【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

文字の大きさ
3 / 46
第一章 影の令嬢

思いがけない提案

しおりを挟む
「エリアナ、突然呼び出して悪かったな」

 父は書類から目を上げた。その視線には、娘を見る温かさなどかけらもない。まるで、商談相手を見るような冷たさだけがあった。

「実は、お前に良い知らせがある」

 良い知らせ?
 エリアナは戸惑った。
 この五年間、この家で「良い知らせ」など一度もなかった。

「お前に、縁談が持ち込まれた」

 その言葉に、エリアナは息を呑んだ。
 縁談? 自分に?

「ヴァルモント公爵家から、正式な婚約の申し込みがあった。先方は、お前との結婚を望んでおられる」

 ヴァルモント公爵——その名前を聞いて、エリアナの心臓が凍りついた。

 社交界で知らぬ者はいない。北の辺境に広大な領地を持つ、この国で最も強大な軍事力と財力を誇る公爵家。そして、その当主アレクシス・ヴァルモント公爵は——

「悪魔公爵」

 そう呼ばれて、恐れられている。隣国との戦いで何百人もの敵を自らほふり、巧みな戦略でさらに多くの敵の命を奪った。国内でも、数々の政敵を冷酷な手段で陥れ、地位を保ってきた。冷酷で、人を寄せ付けない、血も涙もない男。
 そんな男なので、これまで何人もの婚約者を破談にしてきた。社交界の噂では、「一度も笑ったことがない」「近づく者を凍りつかせる」などと語られている。あまりの冷血ぶりに、ヴァルモント家の財産目当ての女性たちでさえ、彼には寄りつかなくなったという。

 社交界に出ないエリアナでさえ、数少ない知人や使用人たちの噂話から、悪魔公爵の評判を聞き知っていた。

 なぜ、そんな人が自分に?

「お、お父様、それは……」

 エリアナが言葉を探していると、リリアーナが甲高い声を上げた。

「まあ、なんて素晴らしい ! エリアナ姉様、良かったですわね !」

 その声には、嘲りが含まれている。

 エリアナには分かった。これは罠だ。

 継母マルグリットが、偽りの優しさを込めた声で言った。

「エリアナ。あなたももう二十二歳。そろそろ結婚を考えても良い頃よ。ヴァルモント公爵は立派な方だと聞いているわ。少々……無愛想だという噂もあるけれど、あなたなら上手くやっていけるでしょう」

 無愛想——それは婉曲な表現だ。本当は「恐ろしい」「冷酷だ」という噂が流れている。

「お父様」

と、エリアナは必死に声を絞り出した。

「わたくしは……その、心の準備が……」

「準備など必要ない」父は冷たく言い放った。「これは家のためだ。ヴァルモント公爵家との縁組は、我が家にとって大きな利益をもたらす。お前も、少しは家の役に立つべき時だろう」

 家の役に立つ——その言葉が、鋭い刃のようにエリアナの心を切り裂いた。
 これまで散々冷遇しておいて、今さら「家のため」と言うのか。

 継母が付け加えた。

「リリアーナには、もっと相応しい方からの求婚が複数あるの。ヴァルモント公爵は確かに家格は高いけれど、あの悪評では……リリアーナの美しさを曇らせるわけにはいかないわ」

 ああ、そういうことか。
 エリアナは全てを理解した。ヴァルモント公爵との縁談は、確かに家格的には申し分ない。でも、すさまじい悪評のせいで、「百年に一度の美少女」であるリリアーナを嫁がせるわけにはいかない。だから、「出来損ない」の自分が身代わりにされるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

処理中です...