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第四章 氷が溶けるとき
妹との対面
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リリアーナは、エリアナを見た瞬間、目を見開いた。
「え……まさか、お姉様?」
その声には、信じられないという響きがあった。
エリアナは、落ち着いて微笑んだ。
「お久しぶりです、リリアーナ」
「ま、まあ……お姉様ったら、どうして……」
リリアーナは、エリアナの姿を上から下まで見た。美しいドレス、輝く宝石、そして何より——その堂々とした振る舞い。
以前の、うつむいて影のようだった姉の姿はどこにもない。
「文化も流行も届かない、北の果ての地にいたはずなのに……ずいぶん変わったものね」
その声には、明らかな動揺があった。
冷酷非道な悪魔のもとに嫁いだエリアナが、毎日泣き暮らしているとでも思っていたのだろう、きっと。
「ヴァルモント公爵夫人」
夫のアンリが、丁寧にお辞儀をした。
「お美しい。都の噂になるでしょう」
「ありがとうございます」
エリアナは、優雅に答えた。
リリアーナの顔が、かすかに歪んだ。
「お姉様、ずいぶんお幸せそうで……」
その言葉には、皮肉が混じっている。
でも、エリアナは動じなかった。
「ええ、とても幸せです」
彼女は、アレクシスを見上げた。
「夫が、素晴らしい方ですから」
アレクシスは、エリアナの肩を抱いた。
「私こそ、素晴らしい妻を持てて幸運だ」
その言葉に、周囲がどよめいた。
悪魔公爵が誰かを褒めるなんて――少しでも人間らしいところを見せるなんて、思いもよらないことだったのだ。
そもそも、冷血な公爵の顔に浮かぶ、微笑に近いやわらかい表情さえ、人々にとっては大変な衝撃だった。
リリアーナの顔が、さらに険しくなった。どんなに整った顔立ちでも、醜い表情を浮かべているときは醜い。「百年に一度の美女」が台無しだった。
「では、失礼いたします」
エリアナは優雅に一礼して、アレクシスと共に歩き去った。
リリアーナの視線が、背中に突き刺さるのを感じた。
でも、もう怖くない。
「よくやった」
アレクシスが、小さく囁いた。
「君は、堂々としていた」
「あなたがいてくれたから」
二人は、広間の中を歩いた。
人々が、エリアナに視線を向ける。
「ヴァルモント公爵夫人、なんてお美しい」
「あの方が、噂の……」
「悪魔公爵が、あんなに優しい顔をするなんて」
囁き声が、聞こえる。
エリアナは、初めて社交界で注目を浴びた。
以前は、リリアーナの影に隠れて、誰からも見向きもされなかった。
でも今は——
「エリアナ」
アレクシスが、彼女を抱いてダンスフロアへと導いた。
音楽が流れる。
二人は踊り始めた。
アレクシスのリードは完璧で、エリアナは彼に身を委ねた。
周囲の人々が、二人を見つめている。
「あの二人、お似合いね」
「公爵が、あんなに優しい目をするなんて」
「奥様も、美しい方だわ」
エリアナは、アレクシスの腕の中で微笑んだ。
「皆が、見ていますね」
「気にするな。私は、君だけを見ている」
その言葉に、エリアナの心が温かくなった。
曲が終わり、二人は拍手を受けた。
その後、エリアナは多くの貴婦人たちに声をかけられた。
「ヴァルモント公爵夫人、初めまして」
「あなたのドレス、素敵ですわ」
「ぜひ、私の茶会にもいらしてください」
誰もが友好的だった。
公爵夫人としての地位、そしてエリアナ自身の魅力が、人々を惹きつけていた。
エリアナは、一人一人に丁寧に応対した。
社交界での振る舞いは、母から教わっていた。ただ、これまで実践する機会がなかっただけ。
舞踏会が終わる頃、エリアナは疲れていたが、同時に充実感を感じていた。
馬車の中で、アレクシスが言った。
「君は、素晴らしかった。誰もが、君に魅了されていた」
「そんな……」
「本当だ。君は、生まれながらの貴婦人だ。ただ、それを発揮する機会がなかっただけ」
エリアナは、アレクシスの手を握った。
「全て、あなたのおかげです。あなたが、わたくしを信じてくれたから」
「いや。君自身の力だ」
二人は見つめ合った。
そして、口づけを交わした。
「え……まさか、お姉様?」
その声には、信じられないという響きがあった。
エリアナは、落ち着いて微笑んだ。
「お久しぶりです、リリアーナ」
「ま、まあ……お姉様ったら、どうして……」
リリアーナは、エリアナの姿を上から下まで見た。美しいドレス、輝く宝石、そして何より——その堂々とした振る舞い。
以前の、うつむいて影のようだった姉の姿はどこにもない。
「文化も流行も届かない、北の果ての地にいたはずなのに……ずいぶん変わったものね」
その声には、明らかな動揺があった。
冷酷非道な悪魔のもとに嫁いだエリアナが、毎日泣き暮らしているとでも思っていたのだろう、きっと。
「ヴァルモント公爵夫人」
夫のアンリが、丁寧にお辞儀をした。
「お美しい。都の噂になるでしょう」
「ありがとうございます」
エリアナは、優雅に答えた。
リリアーナの顔が、かすかに歪んだ。
「お姉様、ずいぶんお幸せそうで……」
その言葉には、皮肉が混じっている。
でも、エリアナは動じなかった。
「ええ、とても幸せです」
彼女は、アレクシスを見上げた。
「夫が、素晴らしい方ですから」
アレクシスは、エリアナの肩を抱いた。
「私こそ、素晴らしい妻を持てて幸運だ」
その言葉に、周囲がどよめいた。
悪魔公爵が誰かを褒めるなんて――少しでも人間らしいところを見せるなんて、思いもよらないことだったのだ。
そもそも、冷血な公爵の顔に浮かぶ、微笑に近いやわらかい表情さえ、人々にとっては大変な衝撃だった。
リリアーナの顔が、さらに険しくなった。どんなに整った顔立ちでも、醜い表情を浮かべているときは醜い。「百年に一度の美女」が台無しだった。
「では、失礼いたします」
エリアナは優雅に一礼して、アレクシスと共に歩き去った。
リリアーナの視線が、背中に突き刺さるのを感じた。
でも、もう怖くない。
「よくやった」
アレクシスが、小さく囁いた。
「君は、堂々としていた」
「あなたがいてくれたから」
二人は、広間の中を歩いた。
人々が、エリアナに視線を向ける。
「ヴァルモント公爵夫人、なんてお美しい」
「あの方が、噂の……」
「悪魔公爵が、あんなに優しい顔をするなんて」
囁き声が、聞こえる。
エリアナは、初めて社交界で注目を浴びた。
以前は、リリアーナの影に隠れて、誰からも見向きもされなかった。
でも今は——
「エリアナ」
アレクシスが、彼女を抱いてダンスフロアへと導いた。
音楽が流れる。
二人は踊り始めた。
アレクシスのリードは完璧で、エリアナは彼に身を委ねた。
周囲の人々が、二人を見つめている。
「あの二人、お似合いね」
「公爵が、あんなに優しい目をするなんて」
「奥様も、美しい方だわ」
エリアナは、アレクシスの腕の中で微笑んだ。
「皆が、見ていますね」
「気にするな。私は、君だけを見ている」
その言葉に、エリアナの心が温かくなった。
曲が終わり、二人は拍手を受けた。
その後、エリアナは多くの貴婦人たちに声をかけられた。
「ヴァルモント公爵夫人、初めまして」
「あなたのドレス、素敵ですわ」
「ぜひ、私の茶会にもいらしてください」
誰もが友好的だった。
公爵夫人としての地位、そしてエリアナ自身の魅力が、人々を惹きつけていた。
エリアナは、一人一人に丁寧に応対した。
社交界での振る舞いは、母から教わっていた。ただ、これまで実践する機会がなかっただけ。
舞踏会が終わる頃、エリアナは疲れていたが、同時に充実感を感じていた。
馬車の中で、アレクシスが言った。
「君は、素晴らしかった。誰もが、君に魅了されていた」
「そんな……」
「本当だ。君は、生まれながらの貴婦人だ。ただ、それを発揮する機会がなかっただけ」
エリアナは、アレクシスの手を握った。
「全て、あなたのおかげです。あなたが、わたくしを信じてくれたから」
「いや。君自身の力だ」
二人は見つめ合った。
そして、口づけを交わした。
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