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エレナ、その心
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心も身体も満たされる中、私は必要な技術と知識を習得し、エドモントを見送った。とても心配だが、《武王》であるグスタフ様がいる。必ず無事で戻ってくるだろう。今は信じるしかない。
何より、私には使命がある。
この三ヶ月で、薬草を育て上げるのだ。
薬草はとても繊細だ。土も水も気候も大事にしないといけない。毎日ちゃんと目配り気配りする必要がある。
もちろん私一人では限界がある。
だからこそ、技術を持つ職人が必要不可欠だった。私は薬草を管理しつつ、職人の育成にも着手した。人に何かを教えるというのはとても大変で、時にはぶつかったりもしたが、それでも多くの職人がついてきてくれた。
一ヶ月も経てば職人の数もそろって、プラントは広くなっていく。
エドモントやグスタフから目的とする量を確保するため、私も毎日土にまみれるが、充実していた。毎日がこんなに楽しいなんて!
そして日々を過ごしていくうちに、このあたりの気候がとても穏やかで恵まれていることにも気づいた。
水源も豊かだし、森も多い。
薬草だけでなく、色々な作物も育ちそうな土壌だ。薬草が一息つけば、他にも何か育てられるかもしれない。
そんなことも思っていたある日のことだった。
今日はプラントを拡大する日で、朝から土を耕していた。この領地に手持ち無沙汰な人員なんていないし、耕す土は自分で確認しておきたい。土にあった薬草を植えなければならないからだ。
ある程度狙いはつけているけれど、それでも育てる薬草が代わったりするのである。それもまた楽しい。
「あははっ、噂は本当だったようね。クリムゾンレッド」
心底バカにするような声と名を呼ばれ、私は弾かれるように振り向いた。
辛うじて舗装されている道の上、使用人に日傘まで差させているのは、派手な装飾の施された、黄色のドレスを身に纏う女。
頭には、王家を証明するティアラ。
「エレナ……!」
「エレナ様よ。分を弁えなさい。田舎もの」
名を呼ぶと、傲慢な口調でやり返されてしまった。
ずいぶんと変わった。いや、これが本性なのだろうか。なんと醜い。
「それならば、そちらも訂正したらいかが? 私はクリムゾンレッドなどではありません」
「はっ。下賤風情が、私に求めるんじゃないわよ。私は第一王子の妃よ」
すっかり醜い表情で、エレナは上から目線で圧力をかけてくる。
けれど、そんな薄っぺらいものに屈する私ではない。
「第一王子の妃であるならば、なおさら王家としての品格が必要ではなくて? 私は確かに子爵の嫁ですが、公爵家の娘でもあります。仮にも王家に連なるものが、密接に関わりあう貴族に対し、一方的な無礼を働くとは何事ですか」
ぴしゃりと言い返すと、エレナはようやく口をつぐんだ。とはいえ、不満だらけの表情だが。
「それよりも、どのようなご用件で? 妃がこのような田舎に?」
「領地の見回りよ。後々は王妃になるんだから、支配下がどのようなことをしているのか、視察は必要でしょう」
こんな有事に、何をのうのうと。許可する第一王子も第一王子だ。
今、まさにエドモントやグスタフ様は命をかけているというのに。
「転生者と聞いていたけれど、傲慢ね」
「あら、知ってたんだ。ははっ。じゃあ、とっておきを教えてあげるわ。私は確かに転生者。前世では、この世界はソシャゲの世界だったわ。だから私は攻略をしたの。そのゲームの世界じゃ、主人公はあなただったわ」
「私……?」
「そう。エレナである私は、そんな主人公を妹として、使用人として献身的に支えるモブキャラ。いえ、チュートリアル係でもあり、日々攻略のアドバイスを語る便利屋ポジションだったわ。私はそんなものに転生させられて、許せなかった」
闇だ。
私は今、エレナの闇を見ている。何を言っているのか、あまり理解できないけれど、どろどろとした黒い感情だけは伝わってくる。
「だから攻略することにしたのよ。エレナとしてね。どう? どうかしら。本来なら華やかな生活を送れるはずだったのに、単なるモブキャラにのっとられた気分というものは。是非教えて欲しいわね」
そして、とことん歪んでいる。私は嫌悪しか感じられなかった。
こんな娘を、私は妹として慕っていたのか。
なんと情けない。
「お答えしかねますわね」
だから、冷たく返した。
エレナはつまらなさそうにため息をつく。
「あらそう。まぁそういう性格だもんね。泣き喚いて欲しかったけれど。まぁいいわ。もう二度と会うこともないだろうし。さようなら。土と一緒に元気でね」
エレナはそう言ってから、一度も振り返ることなく立ち去っていった。
反対に、私は一切目を離さなかった。
エレナは、彼女はもういない。
あれは、人の形をした怪物だ。自分勝手な思考で私を歪ませた。許せない思いはある。けれど、それよりも何よりも許せないのは、私の生きる世界をバカにしたことだ。
そればかりは、放置しておけない。
そんな誓いを立てて、数ヶ月。
エドモントたちは、無事に武勲を挙げて凱旋してきた。同時にそれは、エレナへの反撃の狼煙である。
何より、私には使命がある。
この三ヶ月で、薬草を育て上げるのだ。
薬草はとても繊細だ。土も水も気候も大事にしないといけない。毎日ちゃんと目配り気配りする必要がある。
もちろん私一人では限界がある。
だからこそ、技術を持つ職人が必要不可欠だった。私は薬草を管理しつつ、職人の育成にも着手した。人に何かを教えるというのはとても大変で、時にはぶつかったりもしたが、それでも多くの職人がついてきてくれた。
一ヶ月も経てば職人の数もそろって、プラントは広くなっていく。
エドモントやグスタフから目的とする量を確保するため、私も毎日土にまみれるが、充実していた。毎日がこんなに楽しいなんて!
そして日々を過ごしていくうちに、このあたりの気候がとても穏やかで恵まれていることにも気づいた。
水源も豊かだし、森も多い。
薬草だけでなく、色々な作物も育ちそうな土壌だ。薬草が一息つけば、他にも何か育てられるかもしれない。
そんなことも思っていたある日のことだった。
今日はプラントを拡大する日で、朝から土を耕していた。この領地に手持ち無沙汰な人員なんていないし、耕す土は自分で確認しておきたい。土にあった薬草を植えなければならないからだ。
ある程度狙いはつけているけれど、それでも育てる薬草が代わったりするのである。それもまた楽しい。
「あははっ、噂は本当だったようね。クリムゾンレッド」
心底バカにするような声と名を呼ばれ、私は弾かれるように振り向いた。
辛うじて舗装されている道の上、使用人に日傘まで差させているのは、派手な装飾の施された、黄色のドレスを身に纏う女。
頭には、王家を証明するティアラ。
「エレナ……!」
「エレナ様よ。分を弁えなさい。田舎もの」
名を呼ぶと、傲慢な口調でやり返されてしまった。
ずいぶんと変わった。いや、これが本性なのだろうか。なんと醜い。
「それならば、そちらも訂正したらいかが? 私はクリムゾンレッドなどではありません」
「はっ。下賤風情が、私に求めるんじゃないわよ。私は第一王子の妃よ」
すっかり醜い表情で、エレナは上から目線で圧力をかけてくる。
けれど、そんな薄っぺらいものに屈する私ではない。
「第一王子の妃であるならば、なおさら王家としての品格が必要ではなくて? 私は確かに子爵の嫁ですが、公爵家の娘でもあります。仮にも王家に連なるものが、密接に関わりあう貴族に対し、一方的な無礼を働くとは何事ですか」
ぴしゃりと言い返すと、エレナはようやく口をつぐんだ。とはいえ、不満だらけの表情だが。
「それよりも、どのようなご用件で? 妃がこのような田舎に?」
「領地の見回りよ。後々は王妃になるんだから、支配下がどのようなことをしているのか、視察は必要でしょう」
こんな有事に、何をのうのうと。許可する第一王子も第一王子だ。
今、まさにエドモントやグスタフ様は命をかけているというのに。
「転生者と聞いていたけれど、傲慢ね」
「あら、知ってたんだ。ははっ。じゃあ、とっておきを教えてあげるわ。私は確かに転生者。前世では、この世界はソシャゲの世界だったわ。だから私は攻略をしたの。そのゲームの世界じゃ、主人公はあなただったわ」
「私……?」
「そう。エレナである私は、そんな主人公を妹として、使用人として献身的に支えるモブキャラ。いえ、チュートリアル係でもあり、日々攻略のアドバイスを語る便利屋ポジションだったわ。私はそんなものに転生させられて、許せなかった」
闇だ。
私は今、エレナの闇を見ている。何を言っているのか、あまり理解できないけれど、どろどろとした黒い感情だけは伝わってくる。
「だから攻略することにしたのよ。エレナとしてね。どう? どうかしら。本来なら華やかな生活を送れるはずだったのに、単なるモブキャラにのっとられた気分というものは。是非教えて欲しいわね」
そして、とことん歪んでいる。私は嫌悪しか感じられなかった。
こんな娘を、私は妹として慕っていたのか。
なんと情けない。
「お答えしかねますわね」
だから、冷たく返した。
エレナはつまらなさそうにため息をつく。
「あらそう。まぁそういう性格だもんね。泣き喚いて欲しかったけれど。まぁいいわ。もう二度と会うこともないだろうし。さようなら。土と一緒に元気でね」
エレナはそう言ってから、一度も振り返ることなく立ち去っていった。
反対に、私は一切目を離さなかった。
エレナは、彼女はもういない。
あれは、人の形をした怪物だ。自分勝手な思考で私を歪ませた。許せない思いはある。けれど、それよりも何よりも許せないのは、私の生きる世界をバカにしたことだ。
そればかりは、放置しておけない。
そんな誓いを立てて、数ヶ月。
エドモントたちは、無事に武勲を挙げて凱旋してきた。同時にそれは、エレナへの反撃の狼煙である。
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