28 / 46
第五章 嵐の予兆
汚されない絆
しおりを挟む
リリアーヌはあせっていた。
ありえないことが起きていた。
今夜のリリアーヌは、ことのほか美しかった。
特に念入りに化粧をして、リリアーヌに一番よく似合う髪型をしていた。
「百年に一度の美少女」――結婚してからは「百年に一度の美女」と呼ばれているのは、伊達ではない。
これまで、どんなカタブツの男でも、微笑み一つで足元に這いつくばらせてきた彼女なのに。
この男は、アレクシスは、あろうことか。
キスしようとしたリリアーヌの顔を、押しのけたのだ。
まさか、この私からのキスを、拒む男がいるなんて。
これまで男を思い通りにできなかったことのないリリアーヌにとって、大変な衝撃だった。
しかも、アレクシスは普通の状態ではない。
強力な媚薬を飲んでいる。
女とみれば、すぐに飛びかかって襲いたくなるような状態のはずだ。
そんな状態で、リリアーヌほどの美女を拒むなんて、絶対にありえないことだった。
アレクシスは薬のせいで混乱しているのかもしれない、とリリアーヌは考えた。
「ねえ、アレクシス様。照れておられるのかしら。わたくしを、よーくご覧になって。あなたのことをずっと前からお慕いしていたの」
甘く囁きながら、アレクシスの顔を両手ではさみ、自分の方へ向けさせる。
「ここには、わたくしたち二人だけ。誰も邪魔する者はいない。遠慮しないで、好きにしてくださっていいんですよ。わたくしをどうか……むちゃくちゃにし・て」
アレクシスはリリアーナの手を振り払った。
体に力の入らない状態で、リリアーヌから離れようとして、ベッドから落ちた。ふらふらしながら立ち上がり、扉へ向かう。
リリアーナがあっけにとられているうち、アレクシスは扉を開けて、廊下へ出ようとしていた。
「お待ちになって! お願い! 女に恥をかかせないで!」
リリアーナは駆け寄り、後ろからアレクシスに抱きついた。
必死だった。何があろうと、ここで彼を逃がすわけにはいかない。
薬でふらふらのはずのアレクシスが、なぜ動けるのか、なぜ彼女を拒めるのかはわからないが――とにかく既成事実を作ってしまわなくては。
「お願いですから、今ここで、わたくしを抱いてくださいませ!」
アレクシスを再び室内へ引きずり込もうとしていたリリアーナは、凍りついた。
「何をしているの、リリアーナ!」
聞き覚えのある声が響きわたったからだ。
リリアーナがおそるおそる声の方へ視線を向けると。
廊下の向こう端に、エリアナが立っていた。宮廷の警護兵たちも一緒だ。
あられもない姿で男にしがみつき、「抱いて」と叫んでいるところを、見られてしまった。
決定的瞬間といってもよかった。
「エリアナ……」
アレクシスの声は薬のせいで弱々しかった。
「信じてほしい。何もなかった」
「もちろんです。わたくしが、あなたを信じないことなどありません」
涙ぐみながら、エリアナはきっぱりと答えた。
ありえないことが起きていた。
今夜のリリアーヌは、ことのほか美しかった。
特に念入りに化粧をして、リリアーヌに一番よく似合う髪型をしていた。
「百年に一度の美少女」――結婚してからは「百年に一度の美女」と呼ばれているのは、伊達ではない。
これまで、どんなカタブツの男でも、微笑み一つで足元に這いつくばらせてきた彼女なのに。
この男は、アレクシスは、あろうことか。
キスしようとしたリリアーヌの顔を、押しのけたのだ。
まさか、この私からのキスを、拒む男がいるなんて。
これまで男を思い通りにできなかったことのないリリアーヌにとって、大変な衝撃だった。
しかも、アレクシスは普通の状態ではない。
強力な媚薬を飲んでいる。
女とみれば、すぐに飛びかかって襲いたくなるような状態のはずだ。
そんな状態で、リリアーヌほどの美女を拒むなんて、絶対にありえないことだった。
アレクシスは薬のせいで混乱しているのかもしれない、とリリアーヌは考えた。
「ねえ、アレクシス様。照れておられるのかしら。わたくしを、よーくご覧になって。あなたのことをずっと前からお慕いしていたの」
甘く囁きながら、アレクシスの顔を両手ではさみ、自分の方へ向けさせる。
「ここには、わたくしたち二人だけ。誰も邪魔する者はいない。遠慮しないで、好きにしてくださっていいんですよ。わたくしをどうか……むちゃくちゃにし・て」
アレクシスはリリアーナの手を振り払った。
体に力の入らない状態で、リリアーヌから離れようとして、ベッドから落ちた。ふらふらしながら立ち上がり、扉へ向かう。
リリアーナがあっけにとられているうち、アレクシスは扉を開けて、廊下へ出ようとしていた。
「お待ちになって! お願い! 女に恥をかかせないで!」
リリアーナは駆け寄り、後ろからアレクシスに抱きついた。
必死だった。何があろうと、ここで彼を逃がすわけにはいかない。
薬でふらふらのはずのアレクシスが、なぜ動けるのか、なぜ彼女を拒めるのかはわからないが――とにかく既成事実を作ってしまわなくては。
「お願いですから、今ここで、わたくしを抱いてくださいませ!」
アレクシスを再び室内へ引きずり込もうとしていたリリアーナは、凍りついた。
「何をしているの、リリアーナ!」
聞き覚えのある声が響きわたったからだ。
リリアーナがおそるおそる声の方へ視線を向けると。
廊下の向こう端に、エリアナが立っていた。宮廷の警護兵たちも一緒だ。
あられもない姿で男にしがみつき、「抱いて」と叫んでいるところを、見られてしまった。
決定的瞬間といってもよかった。
「エリアナ……」
アレクシスの声は薬のせいで弱々しかった。
「信じてほしい。何もなかった」
「もちろんです。わたくしが、あなたを信じないことなどありません」
涙ぐみながら、エリアナはきっぱりと答えた。
46
あなたにおすすめの小説
婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!
ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。
ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~
小説家になろうにも投稿しております。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。
「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」
エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる