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君の名は
「ミィナ、グスタフ男爵の令嬢って知ってる?」
男主人公であるはずの王太子殿下が、ヒロインの名前を覚えてないという緊急事態。
原作ゲームを10分だけプレイした私も、ヒロインの名前なんて忘却の彼方だし。
さて、どうしたものか??と思いつつ、物は試しと専属メイドのミィナに聞いてみると、
「グスタフ男爵令嬢というと、男爵が平民に産ませた娘で…ずっと平民として暮らしておられて、数年前、籍に入れたと聞いております。お名前は確か、キャスリーナ様とか」
『詳しくはありませんが…』と前置きしつつミィナは、ヒロインの名前から、容姿、生い立ち、性格など、めちゃくちゃ詳しい情報を教えてくれた。情報過多に慌てて途中で止めたけど、ひょっとすると身長・体重・スリーサイズまで知ってるんじゃなかろうか??という勢いだった。何者だ、貴様。
しかしそのおかげで、ほんの少し設定を思い出した。
キャスリーナ(愛称リーナ)は貧乏育ちで。けれど純粋で素直で優しい、まさにヒロインな性格の少女…という設定だったはずだ。しかし、
「ドジっ子って設定は無かったはずだけど……」
「……設定?」
「あ、ううん。なんでもない」
今朝の様子を思い浮かべながら、思わず漏れた一言をミイナに突っ込まれた。いかんいかん。前世由来の言葉をあまり口にしないよう気を付けないとね。と、適当に誤魔化しておく。
それにしても、このままでは王太子殿下からの婚約破棄は難しそうだ。
「王子に送って貰えて良かったですねえ、お嬢様!」
「話すこともないし、気まずいばっかりで大変だったわよ…」
助けを求めたのに置いて行かれた恨みを込めて愚痴ると、ミィナは『またまた~まんざらでもないくせに~』とでも言いたそうな顔でニヤニヤ笑った。両手で顔掴んで横に伸ばしたろか。
「でも、どうして、せっかくここまでいらしたのに、お茶にお誘いしなかったんですか?」
「は??なんでよ。用もないのに…」
言いかけてやっと気付いた。帰り掛け王子が何か物言いたげだったのって、ひょっとしてそれだったのかな??って。いやまあ、面倒だから気付いたとしても、誘いはしなかっただろうけど。
それはそうと──
「ミイナ…ちょっと聞きたいんだけど…」
この世界がゲームの世界と解ったので、ひとつ気になることが出来てしまった。
「私って、意地悪な悪女になれると思う??」
そう。私は本来なら、ヒロインと敵対する『悪役令嬢』だと確定したのだ。
つまり、ヒロインに意地悪しなくてはならない立場なのである。だが──
「無理ですね」
「即答か!!」
よくある転生物だと記憶が戻る前後で、性格が変わるなんてパターンは良くある。なのに私はどうやら、前世の性格が色濃く出てしまったらしく、記憶が戻る前も後も性格にほとんど変化がなかった。
おかげでクラスメイトや、家族、屋敷の使用人らとの関係は悪くない…というか、父からは溺愛されてるし、使用人からも大切にされてるし、友人もわりと多い方だと思う。
つまり、悪役令嬢らしくない、のだ。
「では試しに私に意地悪を言ってみてください」
「えっ、なんて?」
「そこを思いつかないあたりで、もう駄目じゃないかと…」
速攻、見放されそうになって慌てる。いや、唐突に意地悪とか、普通、思いつかないでしょ。まあ、物語の悪役って、素で意地悪出来てる感あるけども。
「待って!!なにかお題をちょうだい!!」
ヘタレ悪役令嬢としては、まず意地悪するためのヒントみたいなものが欲しいところだ。そう思った私は、ミイナにお題を与えてもらうことにしたのだが。
「では、この紅茶をマズいと」
「えっ、美味しいわよ?」
手にしていた紅茶を一口飲んで、ついうっかり本音が口から零れてしまった。いかんいかん。意地悪言わなきゃならないのに、褒めてどうすんのよ??と、慌てて『マズい紅茶ね!』と言い直すが、すでに手遅れとばかりにミイナはため息をついてしまう。
「そこでカップを割るくらいしないと駄目ではないですか?」
「えっ、やだ。勿体ない」
「……やはり、お嬢様に悪女は向いてないかと」
結局、ダメ出しされた上に、悪女落第を言い渡されたよ。
でも、うん。まあ、自分でもわかる。これは無理だ。
悪女がカップひとつ如きを、勿体ないと思う時点でアカンだろう。
「うーん……やっぱ無理か…」
「性に合わないことはなさらない方がよろしいかと」
ですよね。
でも、じゃあ、どうしよう。
このままじゃ婚約破棄なんて夢また夢。
楽々ご隠居ライフが遠のくばかりだよ。
「王子が彼女を好きになってくれたら、なんとかなるんだけどな~」
「はたから見ても王子はお嬢様のことがお好きなようですが」
え?そうなの??と驚いてミイナに視線を送ると、めちゃくちゃ憐れみの視線で見つめ返されたあげく、『はあ~~』と長く深いため息を返されたのだった。
いや、だってそんなの解んないし。そりゃ確かに、原作ゲームよりは、優しい気もするけども。
しかし、アウローラとして生きた記憶のどこを掘り返しても、王子から『愛してる』とか『好きだ』とか言われた覚えがないしさ??
やっぱミイナの勘違いだよ。たぶん。
そうと納得したからには、明日からの計画見直しを──と、ペンをとって紙に書こうとするが、何も思いつかず30分は白紙のまま。いざペンを動かして描いた物は、私自身、良く解らないし意味もないと思える単なる落書きで……
「まずはお食事をとられて、ゆっくり入浴し、あとは何も考えず寝てください」
おかげで、事態をそっと見守ってくれていたミイナから、やんわりと『無駄なことに頑張るくらいなら飯食って寝ろ』と言われたよ。
「……そうする」
確かに今日1日で色々あったしね。考えるのは明日にして、今日はもう寝よう、と決めた私だった。
男主人公であるはずの王太子殿下が、ヒロインの名前を覚えてないという緊急事態。
原作ゲームを10分だけプレイした私も、ヒロインの名前なんて忘却の彼方だし。
さて、どうしたものか??と思いつつ、物は試しと専属メイドのミィナに聞いてみると、
「グスタフ男爵令嬢というと、男爵が平民に産ませた娘で…ずっと平民として暮らしておられて、数年前、籍に入れたと聞いております。お名前は確か、キャスリーナ様とか」
『詳しくはありませんが…』と前置きしつつミィナは、ヒロインの名前から、容姿、生い立ち、性格など、めちゃくちゃ詳しい情報を教えてくれた。情報過多に慌てて途中で止めたけど、ひょっとすると身長・体重・スリーサイズまで知ってるんじゃなかろうか??という勢いだった。何者だ、貴様。
しかしそのおかげで、ほんの少し設定を思い出した。
キャスリーナ(愛称リーナ)は貧乏育ちで。けれど純粋で素直で優しい、まさにヒロインな性格の少女…という設定だったはずだ。しかし、
「ドジっ子って設定は無かったはずだけど……」
「……設定?」
「あ、ううん。なんでもない」
今朝の様子を思い浮かべながら、思わず漏れた一言をミイナに突っ込まれた。いかんいかん。前世由来の言葉をあまり口にしないよう気を付けないとね。と、適当に誤魔化しておく。
それにしても、このままでは王太子殿下からの婚約破棄は難しそうだ。
「王子に送って貰えて良かったですねえ、お嬢様!」
「話すこともないし、気まずいばっかりで大変だったわよ…」
助けを求めたのに置いて行かれた恨みを込めて愚痴ると、ミィナは『またまた~まんざらでもないくせに~』とでも言いたそうな顔でニヤニヤ笑った。両手で顔掴んで横に伸ばしたろか。
「でも、どうして、せっかくここまでいらしたのに、お茶にお誘いしなかったんですか?」
「は??なんでよ。用もないのに…」
言いかけてやっと気付いた。帰り掛け王子が何か物言いたげだったのって、ひょっとしてそれだったのかな??って。いやまあ、面倒だから気付いたとしても、誘いはしなかっただろうけど。
それはそうと──
「ミイナ…ちょっと聞きたいんだけど…」
この世界がゲームの世界と解ったので、ひとつ気になることが出来てしまった。
「私って、意地悪な悪女になれると思う??」
そう。私は本来なら、ヒロインと敵対する『悪役令嬢』だと確定したのだ。
つまり、ヒロインに意地悪しなくてはならない立場なのである。だが──
「無理ですね」
「即答か!!」
よくある転生物だと記憶が戻る前後で、性格が変わるなんてパターンは良くある。なのに私はどうやら、前世の性格が色濃く出てしまったらしく、記憶が戻る前も後も性格にほとんど変化がなかった。
おかげでクラスメイトや、家族、屋敷の使用人らとの関係は悪くない…というか、父からは溺愛されてるし、使用人からも大切にされてるし、友人もわりと多い方だと思う。
つまり、悪役令嬢らしくない、のだ。
「では試しに私に意地悪を言ってみてください」
「えっ、なんて?」
「そこを思いつかないあたりで、もう駄目じゃないかと…」
速攻、見放されそうになって慌てる。いや、唐突に意地悪とか、普通、思いつかないでしょ。まあ、物語の悪役って、素で意地悪出来てる感あるけども。
「待って!!なにかお題をちょうだい!!」
ヘタレ悪役令嬢としては、まず意地悪するためのヒントみたいなものが欲しいところだ。そう思った私は、ミイナにお題を与えてもらうことにしたのだが。
「では、この紅茶をマズいと」
「えっ、美味しいわよ?」
手にしていた紅茶を一口飲んで、ついうっかり本音が口から零れてしまった。いかんいかん。意地悪言わなきゃならないのに、褒めてどうすんのよ??と、慌てて『マズい紅茶ね!』と言い直すが、すでに手遅れとばかりにミイナはため息をついてしまう。
「そこでカップを割るくらいしないと駄目ではないですか?」
「えっ、やだ。勿体ない」
「……やはり、お嬢様に悪女は向いてないかと」
結局、ダメ出しされた上に、悪女落第を言い渡されたよ。
でも、うん。まあ、自分でもわかる。これは無理だ。
悪女がカップひとつ如きを、勿体ないと思う時点でアカンだろう。
「うーん……やっぱ無理か…」
「性に合わないことはなさらない方がよろしいかと」
ですよね。
でも、じゃあ、どうしよう。
このままじゃ婚約破棄なんて夢また夢。
楽々ご隠居ライフが遠のくばかりだよ。
「王子が彼女を好きになってくれたら、なんとかなるんだけどな~」
「はたから見ても王子はお嬢様のことがお好きなようですが」
え?そうなの??と驚いてミイナに視線を送ると、めちゃくちゃ憐れみの視線で見つめ返されたあげく、『はあ~~』と長く深いため息を返されたのだった。
いや、だってそんなの解んないし。そりゃ確かに、原作ゲームよりは、優しい気もするけども。
しかし、アウローラとして生きた記憶のどこを掘り返しても、王子から『愛してる』とか『好きだ』とか言われた覚えがないしさ??
やっぱミイナの勘違いだよ。たぶん。
そうと納得したからには、明日からの計画見直しを──と、ペンをとって紙に書こうとするが、何も思いつかず30分は白紙のまま。いざペンを動かして描いた物は、私自身、良く解らないし意味もないと思える単なる落書きで……
「まずはお食事をとられて、ゆっくり入浴し、あとは何も考えず寝てください」
おかげで、事態をそっと見守ってくれていたミイナから、やんわりと『無駄なことに頑張るくらいなら飯食って寝ろ』と言われたよ。
「……そうする」
確かに今日1日で色々あったしね。考えるのは明日にして、今日はもう寝よう、と決めた私だった。
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