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反撃の狼煙
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《武王》であるグスタフ様の右腕として、エドモントは想定以上の活躍を見せた。結果、帝国側の総大将を討ち取り、大勝利へと導く。
それからは私の出番だ。
傷ついた兵士たちのために、丹精こめて作り上げた薬草や、それらから抽出した薬を送り届け、私も陣頭にたって治療に当たった。薬たちの効果は目覚しく、助からないと思っていた兵士たちも助かった。
たくさんの感謝が届いた。
いつしか、私は《癒し手の聖女》なんて二つ名をいただくようになり、夫婦そろって王国に大変な貢献をしたと認められ、辺境伯に任ぜられた。地方において大きい権力を有したことになる。
この事実を受けて、実家との冷え切った関係も改善されていった。
元々父が情け深いこともあるが、エドモントとグスタフ様が父を説得してくれたのだ。エレナによって私が貶められた事実を伝え、味方になってくれる約束も取り付けた。
この後ろ盾を武器に、エドモントは奇策を打って出た。
ある種の賭けにもなるが、グスタフ様の協力もあって、実行に移される。
第一段階として、第一王子の失態だ。深紅を目にしてしまったが故に馬の統制を失い、落馬してケガをしたという芝居を打ってもらった。
第三王子で《武王》であるグスタフ様がまた功績をあげた直後ということもあり、王室内では第一王子の資質を疑う声が囁かれるようになる。
さらに第二王子で《智王》とも呼ばれる方も功績をあげたことが決定打になる。
エレナは第一王子を見限るようにして、第二王子や第三王子へ接近してきたのである。なんとも早い身代わりである。
だがそれは疑似餌だ。
第三王子はその気になった様子を見せ、第一王子が邪魔だと訴えるようになる。すると、エレナはあっさりと第一王子を毒殺するべしと、私と同じ毒を盛るようになったのだ。
これを知った第一王子の落胆は大きかった。
だが、厳然とした事実を突きつけられては反論のしようもない。もちろんその毒を口にいれることなく、第一王子は体調不良で寝込んだことになった。
同時に、密かに《癒し手の聖女》である私へ招聘がかけられる。
準備は全て整ったのだ。
どれくらいぶりだろうか。
私はエレナが――第三王子の手引きで――エレナが外出している間に王城へ登城し、完璧な所作で謁見を済ませ、第一王子と面会する。
ひとしきり侘びを申し入れられたので、私は全て受け入れた。ここで遺恨を残すつもりはないし、第一王子も騙された側だったのだ。何より今の私は幸せで満たされていて、恨みもない。
うらむべきは、エレナただ一人だ。
その日の晩、仕掛けは整う。
説明を済ませた国王陛下に呼ばれ、第一王子の寝室に一同は集められる。そこに入ってきたのは、私だ。エレナが私を認めたとたん、目を大きくさせて驚く。
すかさず第三王子が「どうしたの」と一撃を叩きいれていた。
「《癒し手の聖女》として馳せ参じました。王子の診察を」
私は恭しく一礼し、第一王子の診察を行う。毒を盛られないようにしていたはずだが、一応心配なので本当の薬草を煎じた茶を飲んでもらう。
そして、私は口を開いた。
「これは、毒ですね」
この一言が、はじまりだ。
「毒って、どういうこと?」
打ち合わせ通り、第三王子たるグスタフ様が食いついてくる。私は穏やかに踵を返してから、大きく頷いた。
「症状からして、グエーリプの実です。この果実は栽培が容易で、毒性そのものも継続してそれなりの量を摂取しない限りは問題ありません」
「……それって、裏を返せば継続して摂取させられてたってこと?」
「そうなります」
ハッキリ認めると、周囲がざわついた。
その中で、グスタフ様は険しい表情だ。
「大変なことだね。王室としてあってはならないことじゃない? 父上」
「そうだな。早急に調べあげねばならん」
「それであれば、すぐに特定できる方法があります」
私は静かに提案する。エレナは大きく動揺したのを見逃さない。
「グエーリプというのは背の低い樹木で、ちょっとした草むらにも紛れ込みます。生命力も強く、多少の悪環境ではへたれません。しかし、株によって毒の成分が変わるという特徴があります」
「ほう」
「毒は水に溶けやすく、食器などには残りにくいのも特徴です。ですから、第一王子の体内から排出された毒の成分と一致する株を探せば、入手経路が判明します」
淡々と告げる中、エレナが少しずつ後退していく。部屋から出ようとするつもりか。もう無駄だ。貴女はもう、蜘蛛の巣にしっかりとかかっている。
「それもそうだね。そして継続的に摂取、ということは、継続的に毒を盛り続けたってことだよね? 王室の食事に、誰がどうやって? 毒見もいるのに」
「食事に限ったことではありません。お茶にも紛れ込ませられますから。ですが、すぐに分かるかと思います。というか、心当たりがありますから」
また私に注目が集まる。
そのタイミングで、私はしっかりとエレナを睨みつけた。
「あなたよね? エレナ」
私からの、宣戦布告だ。
それからは私の出番だ。
傷ついた兵士たちのために、丹精こめて作り上げた薬草や、それらから抽出した薬を送り届け、私も陣頭にたって治療に当たった。薬たちの効果は目覚しく、助からないと思っていた兵士たちも助かった。
たくさんの感謝が届いた。
いつしか、私は《癒し手の聖女》なんて二つ名をいただくようになり、夫婦そろって王国に大変な貢献をしたと認められ、辺境伯に任ぜられた。地方において大きい権力を有したことになる。
この事実を受けて、実家との冷え切った関係も改善されていった。
元々父が情け深いこともあるが、エドモントとグスタフ様が父を説得してくれたのだ。エレナによって私が貶められた事実を伝え、味方になってくれる約束も取り付けた。
この後ろ盾を武器に、エドモントは奇策を打って出た。
ある種の賭けにもなるが、グスタフ様の協力もあって、実行に移される。
第一段階として、第一王子の失態だ。深紅を目にしてしまったが故に馬の統制を失い、落馬してケガをしたという芝居を打ってもらった。
第三王子で《武王》であるグスタフ様がまた功績をあげた直後ということもあり、王室内では第一王子の資質を疑う声が囁かれるようになる。
さらに第二王子で《智王》とも呼ばれる方も功績をあげたことが決定打になる。
エレナは第一王子を見限るようにして、第二王子や第三王子へ接近してきたのである。なんとも早い身代わりである。
だがそれは疑似餌だ。
第三王子はその気になった様子を見せ、第一王子が邪魔だと訴えるようになる。すると、エレナはあっさりと第一王子を毒殺するべしと、私と同じ毒を盛るようになったのだ。
これを知った第一王子の落胆は大きかった。
だが、厳然とした事実を突きつけられては反論のしようもない。もちろんその毒を口にいれることなく、第一王子は体調不良で寝込んだことになった。
同時に、密かに《癒し手の聖女》である私へ招聘がかけられる。
準備は全て整ったのだ。
どれくらいぶりだろうか。
私はエレナが――第三王子の手引きで――エレナが外出している間に王城へ登城し、完璧な所作で謁見を済ませ、第一王子と面会する。
ひとしきり侘びを申し入れられたので、私は全て受け入れた。ここで遺恨を残すつもりはないし、第一王子も騙された側だったのだ。何より今の私は幸せで満たされていて、恨みもない。
うらむべきは、エレナただ一人だ。
その日の晩、仕掛けは整う。
説明を済ませた国王陛下に呼ばれ、第一王子の寝室に一同は集められる。そこに入ってきたのは、私だ。エレナが私を認めたとたん、目を大きくさせて驚く。
すかさず第三王子が「どうしたの」と一撃を叩きいれていた。
「《癒し手の聖女》として馳せ参じました。王子の診察を」
私は恭しく一礼し、第一王子の診察を行う。毒を盛られないようにしていたはずだが、一応心配なので本当の薬草を煎じた茶を飲んでもらう。
そして、私は口を開いた。
「これは、毒ですね」
この一言が、はじまりだ。
「毒って、どういうこと?」
打ち合わせ通り、第三王子たるグスタフ様が食いついてくる。私は穏やかに踵を返してから、大きく頷いた。
「症状からして、グエーリプの実です。この果実は栽培が容易で、毒性そのものも継続してそれなりの量を摂取しない限りは問題ありません」
「……それって、裏を返せば継続して摂取させられてたってこと?」
「そうなります」
ハッキリ認めると、周囲がざわついた。
その中で、グスタフ様は険しい表情だ。
「大変なことだね。王室としてあってはならないことじゃない? 父上」
「そうだな。早急に調べあげねばならん」
「それであれば、すぐに特定できる方法があります」
私は静かに提案する。エレナは大きく動揺したのを見逃さない。
「グエーリプというのは背の低い樹木で、ちょっとした草むらにも紛れ込みます。生命力も強く、多少の悪環境ではへたれません。しかし、株によって毒の成分が変わるという特徴があります」
「ほう」
「毒は水に溶けやすく、食器などには残りにくいのも特徴です。ですから、第一王子の体内から排出された毒の成分と一致する株を探せば、入手経路が判明します」
淡々と告げる中、エレナが少しずつ後退していく。部屋から出ようとするつもりか。もう無駄だ。貴女はもう、蜘蛛の巣にしっかりとかかっている。
「それもそうだね。そして継続的に摂取、ということは、継続的に毒を盛り続けたってことだよね? 王室の食事に、誰がどうやって? 毒見もいるのに」
「食事に限ったことではありません。お茶にも紛れ込ませられますから。ですが、すぐに分かるかと思います。というか、心当たりがありますから」
また私に注目が集まる。
そのタイミングで、私はしっかりとエレナを睨みつけた。
「あなたよね? エレナ」
私からの、宣戦布告だ。
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