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名誉のために
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「作戦会議、ですか?」
「そうだよ。貴族界隈からすると、君は辺境地へ追い出された妃だ。身分は低く、田舎貴族の嫁になるのだから。だからエレナたちも油断するだろうね。もう二度と君が第一王子の前に立つことはない、と」
意気揚々にグスタフ様は語る。身分の低い田舎貴族と評されたエドモントは苦笑していた。
「けれど、やはり転生者だね。彼女からすれば、王子とくっついた時点でエンディングなんだ。たぶん、彼女の知るゲームの世界では、ボクか兄二人の誰かとくっつければグッドエンディングなんじゃない?」
「つまり、この先に何があるか分からない、いや、知らないのか。やはりそこは弱点になるのだな」
「そうなるね。そこに付け入るチャンスはある」
ふふ、とグスタフは野蛮に舌をぺろっと出した。
それでも可愛く見えてしまうのは、甘いマスクのせいだろう。
「これから二週間後、王国は戦争に突入する」
そんな表情とは裏腹に、放つ言葉は強烈だった。
とはいえ私も公爵家の娘だ。三ヵ月後に行われる戦争のことは知っている。パルティナと呼ばれる地方で勃発している紛争の調停だ。
隣にある帝国の圧政に耐えかねて起きた紛争で、かねてから帝国の民を慮らない独裁政治を王国は否定していたこともあって、レジスタンス側についている。
その派兵がついに決定する。
予定では今日に承認され、貴族たちに発布されるはずだ。
貴族たちは一週間の準備期間で兵士を用意し、遠征する。当然宣戦布告も行われるので、帝国も対抗してくるだろう。
つまり、戦争だ。
「当然だけど、総指揮は《武王》であるボクが執る。もちろん負けないよ。それで、彼には参謀としてついてきてもらう」
「エドモント様を、ですか?」
「ああ。彼は軍略を考えさせたらピカイチだからね」
手放しの評に、エドモントも応じるように胸をはった。
単なる幼馴染という関係ではなさそうだ。私は、とんでもない人に助けられたのかもしれない。
「派兵期間はおよそ三ヶ月。ボクと彼は必ず武勲を挙げて帰ってくる。でも、そこで終わりじゃない」
どうやら作戦会議はここかららしい。
気を引き締めると、グスタフ様は頷いてくれた。
「戦争には死傷者がどうしても付きまとう。それで、傷ついた兵たちの治療問題が出てきてしまう。戦後処理の会議なんてものは、それこそ兄上たちの領分だけれどさ、兵士たちの問題はボクが何とかしてやらないといけない」
「そこで白羽の矢が立ったんだよ、この領地に」
この、領地に?
言外に周囲を見渡せと主張され、私は庭園を見渡す。豪勢ではないが、品の良い若緑が映える美しい庭園だ。仄かに漂ってくる香りも爽やかだし、時折に鳥のさえずりも聞こえる。
とても居心地が良い。
生えている植物も小ぶりだけど色とりどりの……あれ?
この植物たち、もしかして、全部薬草では?
はっと気づいた私は思わずエドモントを見る。
「よく勉強していますね、さすがです」
「ちょろっと聞いたかもしれないけれど、ここの領地は薬草が良く育つんだ。それに質も上質だ。特産品と言ってもいいくらいだね」
「つまり、ここで薬草をたくさん育てるのですね」
「そのとおり。薬草はあるだけあって困らないものだ。大半は自国で消費できるけれど、余るようなら輸出すればいい。高値で売れる。経済的寄与は大きいんだ」
狙いがだんだんと読めてきた。
薬草を大量生産することで自国の兵士を守り、さらに輸出まで狙うことで経済的にも影響力を持つ。さらにエドモントが《武王》の右腕として辣腕を奮えば、子爵という身分から格上げされるのは明白だ。
つまり、王室に出向くチャンスが芽生える。
そのタイミングで、エレナに対して何か仕掛けるのだろう。
グスタフ様はかなり頭が良い。
高い知力に感心していると、エドモントは少しだけ表情を暗くさせた。
「けれど、問題もある」
「どのような問題でしょうか?」
「薬草の管理だ。ここは土地柄、たくさんの薬草が自生している。今まではその生態系を崩さない程度に収穫し、加工していた。だが、それだと不安定だし、生産管理しているわけではないから収穫量にもバラつきがある。何より量が少なくて、特産品にはなりえなかった」
ふむ。つまり。
「それを克服するために、プラントを作るのですね」
「そうなんだ。技術はグスタフの寄与もあって確立されたけれど、技術を継承する担い手がごく僅かだ。生産体制を整えるにしても、土地を耕し、薬草を正しく管理できる働き手を育てなければならない。そこで、アリスタ。君に頼みたい」
「私がエドモント様の代理として指揮を執ればよろしいのですね」
「そうなる。父上はもう引退するからお願いできないんだ。貴女しかいない」
「何より、適任だと思うんだよね。教養もあるし」
内助の功、というわけだ。
エドモントが外で頑張っている間、領地経営の一部を私が担う。ちゃんと成功させれば、出来の良い夫婦という外聞が広まっていく。私の汚名も返上されることだろう。
問題があるとすれば、私に薬草を管理する知識が足りないことだ。
「私に拒否する理由などありません。しかしながら、知識が足りません」
「もちろんそれは、我々が助ける。出兵するまでの間、短い期間だがしっかりと教えようと思うんだ」
「それであれば、快く引き受けさせていただきます」
私は自分の胸に手を当てて誓う。
まずは名誉の復活。
私の中に活力が戻ってきた。そうだ。いつまでもくよくよしていられない。
「そうだよ。貴族界隈からすると、君は辺境地へ追い出された妃だ。身分は低く、田舎貴族の嫁になるのだから。だからエレナたちも油断するだろうね。もう二度と君が第一王子の前に立つことはない、と」
意気揚々にグスタフ様は語る。身分の低い田舎貴族と評されたエドモントは苦笑していた。
「けれど、やはり転生者だね。彼女からすれば、王子とくっついた時点でエンディングなんだ。たぶん、彼女の知るゲームの世界では、ボクか兄二人の誰かとくっつければグッドエンディングなんじゃない?」
「つまり、この先に何があるか分からない、いや、知らないのか。やはりそこは弱点になるのだな」
「そうなるね。そこに付け入るチャンスはある」
ふふ、とグスタフは野蛮に舌をぺろっと出した。
それでも可愛く見えてしまうのは、甘いマスクのせいだろう。
「これから二週間後、王国は戦争に突入する」
そんな表情とは裏腹に、放つ言葉は強烈だった。
とはいえ私も公爵家の娘だ。三ヵ月後に行われる戦争のことは知っている。パルティナと呼ばれる地方で勃発している紛争の調停だ。
隣にある帝国の圧政に耐えかねて起きた紛争で、かねてから帝国の民を慮らない独裁政治を王国は否定していたこともあって、レジスタンス側についている。
その派兵がついに決定する。
予定では今日に承認され、貴族たちに発布されるはずだ。
貴族たちは一週間の準備期間で兵士を用意し、遠征する。当然宣戦布告も行われるので、帝国も対抗してくるだろう。
つまり、戦争だ。
「当然だけど、総指揮は《武王》であるボクが執る。もちろん負けないよ。それで、彼には参謀としてついてきてもらう」
「エドモント様を、ですか?」
「ああ。彼は軍略を考えさせたらピカイチだからね」
手放しの評に、エドモントも応じるように胸をはった。
単なる幼馴染という関係ではなさそうだ。私は、とんでもない人に助けられたのかもしれない。
「派兵期間はおよそ三ヶ月。ボクと彼は必ず武勲を挙げて帰ってくる。でも、そこで終わりじゃない」
どうやら作戦会議はここかららしい。
気を引き締めると、グスタフ様は頷いてくれた。
「戦争には死傷者がどうしても付きまとう。それで、傷ついた兵たちの治療問題が出てきてしまう。戦後処理の会議なんてものは、それこそ兄上たちの領分だけれどさ、兵士たちの問題はボクが何とかしてやらないといけない」
「そこで白羽の矢が立ったんだよ、この領地に」
この、領地に?
言外に周囲を見渡せと主張され、私は庭園を見渡す。豪勢ではないが、品の良い若緑が映える美しい庭園だ。仄かに漂ってくる香りも爽やかだし、時折に鳥のさえずりも聞こえる。
とても居心地が良い。
生えている植物も小ぶりだけど色とりどりの……あれ?
この植物たち、もしかして、全部薬草では?
はっと気づいた私は思わずエドモントを見る。
「よく勉強していますね、さすがです」
「ちょろっと聞いたかもしれないけれど、ここの領地は薬草が良く育つんだ。それに質も上質だ。特産品と言ってもいいくらいだね」
「つまり、ここで薬草をたくさん育てるのですね」
「そのとおり。薬草はあるだけあって困らないものだ。大半は自国で消費できるけれど、余るようなら輸出すればいい。高値で売れる。経済的寄与は大きいんだ」
狙いがだんだんと読めてきた。
薬草を大量生産することで自国の兵士を守り、さらに輸出まで狙うことで経済的にも影響力を持つ。さらにエドモントが《武王》の右腕として辣腕を奮えば、子爵という身分から格上げされるのは明白だ。
つまり、王室に出向くチャンスが芽生える。
そのタイミングで、エレナに対して何か仕掛けるのだろう。
グスタフ様はかなり頭が良い。
高い知力に感心していると、エドモントは少しだけ表情を暗くさせた。
「けれど、問題もある」
「どのような問題でしょうか?」
「薬草の管理だ。ここは土地柄、たくさんの薬草が自生している。今まではその生態系を崩さない程度に収穫し、加工していた。だが、それだと不安定だし、生産管理しているわけではないから収穫量にもバラつきがある。何より量が少なくて、特産品にはなりえなかった」
ふむ。つまり。
「それを克服するために、プラントを作るのですね」
「そうなんだ。技術はグスタフの寄与もあって確立されたけれど、技術を継承する担い手がごく僅かだ。生産体制を整えるにしても、土地を耕し、薬草を正しく管理できる働き手を育てなければならない。そこで、アリスタ。君に頼みたい」
「私がエドモント様の代理として指揮を執ればよろしいのですね」
「そうなる。父上はもう引退するからお願いできないんだ。貴女しかいない」
「何より、適任だと思うんだよね。教養もあるし」
内助の功、というわけだ。
エドモントが外で頑張っている間、領地経営の一部を私が担う。ちゃんと成功させれば、出来の良い夫婦という外聞が広まっていく。私の汚名も返上されることだろう。
問題があるとすれば、私に薬草を管理する知識が足りないことだ。
「私に拒否する理由などありません。しかしながら、知識が足りません」
「もちろんそれは、我々が助ける。出兵するまでの間、短い期間だがしっかりと教えようと思うんだ」
「それであれば、快く引き受けさせていただきます」
私は自分の胸に手を当てて誓う。
まずは名誉の復活。
私の中に活力が戻ってきた。そうだ。いつまでもくよくよしていられない。
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