21 / 46
第四章 氷が溶けるとき
夫は優しい人です
しおりを挟む
翌日、エリアナは貴婦人たちのお茶会に招待された。
女性同士の社交の始まりだ。
一人で参加するエリアナを、アレクシスは心配そうに見送った。
「大丈夫か」
「はい。もう、怖くありません」
エリアナは、微笑んで答えた。
独身時代には、お茶会など誘われたことがない。地味な服を着て、いつもうつむいているエリアナは、同年代の令嬢の目に止まらなかったのだ。
初めてのお茶会。でもエリアナは、きっとうまくやれるだろう、という予感を感じていた。
お茶会は、公爵夫人シャルロットの屋敷で開かれた。
優美に飾られたティールームには、十数人の貴婦人が集まっていた。
「ヴァルモント公爵夫人、ようこそ」
シャルロット公爵夫人が、温かく迎えてくれた。
「お招きいただき、ありがとうございます」
エリアナは、優雅に一礼した。
席につくと、周りの夫人たちが話しかけてきた。
「公爵夫人、昨夜の舞踏会、お美しかったですわ」
「ヴァルモント公爵が、あんなに優しい表情をされるなんて、驚きました」
「お二人、本当にお似合いです」
エリアナは、頬を染めて答えた。
「ありがとうございます。夫は、とても優しい人です」
「まあ、それは意外」
一人の婦人が言った。
「悪魔公爵という噂でしたのに」
「あれは、誤解です」
エリアナは、はっきりと言った。
「夫は、誰よりも心優しく、正義感の強い人です。領民からも慕われています」
その言葉に、婦人たちは驚いた顔をした。
「そうだったのですか」
「では、あの悪評は……」
「事実無根です」
エリアナは、毅然と答えた。
「夫の実直さを快く思わない人々が、流した噂に過ぎません」
婦人たちは、顔を見合わせた。
「エリアナ様がそうおっしゃるなら、きっとそうなのでしょう」
「これから、正しい評判が広まるといいですわね」
エリアナは、微笑んだ。
アレクシスの名誉を守れたことが、嬉しかった。
お茶会は和やかに進んだ。
婦人たちは音楽や文学の話で盛り上がった。エリアナの教養の深さに、婦人たちは感心した様子だった。
「エリアナ様はピアノがお上手だと伺いましたが」
「少々、たしなむ程度ですが」
「ぜひ、今度聴かせてくださいな」
エリアナは幸福な気持ちでうなずいた。
その時、扉が開いて、一人の華やかな婦人が入ってきた。
リリアーナだった。
「遅れてすみません」
彼女は、美しい笑顔で言った。
でも、その笑顔は、エリアナを見た瞬間、わずかに固まった。
「まあ、ダルクール侯爵夫人」
シャルロット公爵夫人が、リリアーナを迎えた。
「ようこそ。ちょうど、ヴァルモント公爵夫人とお茶をしていたところですのよ」
リリアーナは、エリアナの隣の席に座った。
「お姉様、まさかここでお会いできるなんて」
その声は、表面的には親しげだったが、底には冷たさがあった。
女性同士の社交の始まりだ。
一人で参加するエリアナを、アレクシスは心配そうに見送った。
「大丈夫か」
「はい。もう、怖くありません」
エリアナは、微笑んで答えた。
独身時代には、お茶会など誘われたことがない。地味な服を着て、いつもうつむいているエリアナは、同年代の令嬢の目に止まらなかったのだ。
初めてのお茶会。でもエリアナは、きっとうまくやれるだろう、という予感を感じていた。
お茶会は、公爵夫人シャルロットの屋敷で開かれた。
優美に飾られたティールームには、十数人の貴婦人が集まっていた。
「ヴァルモント公爵夫人、ようこそ」
シャルロット公爵夫人が、温かく迎えてくれた。
「お招きいただき、ありがとうございます」
エリアナは、優雅に一礼した。
席につくと、周りの夫人たちが話しかけてきた。
「公爵夫人、昨夜の舞踏会、お美しかったですわ」
「ヴァルモント公爵が、あんなに優しい表情をされるなんて、驚きました」
「お二人、本当にお似合いです」
エリアナは、頬を染めて答えた。
「ありがとうございます。夫は、とても優しい人です」
「まあ、それは意外」
一人の婦人が言った。
「悪魔公爵という噂でしたのに」
「あれは、誤解です」
エリアナは、はっきりと言った。
「夫は、誰よりも心優しく、正義感の強い人です。領民からも慕われています」
その言葉に、婦人たちは驚いた顔をした。
「そうだったのですか」
「では、あの悪評は……」
「事実無根です」
エリアナは、毅然と答えた。
「夫の実直さを快く思わない人々が、流した噂に過ぎません」
婦人たちは、顔を見合わせた。
「エリアナ様がそうおっしゃるなら、きっとそうなのでしょう」
「これから、正しい評判が広まるといいですわね」
エリアナは、微笑んだ。
アレクシスの名誉を守れたことが、嬉しかった。
お茶会は和やかに進んだ。
婦人たちは音楽や文学の話で盛り上がった。エリアナの教養の深さに、婦人たちは感心した様子だった。
「エリアナ様はピアノがお上手だと伺いましたが」
「少々、たしなむ程度ですが」
「ぜひ、今度聴かせてくださいな」
エリアナは幸福な気持ちでうなずいた。
その時、扉が開いて、一人の華やかな婦人が入ってきた。
リリアーナだった。
「遅れてすみません」
彼女は、美しい笑顔で言った。
でも、その笑顔は、エリアナを見た瞬間、わずかに固まった。
「まあ、ダルクール侯爵夫人」
シャルロット公爵夫人が、リリアーナを迎えた。
「ようこそ。ちょうど、ヴァルモント公爵夫人とお茶をしていたところですのよ」
リリアーナは、エリアナの隣の席に座った。
「お姉様、まさかここでお会いできるなんて」
その声は、表面的には親しげだったが、底には冷たさがあった。
59
あなたにおすすめの小説
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!
松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」
「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」
「……こいびと?」
◆
「君を愛するつもりはない」
冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。
「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」
利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった!
公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる