【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

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第一章 影の令嬢

決定してしまった運命

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 リリアーナがくすくすと笑った。

「姉様、頑張ってくださいね。悪魔公爵様でも、お姉様の優しさがあれば、きっと改心なさるかもしれませんわ」

 その言葉には、明らかな皮肉が込められている。「お前のような地味で取り柄のない女が、あの公爵を変えられるはずがない」と言っているのだ。

 エリアナは拳を握りしめた。爪が掌に食い込んで痛い。
 逃げたい。この場から、この家から、全てから逃げ出したい。
 でも、どこへ?
 母は亡くなり、母の実家の血筋もほぼ絶えている。いざというときに頼れるような友人もいない。この五年間で、エリアナの居場所はどこにもなくなってしまっていた。

「返事を聞かせてもらおう、エリアナ」

 父の声は、有無を言わせない厳しさを帯びている。

「婚約を受け入れるか、それとも拒否するか。ただし、拒否した場合、お前はこの家から出て行ってもらう。持参金も何もなしで、な」

 それはあからさまな脅迫だった。受け入れるか、一文無しで放り出されるか。
 選択肢などない。
 エリアナの視界がにじんだ。これが実の父親の仕打ちだろうか。
 でも、涙を見せるわけにはいかない。リリアーナと継母に、自分の弱さを見せたくない。

「……承知いたしました」

 その言葉を発した時、エリアナの心の中で何かが音を立てて壊れた。
 最後の希望——いつか、この家でも自分の居場所ができるかもしれないという、淡い期待。それが完全に砕け散った瞬間だった。

「よろしい」父は満足そうにうなずいた。「来週、ヴァルモント公爵がこちらへ挨拶にいらっしゃる。舞踏会を開く予定だ。その場で、正式に婚約を発表する」

「準備はマルタにさせます」継母が付け加えた。「でも、あまり派手にしないでちょうだい。主役はあくまでリリアーナですからね。あの子にも良い縁談があって、同じ舞踏会で発表する予定なの」

 もちろん、そうだろう。


 エリアナは深々とお辞儀をして、大広間を後にした。
 廊下を歩きながら、足が震えた。膝が笑っている。

 部屋に戻って、扉を閉めた途端、エリアナはその場に崩れ落ちた。
 床に膝をつき、両手で顔を覆う。

 悪魔公爵——アレクシス・ヴァルモント。
 冷酷で、残忍で、近づく者を凍りつかせる男。
 その男の妻になる。

 恐怖が全身を駆け巡っていた。

 しかし、同時に、小さな声が心の奥底で囁いた。

「でも、これでこの家を出られる」

 そうだ。どんなに恐ろしい場所であっても、この家よりはマシかもしれない。ここでは毎日、自分の存在が否定され続ける。愛されることも、必要とされることもない。
 愛してほしい相手に、見向きもされないつらさに比べたら。最初から愛など期待できない環境の方が、きっと気が楽だ。
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