【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

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第五章 嵐の予兆

汚されない絆

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 リリアーヌはあせっていた。
 ありえないことが起きていた。

 今夜のリリアーヌは、ことのほか美しかった。
 特に念入りに化粧をして、リリアーヌに一番よく似合う髪型をしていた。
 「百年に一度の美少女」――結婚してからは「百年に一度の美女」と呼ばれているのは、伊達だてではない。

 これまで、どんなカタブツの男でも、微笑み一つで足元に這いつくばらせてきた彼女なのに。

 この男は、アレクシスは、あろうことか。
 キスしようとしたリリアーヌの顔を、押しのけたのだ。

 まさか、この私からのキスを、拒む男がいるなんて。
 これまで男を思い通りにできなかったことのないリリアーヌにとって、大変な衝撃だった。


 しかも、アレクシスは普通の状態ではない。
 強力な媚薬を飲んでいる。
 女とみれば、すぐに飛びかかって襲いたくなるような状態のはずだ。

 そんな状態で、リリアーヌほどの美女を拒むなんて、絶対にありえないことだった。


 アレクシスは薬のせいで混乱しているのかもしれない、とリリアーヌは考えた。

「ねえ、アレクシス様。照れておられるのかしら。わたくしを、よーくご覧になって。あなたのことをずっと前からお慕いしていたの」

 甘く囁きながら、アレクシスの顔を両手ではさみ、自分の方へ向けさせる。

「ここには、わたくしたち二人だけ。誰も邪魔する者はいない。遠慮しないで、好きにしてくださっていいんですよ。わたくしをどうか……むちゃくちゃにし・て」

 アレクシスはリリアーナの手を振り払った。

 体に力の入らない状態で、リリアーヌから離れようとして、ベッドから落ちた。ふらふらしながら立ち上がり、扉へ向かう。
 リリアーナがあっけにとられているうち、アレクシスは扉を開けて、廊下へ出ようとしていた。

「お待ちになって! お願い! 女に恥をかかせないで!」

 リリアーナは駆け寄り、後ろからアレクシスに抱きついた。
 必死だった。何があろうと、ここで彼を逃がすわけにはいかない。
 薬でふらふらのはずのアレクシスが、なぜ動けるのか、なぜ彼女を拒めるのかはわからないが――とにかく既成事実を作ってしまわなくては。

「お願いですから、今ここで、わたくしを抱いてくださいませ!」

 アレクシスを再び室内へ引きずり込もうとしていたリリアーナは、凍りついた。

「何をしているの、リリアーナ!」

 聞き覚えのある声が響きわたったからだ。


 リリアーナがおそるおそる声の方へ視線を向けると。
 廊下の向こう端に、エリアナが立っていた。宮廷の警護兵たちも一緒だ。

 あられもない姿で男にしがみつき、「抱いて」と叫んでいるところを、見られてしまった。
 決定的瞬間といってもよかった。

「エリアナ……」

 アレクシスの声は薬のせいで弱々しかった。

「信じてほしい。何もなかった」

「もちろんです。わたくしが、あなたを信じないことなどありません」

 涙ぐみながら、エリアナはきっぱりと答えた。 
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