【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

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第一章 影の令嬢

思いがけない提案

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「エリアナ、突然呼び出して悪かったな」

 父は書類から目を上げた。その視線には、娘を見る温かさなどかけらもない。まるで、商談相手を見るような冷たさだけがあった。

「実は、お前に良い知らせがある」

 良い知らせ?
 エリアナは戸惑った。
 この五年間、この家で「良い知らせ」など一度もなかった。

「お前に、縁談が持ち込まれた」

 その言葉に、エリアナは息を呑んだ。
 縁談? 自分に?

「ヴァルモント公爵家から、正式な婚約の申し込みがあった。先方は、お前との結婚を望んでおられる」

 ヴァルモント公爵——その名前を聞いて、エリアナの心臓が凍りついた。

 社交界で知らぬ者はいない。北の辺境に広大な領地を持つ、この国で最も強大な軍事力と財力を誇る公爵家。そして、その当主アレクシス・ヴァルモント公爵は——

「悪魔公爵」

 そう呼ばれて、恐れられている。隣国との戦いで何百人もの敵を自らほふり、巧みな戦略でさらに多くの敵の命を奪った。国内でも、数々の政敵を冷酷な手段で陥れ、地位を保ってきた。冷酷で、人を寄せ付けない、血も涙もない男。
 そんな男なので、これまで何人もの婚約者を破談にしてきた。社交界の噂では、「一度も笑ったことがない」「近づく者を凍りつかせる」などと語られている。あまりの冷血ぶりに、ヴァルモント家の財産目当ての女性たちでさえ、彼には寄りつかなくなったという。

 社交界に出ないエリアナでさえ、数少ない知人や使用人たちの噂話から、悪魔公爵の評判を聞き知っていた。

 なぜ、そんな人が自分に?

「お、お父様、それは……」

 エリアナが言葉を探していると、リリアーナが甲高い声を上げた。

「まあ、なんて素晴らしい ! エリアナ姉様、良かったですわね !」

 その声には、嘲りが含まれている。

 エリアナには分かった。これは罠だ。

 継母マルグリットが、偽りの優しさを込めた声で言った。

「エリアナ。あなたももう二十二歳。そろそろ結婚を考えても良い頃よ。ヴァルモント公爵は立派な方だと聞いているわ。少々……無愛想だという噂もあるけれど、あなたなら上手くやっていけるでしょう」

 無愛想——それは婉曲な表現だ。本当は「恐ろしい」「冷酷だ」という噂が流れている。

「お父様」

と、エリアナは必死に声を絞り出した。

「わたくしは……その、心の準備が……」

「準備など必要ない」父は冷たく言い放った。「これは家のためだ。ヴァルモント公爵家との縁組は、我が家にとって大きな利益をもたらす。お前も、少しは家の役に立つべき時だろう」

 家の役に立つ——その言葉が、鋭い刃のようにエリアナの心を切り裂いた。
 これまで散々冷遇しておいて、今さら「家のため」と言うのか。

 継母が付け加えた。

「リリアーナには、もっと相応しい方からの求婚が複数あるの。ヴァルモント公爵は確かに家格は高いけれど、あの悪評では……リリアーナの美しさを曇らせるわけにはいかないわ」

 ああ、そういうことか。
 エリアナは全てを理解した。ヴァルモント公爵との縁談は、確かに家格的には申し分ない。でも、すさまじい悪評のせいで、「百年に一度の美少女」であるリリアーナを嫁がせるわけにはいかない。だから、「出来損ない」の自分が身代わりにされるのだ。
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