11 / 43
足りないもの
しおりを挟む
夢を見た。
もふもふの柔らかい生き物の夢。
そして思い出した。
私が目指す余生に足りない存在を。
「…………猫!!!!!!!!!!!!!!!!」
枕元にもふもふの気配を感じて飛び起きたが、目が覚めた途端に夢だったことを理解した。
そうだ。そうだった。
どうやって婚約破棄して貰うかと、そんなことばかり考えていて、私はなにより大切なことを失念していたのだ。
そう、前世でもずっと夢見ていた。
猫を飼うことを。
前世。日々、税金と戦いながら働いていた私は、いつも子供の頃、実家で飼っていた武蔵のことを思い出していた。
武蔵は、私にとても懐いていた、真っ白で可愛い雌猫だった。
うん…ああ、いやその……メスなんですよ。
女の子なのに武蔵…とか思うかも知んないけど、これには一応それなりの事情がある。
武蔵は拾った時、生まれたばかりでとても小さく弱くて、病院の先生からも『生きられないかも』と言われていたのだ。だから私は、子供心に『強そうな名前を付けてやれば…』と考え、パッと思いついた剣豪の名前を付けてしまった。
両親も仔猫が生きられないと半ば諦めていたから、私のそんな無茶な命名を否定しなかったのだが…そしたらなんと、仔猫は逞しく生き延びてくれて──そして、元気になる頃には『今更名前を変えるのも??』と言う困った状況に陥っていたのだ。
なにせ、武蔵自身も名前覚えちゃったみたいで、名前呼ぶと返事しちゃうし。
まあ、そんな経緯を経て、我が家の家族になった武蔵は、それから16年間生きた。
その死を看取った時は悲しくて、寂しくて、物凄く辛かったけれど。
でも、それでもまた私は、もう一度、猫を飼いたいと思ったのだ。
しかし、実家を離れ1人暮らしを始めると、なかなかそうはいかない現実を思い知らされた。
猫飼えるアパートって、家賃高いし、なかなか無いんだよね!!!!
犬飼えるアパートは割とあるんだけど……。たぶん、犬と違って猫は壁やら床やらを引っ掻くから、なんだろうけどさ。それも飼い主のしつけ次第だと思うんだけどなぁ。
ちなみに武蔵はそんなことしなかった。
……絨毯で爪とぎはしてたけど。
おかげで我が家は数年おきに絨毯をとっかえてたなぁ。
まあ、それは置いとくとして。
実家は兄が家を継いだから戻る訳にも行かなかったので、私は働けるうちに働いて老後のためにと『猫貯金』を始めた。古くて小さくてもいいから家を手に入れ、そこで猫を飼って余生を過ごそう、と目論んだからだ。
残念ながら家を買うことは出来なかったが、兄が嫁の実家に義両親と住むことになったので、翌年から私に実家を譲ってくれることになっていた。
──なのに、どうやら私は、その直前に死んでしまったらしい。
夢の年金暮らしと、飼い猫との余生が……!!!!
まあ、もはや済んでしまったことは仕方がない。
むしろ飼う前に死んでよかったのかも知れないと思うことにした。
「お父様!!!!猫を飼いたいのですが!!」
夢で思い出した私は朝の身支度を終えると、待ちきれないとばかりにお父様の執務室に飛び込んだ。
「……どうしたんだ、アウラ」
「猫です、猫!!雑種で良いので、猫を飼いたいのですわ!」
朝の執務を邪魔されたにも拘らず、お父様は私に対して、嫌な顔ひとつ見せずに優しく問い掛けてくる。溺愛された愛娘だからこそ許される暴挙よね。などと内心でほくそ笑みつつ、お父様に猫の可愛さや、猫の居る生活の素晴らしさをアピールする……が。
「アウラの気持ちは解ったがね…猫とはなんだね?」
「………………え?」
お父様はまずそれ以前に、猫、という単語に疑問を返してきたのだ。
そこでようやく私は思い出した。
そうだ。そうだった。
私は子供の頃、同じように猫が欲しいと、今と同じように、お父様に強請ったことがある。
けれど、結局、その願いが叶うことはなかったのだ。
何故なら──
そもそもこの世界に、猫と言う生き物が、存在しなかったからだ。
「つ……詰んだ……!!」
「アウラ…??どうした!!」
思い出した途端に私は、お父様の執務机に突っ伏した。
私の夢の年金生活…ならぬ、金持ちの極楽隠居生活は、そのもっとも重要なファクターが欠けて、そもそも最初から破綻してしまっていたのだ。
「お父様……16年間有難うございました…私は幸せでした…」
「待て待て!!何故、過去形だ!!??アウラ!!しっかりしろッ」
「猫がいない世界なんて…!!私はもう生きていけません…!」
「アウラー!!??」
猫がいないと言う事実に打ちのめされ、人生すらも詰んだと思い込んだ私は、この後、学校へ行く気すらなくなるほど落ち込んだのだった。
もふもふの柔らかい生き物の夢。
そして思い出した。
私が目指す余生に足りない存在を。
「…………猫!!!!!!!!!!!!!!!!」
枕元にもふもふの気配を感じて飛び起きたが、目が覚めた途端に夢だったことを理解した。
そうだ。そうだった。
どうやって婚約破棄して貰うかと、そんなことばかり考えていて、私はなにより大切なことを失念していたのだ。
そう、前世でもずっと夢見ていた。
猫を飼うことを。
前世。日々、税金と戦いながら働いていた私は、いつも子供の頃、実家で飼っていた武蔵のことを思い出していた。
武蔵は、私にとても懐いていた、真っ白で可愛い雌猫だった。
うん…ああ、いやその……メスなんですよ。
女の子なのに武蔵…とか思うかも知んないけど、これには一応それなりの事情がある。
武蔵は拾った時、生まれたばかりでとても小さく弱くて、病院の先生からも『生きられないかも』と言われていたのだ。だから私は、子供心に『強そうな名前を付けてやれば…』と考え、パッと思いついた剣豪の名前を付けてしまった。
両親も仔猫が生きられないと半ば諦めていたから、私のそんな無茶な命名を否定しなかったのだが…そしたらなんと、仔猫は逞しく生き延びてくれて──そして、元気になる頃には『今更名前を変えるのも??』と言う困った状況に陥っていたのだ。
なにせ、武蔵自身も名前覚えちゃったみたいで、名前呼ぶと返事しちゃうし。
まあ、そんな経緯を経て、我が家の家族になった武蔵は、それから16年間生きた。
その死を看取った時は悲しくて、寂しくて、物凄く辛かったけれど。
でも、それでもまた私は、もう一度、猫を飼いたいと思ったのだ。
しかし、実家を離れ1人暮らしを始めると、なかなかそうはいかない現実を思い知らされた。
猫飼えるアパートって、家賃高いし、なかなか無いんだよね!!!!
犬飼えるアパートは割とあるんだけど……。たぶん、犬と違って猫は壁やら床やらを引っ掻くから、なんだろうけどさ。それも飼い主のしつけ次第だと思うんだけどなぁ。
ちなみに武蔵はそんなことしなかった。
……絨毯で爪とぎはしてたけど。
おかげで我が家は数年おきに絨毯をとっかえてたなぁ。
まあ、それは置いとくとして。
実家は兄が家を継いだから戻る訳にも行かなかったので、私は働けるうちに働いて老後のためにと『猫貯金』を始めた。古くて小さくてもいいから家を手に入れ、そこで猫を飼って余生を過ごそう、と目論んだからだ。
残念ながら家を買うことは出来なかったが、兄が嫁の実家に義両親と住むことになったので、翌年から私に実家を譲ってくれることになっていた。
──なのに、どうやら私は、その直前に死んでしまったらしい。
夢の年金暮らしと、飼い猫との余生が……!!!!
まあ、もはや済んでしまったことは仕方がない。
むしろ飼う前に死んでよかったのかも知れないと思うことにした。
「お父様!!!!猫を飼いたいのですが!!」
夢で思い出した私は朝の身支度を終えると、待ちきれないとばかりにお父様の執務室に飛び込んだ。
「……どうしたんだ、アウラ」
「猫です、猫!!雑種で良いので、猫を飼いたいのですわ!」
朝の執務を邪魔されたにも拘らず、お父様は私に対して、嫌な顔ひとつ見せずに優しく問い掛けてくる。溺愛された愛娘だからこそ許される暴挙よね。などと内心でほくそ笑みつつ、お父様に猫の可愛さや、猫の居る生活の素晴らしさをアピールする……が。
「アウラの気持ちは解ったがね…猫とはなんだね?」
「………………え?」
お父様はまずそれ以前に、猫、という単語に疑問を返してきたのだ。
そこでようやく私は思い出した。
そうだ。そうだった。
私は子供の頃、同じように猫が欲しいと、今と同じように、お父様に強請ったことがある。
けれど、結局、その願いが叶うことはなかったのだ。
何故なら──
そもそもこの世界に、猫と言う生き物が、存在しなかったからだ。
「つ……詰んだ……!!」
「アウラ…??どうした!!」
思い出した途端に私は、お父様の執務机に突っ伏した。
私の夢の年金生活…ならぬ、金持ちの極楽隠居生活は、そのもっとも重要なファクターが欠けて、そもそも最初から破綻してしまっていたのだ。
「お父様……16年間有難うございました…私は幸せでした…」
「待て待て!!何故、過去形だ!!??アウラ!!しっかりしろッ」
「猫がいない世界なんて…!!私はもう生きていけません…!」
「アウラー!!??」
猫がいないと言う事実に打ちのめされ、人生すらも詰んだと思い込んだ私は、この後、学校へ行く気すらなくなるほど落ち込んだのだった。
32
あなたにおすすめの小説
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~
天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。
どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。
鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます!
※他サイトにも掲載しています
追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リーゼリット・フォン・アウグストは、婚約者であるエドワード王子と、彼に媚びるヒロイン・リリアーナの策略により、無実の罪で断罪される。「君を辺境の地『緑の谷』へ追放する!」――全てを失い、絶望の淵に立たされたリーゼリット。しかし、荒れ果てたその土地は、彼女に眠る真の力を目覚めさせる場所だった。
幼い頃から得意だった土と水の魔法を農業に応用し、無口で優しい猟師カイルや、谷の仲間たちと共に、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。やがて、その成功は私欲にまみれた王国を揺るがすほどの大きなうねりとなり……。
これは、絶望から立ち上がり、農業で成り上がり、やがては一国を築き上げるに至る、一人の令嬢の壮大な逆転物語。爽快なざまぁと、心温まるスローライフ、そして運命の恋の行方は――?
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる