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第三章 北の城にて
そばにいたい
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ある夜、エリアナは眠れずに城の廊下を歩いていた。
月明かりが、窓から差し込んでいる。
ふと、中庭から声が聞こえた。
アレクシスの声だ。
エリアナは、窓から中庭を見下ろした。
そこには、アレクシスと執事のセバスチャンがいた。
「アレクシス様、奥様は城の生活にお慣れになられたようですね」
「ああ。エリアナは、よくやってくれている」
「お幸せそうで、何よりです。私どもも、奥様のことが大好きですよ。優しく、思いやりのある方だ」
「……そうだな」
アレクシスの声が、わずかに沈んだ。
「しかし、アレクシス様。いつまで、このままでいらっしゃるおつもりですか」
「何のことだ」
「奥様との関係です。あなた様は、奥様を遠ざけておいでだ」
エリアナは、息を呑んだ。
「私は、エリアナを傷つけたくない」
アレクシスが、低い声で言った。
「彼女は、長い間虐げられてきた。今、やっと安心できる場所を得たのだ。それを、私が壊すわけにはいかない」
「ですが、奥様は――」
「彼女が、私を恐れていることは分かっている。悪魔公爵と呼ばれる私を。だから、無理強いはしない。彼女が心を開いてくれるまで、待つ」
その言葉に、エリアナの胸が痛んだ。
アレクシスは、自分を気遣ってくれていた。
距離を置いているのは、エリアナが怖がっていると思っているから。
でも——
エリアナは、もう怖くなかった。
この数週間で、アレクシスの優しさを知った。彼は冷たい人間ではない。ただ、不器用なだけ。愛し方を知らないだけ。
自分と同じように。
エリアナは、決心した。
翌日、エリアナは勇気を出してアレクシスに話しかけた。
「アレクシス様、お話があります」
「何だ?」
彼らは、書斎にいた。アレクシスは領地の書類を整理していた。
そんな彼に、エリアナは歩み寄った。
「わたくし……あなた様と、もっと近くにいたいのです」
その言葉に、アレクシスの手が止まった。
「エリアナ……」
「わたくしは、もうあなた様を怖れていません。最初は怖かった。でも、今は違います」
エリアナは、アレクシスをまっすぐみつめた。
「あなた様は、わたくしに優しくしてくださる。自由をくださる。認めてくださる。それが、どれほど嬉しいか」
彼女は、アレクシスの手を取った。
「だから、お願いです。わたくしを、もっと近くに置いてください」
アレクシスは、エリアナを見返した。
その青い瞳に、驚きと、そして喜びが浮かんでいた。
「本当に、いいのか」
「はい」
「君を、傷つけたくない」
「わたくしは、傷つきません。あなた様が、わたくしを傷つけることなどないと知っていますから」
その言葉に、アレクシスの表情が柔らかくなった。
彼は、エリアナを抱き寄せた。
「エリアナ……」
彼の腕の中は、温かかった。なんともいえない良い香りがした。
「私も、君ともっと近くにいたいと思っていた。でも、君を急かしたくなくて」
「もう大丈夫です」
エリアナは、彼の胸に顔を埋めた。
「わたくしは、あなた様と共にいたい。本当の夫婦になりたいのです」
アレクシスは、エリアナの髪を優しく撫でた。
「ありがとう、エリアナ。そう言ってくれて」
二人は、長い間そうして抱き合っていた。
月明かりが、窓から差し込んでいる。
ふと、中庭から声が聞こえた。
アレクシスの声だ。
エリアナは、窓から中庭を見下ろした。
そこには、アレクシスと執事のセバスチャンがいた。
「アレクシス様、奥様は城の生活にお慣れになられたようですね」
「ああ。エリアナは、よくやってくれている」
「お幸せそうで、何よりです。私どもも、奥様のことが大好きですよ。優しく、思いやりのある方だ」
「……そうだな」
アレクシスの声が、わずかに沈んだ。
「しかし、アレクシス様。いつまで、このままでいらっしゃるおつもりですか」
「何のことだ」
「奥様との関係です。あなた様は、奥様を遠ざけておいでだ」
エリアナは、息を呑んだ。
「私は、エリアナを傷つけたくない」
アレクシスが、低い声で言った。
「彼女は、長い間虐げられてきた。今、やっと安心できる場所を得たのだ。それを、私が壊すわけにはいかない」
「ですが、奥様は――」
「彼女が、私を恐れていることは分かっている。悪魔公爵と呼ばれる私を。だから、無理強いはしない。彼女が心を開いてくれるまで、待つ」
その言葉に、エリアナの胸が痛んだ。
アレクシスは、自分を気遣ってくれていた。
距離を置いているのは、エリアナが怖がっていると思っているから。
でも——
エリアナは、もう怖くなかった。
この数週間で、アレクシスの優しさを知った。彼は冷たい人間ではない。ただ、不器用なだけ。愛し方を知らないだけ。
自分と同じように。
エリアナは、決心した。
翌日、エリアナは勇気を出してアレクシスに話しかけた。
「アレクシス様、お話があります」
「何だ?」
彼らは、書斎にいた。アレクシスは領地の書類を整理していた。
そんな彼に、エリアナは歩み寄った。
「わたくし……あなた様と、もっと近くにいたいのです」
その言葉に、アレクシスの手が止まった。
「エリアナ……」
「わたくしは、もうあなた様を怖れていません。最初は怖かった。でも、今は違います」
エリアナは、アレクシスをまっすぐみつめた。
「あなた様は、わたくしに優しくしてくださる。自由をくださる。認めてくださる。それが、どれほど嬉しいか」
彼女は、アレクシスの手を取った。
「だから、お願いです。わたくしを、もっと近くに置いてください」
アレクシスは、エリアナを見返した。
その青い瞳に、驚きと、そして喜びが浮かんでいた。
「本当に、いいのか」
「はい」
「君を、傷つけたくない」
「わたくしは、傷つきません。あなた様が、わたくしを傷つけることなどないと知っていますから」
その言葉に、アレクシスの表情が柔らかくなった。
彼は、エリアナを抱き寄せた。
「エリアナ……」
彼の腕の中は、温かかった。なんともいえない良い香りがした。
「私も、君ともっと近くにいたいと思っていた。でも、君を急かしたくなくて」
「もう大丈夫です」
エリアナは、彼の胸に顔を埋めた。
「わたくしは、あなた様と共にいたい。本当の夫婦になりたいのです」
アレクシスは、エリアナの髪を優しく撫でた。
「ありがとう、エリアナ。そう言ってくれて」
二人は、長い間そうして抱き合っていた。
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