【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

文字の大きさ
2 / 46
第一章 影の令嬢

父からの呼び出し

しおりを挟む
 刺繍の手を止めて、エリアナは小さく息をついた。

 窓から差し込む僅かな光の中で、白い布地に施された薔薇の刺繍が輝いている。これは母が教えてくれた技法だ。

「エリアナ、あなたの刺繍は本当に美しいわ。いつか、これが皆に称えられる日が来るわね」

 母はそう言ってくれた。

 でも、その日は来なかった。エリアナの刺繍を褒める人はいない。社交界に出ることも許されず、才能を発揮する機会もない。ただ、この薄暗い部屋で、誰にも見られることのない作品を作り続けるだけ。


 廊下の向こうから、甲高い笑い声が聞こえてきた。リリアーナだ。きっと新しいドレスが届いたのだろう。

 最近、妹の婚約話が持ち上がっているらしい。侯爵家の御曹司だとか、子爵家の跡取りだとか、毎週のように求婚者が訪れている。

「エリアナ様には、きっと誰も求婚なんてしないわよね」

 先日、使用人たちの会話をたまたま聞いてしまった。リリアーナの侍女たちが、嘲笑うように言っていた言葉。

「だって、あんなに暗くて、地味で、才能もないんですもの。リリアーナお嬢様と比べたら、まるで灰かぶりね」

 その言葉が胸に突き刺さって、エリアナは息ができなくなった。部屋に戻って、枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。
 でも、侍女の言う通りかもしれない。自分には何もない。美しさも、才能も、愛してくれる人も。

 ノックの音がして、エリアナは慌てて涙の跡をぬぐった。

「エリアナお嬢様、失礼いたします」

 マルタが入ってきた。いつもの申し訳なさそうな表情ではなく、今日は何か緊張した面持ちだ。

「旦那様がお呼びです。至急、大広間へいらしてくださいとのことです」

 エリアナの心臓が跳ねた。

 父が自分を呼ぶ? それも大広間に?
 何か悪いことをしただろうか。いや、最近は屋敷の人々と関わることすらほとんどない。何があったというのだろう。

 不安に駆られながら、エリアナは立ち上がった。鏡を見ずに、髪を整える。地味な灰色のドレスは皺一つない。継母から「リリアーナを引き立てるため、派手な服を着るな」と言われているから、いつもこんな色合いの服ばかりだ。


 大広間への道のりは長かった。
 屋敷の美しい装飾——母が生きていた頃からの、エレガントな調度品——が目に入る。
 でもそれらはもう、エリアナのものではない。この家で、彼女は客人以下の存在だ。

 大広間の扉の前で、エリアナは深呼吸をした。そして、小さくノックする。

「入れ」

 父の声。冷たく、事務的な響き。

 扉を開けると、そこには父ロベール・フォンティーヌ、継母マルグリット、そして妹リリアーナが揃っていた。三人とも、どこか緊張した面持ちで、しかしリリアーナの唇には薄い笑みが浮かんでいる。

「お呼びでしょうか、父上」

 エリアナは自分の声がかすかに震えるのを聞いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

処理中です...