【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

文字の大きさ
6 / 46
第一章 影の令嬢

顔合わせ

しおりを挟む
 リリアーナは、侯爵家の息子アンリに囲まれて、笑顔を振りまいている。プラチナブロンドの髪が揺れ、青い瞳が輝く。紳士たちは誰もが彼女を見つめている。

 その時だった。
 大広間の空気が、突然変わった。
 ざわめきが、一瞬で静まり返る。

 大きな扉が開き、男が入ってきた。
 エリアナの息が止まった。

 アレクシス・ヴァルモント公爵。
 背が高く、黒いフロックコートに身を包んだ男。彫刻のように整った顔立ち。黒い髪、そして——氷のような青い瞳。
 その瞳が、会場を一瞥した。冷たく、感情の読めない視線。
 人々が、無意識に道を開ける。まるで、捕食者の前から逃げる小動物のように。

 噂は本当だった。
 この男は、確かに近寄りがたい。オーラが違う。まるで別世界の存在のよう。

 父ロベールが、慌てて前に出た。

「ヴァルモント公爵、ようこそおいでくださいました !」

 アレクシスは、わずかにうなずいただけだった。その顔には、笑みのかけらもない。

「フォンティーヌ伯爵。婚約者を紹介していただきたい」
 
 その声は、低く、よく通る。そして、恐ろしいほど無感情だった。

「もちろんです ! エリアナ、こちらへ」

 父に呼ばれて、エリアナは震える足で前に出た。
 会場中の視線が、自分に集まる。
 そして、アレクシス・ヴァルモントの氷の瞳が、エリアナを捉えた。

 その瞬間、エリアナは凍りついた。
 彼の視線は、まるで全てを見透かすようだった。自分のすべて——惨めさも、弱さも、恐怖も——が、その青い瞳に映し出されている気がした。

「エリアナ・フォンティーヌです」

 か細い声で、エリアナは名乗った。恐怖のあまり、うつむいてしまっていた。とても、あの瞳を直視できない。

 沈黙。
 長い、長い沈黙。

 やがて、アレクシスの声がエリアナの耳を打った。

「顔を上げなさい」

 命令口調。でも、不思議と乱暴な響きはない。

 エリアナは、ゆっくりと顔を上げた。
 アレクシスの瞳が、間近にあった。じっとエリアナを見つめている。何かを探すように。
 そして——
 ほんの一瞬、その氷の瞳の奥で、何かが揺らいだ気がした。

 驚き? 困惑? それとも——
 でもそれは一瞬のことで、すぐに彼の表情は元の無表情に戻った。

「承知した。婚約を正式なものとする」

 それだけ言うと、アレクシスはエリアナから視線を外した。
 会場がざわついた。もっと何か、ロマンチックな言葉を期待していたのだろう。でも、悪魔公爵らしい、冷たい反応だと、人々は納得したようだった。
 まるで、ただの物を売り買いするときのような。購入前に商品の確認をしに来たみたいな。

 エリアナは、胸が締め付けられるのを感じた。

 ああ、やはり。あの人は、自分に何の興味もない。
 これは、ただの政略結婚。愛も、温かさも、そこにはない。

 でも——

 アレクシスが去り際に、もう一度だけエリアナを振り返った。
 その瞳に、ほんの僅かだけ、何か別の感情が宿っていた。

 それが何なのか、エリアナには分からなかった。でも、その視線にこもるものは、少なくとも「憐れみ」ではなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

頭頂部に薔薇の棘が刺さりまして

犬野きらり
恋愛
第二王子のお茶会に参加して、どうにかアピールをしようと、王子の近くの場所を確保しようとして、転倒。 王家の薔薇に突っ込んで転んでしまった。髪の毛に引っ掛かる薔薇の枝に棘。 失態の恥ずかしさと熱と痛みで、私が寝込めば、初めましての小さき者の姿が見えるようになり… この薔薇を育てた人は!?

処理中です...