嬢ならば勝手は違うのだろうけれど。
 私はそういうものとは縁遠い。

「しかし、問題は第一王子ですね。彼女の浅ましさを見抜けないとは……」
「不敬ですよ、エドモント」
「いや、事実だから構わないさ」

 声は後ろからした。
 振り返ると、パールイエローの髪で片目を隠す少年のような男がたっていた。だが、身にまとう服で分かる。彼は王家、それも直接の血統のものだ。
 僅かに、私の記憶にも引っかかった。
 確か、一回か二回しか目に掛かっていないが――

「第三王子……グスタフ様っ」
「やぁ。覚えててくれたんだ。嬉しいよ」

 気さくに手を振りながら、グスタフ様は近寄ってくる。親しみやすい雰囲気の奥に、油断できない何かが潜んでいる。私は緊張した。
 そんな私を庇うように、エドモントが前に出てくれる。
 だがその表情はとても砕けていた。

「なんだ。来ていたのなら教えてくれればいいのに」
「サプライズしようと思って」
「おまえなぁ……」

 ずいぶんと親しい様子だ。いや、確か、エドモントはグスタフ様と幼馴染だと聞いた。親友と呼べる間柄なのだろう。

「それよりも、聞かせてもらったよ。あのバカ兄貴、あんな薄っぺらい女にだまされてるんだ? バッカだねぇ」
「容赦ないな」
「身内だからね。あの人は王としての資質はあるけれど、人間としての資質はないから。まったく、良く言えばバカ正直の真っ直ぐでお人よし。悪く言えばカモだねカモ」

 本当に容赦がない。
 肩をすかして言うグスタフ様は呆れている様子だったが、飄々とした笑顔の奥に明確な怒りが滲んでいた。
 ぞわり、と寒気がするほどの勢いだ。

「けど、兄貴には違いないからね。変な虫は剥ぎ取ってやらないと。それが弟であり、王国の《武王》を冠するボクの役目でしょ」
「グスタフ」
「だからボクにも片棒担がせてよ。って言っても、エドモントのことだからそのつもりだったんだろ?」
「まぁな。俺は地方領主の子爵の息子に過ぎないからな。手の出しようがない」

 言われてみればその通りだ。
 王家への謁見も、特別な事情がない限りはかなわないだろう。でも、グスタフ様がいれば別だ。彼は王家でも直系。第三王位継承者だ。

 しかも、王国でも武の面を担当している、とても優秀な人でもある。

 第一王子とは違うキレものだ。
 彼が味方になるなら、かなり心強い。

「一番手っ取り早いのはあのバカ兄貴の顔面を殴って目を覚まさせることなんだろうけれど、現状、それは難しいんだよね」

 既に何らかの調査はしていたらしいグスタフ様は、両手を後頭部で組んで口をすぼめる。ちょっと少年ぽくてかわいい。くりくりした目や可愛らしい顔つきにも良く似合う。

「難しい?」
「彼女の貴族としての振る舞いは完璧なのさ。婚約破棄から婚約発表。そしてそれからの流れ。全部観察させたけど、彼女に隙はない。さすが公爵家が手塩にかけて教育しただけあるよ」

 軽いイヤミをぶつけられてしまったのか?

「ああ、いや気を悪くしないでね。そういう意味じゃないから。あの女が公爵家の好意を利用しているわけで、公爵家が悪いわけじゃないよ、ごめんね」

 少しばかり顔に出ていたらしい。
 慌てた様子で謝るグスタフ様に、私も一礼で返す。ここで遺恨を残すわけにはいかない。目的はエレナだ。

「頑張れば君に毒を盛った証拠や、嘘を利用して二人を騙して付け入ったという事実は立証できると思う。でもそうなったら王家の怒りに触れるし、彼女は確実に消されるだろうね。まぁそれは良いとして、そうなると王家は元の鞘に戻そうとすると思うんだよね、父上の性格と気質的に」
「つまり、私がまた第一王子の妃に?」
「そういうこと。王家として最大限の謝罪をこめて、今まで以上の待遇で迎え入れられることだろうね。アリスタ。君はそれを望むのかい?」

 真っ直ぐに問われ、私は戸惑った。ついで、エドモントからの視線が注がれる。
 エドモントからはたったついさっき、愛を語られたのだ。

 戸惑ったのは、いきなりの言葉だったからだ。

 私の心は決まっている。
 私はゆっくりと頭を振った。

「いいえ。私は王家の元へ妃として戻るつもりはありません」

 その宣言に、エドモントも、グスタフ様も満足そうに頷いた。

「よし、じゃあ作戦会議といこう」
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