【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

文字の大きさ
32 / 46
第六章 陰謀

思いがけない非難

しおりを挟む
「伯爵、入るがよい」

 王の言葉に応じて入室してきたのは、エリアナの父であるロベール・フォンティーヌ伯爵だった。
 継母のマルグリットと妹のリリアーナも一緒だ。

 伯爵の背後から、従者が銀盆を捧げ持って現れる。盆の上には、厚手の羊皮紙の束と、黒革装丁の帳簿――さらに別の従者が、両手で抱えるほどの木箱を運んでくる。

「フォンティーヌ伯爵より、極めて憂慮すべき事案の報告があった。密輸――禁制物資の不法取引についての告発である」

 王の言葉は、まったく思いもかけないものだった。
 エリアナはあっけにとられた。
 猛烈にいやな予感がする。傍らに立つアレクシスの手を、固く握りしめた。

「伯爵、ここにて明らかにせよ」
「ははっ」

 ロベールは恭しく頭を垂れると、銀盆から一枚の契約書を取り上げた。
 それを高く掲げ、王が見えるように角度を変える。

「これは、南方貿易ギルドとの間で取り交わされた『南海諸島航路における特別物資供給契約書』にございます。取引品目は『希少鉱石』『霧薬草エキス』『特級魔導触媒』……いずれも、わが国からの輸出が禁止されている禁制品です。これらを国外へ売りさばけば、莫大な利益を得ることができるでしょう」

 読み上げながら、ロベールはわざとゆっくりと紙をめくる。厚い羊皮紙には、細かな文字が隙なく並び、その隅――透かしには、見慣れた紋章が浮かび上がっていた。
 ヴァルモント公爵家の、鷲と月桂冠の紋章だ。

「売主の名義は――ヴァルモント公爵家。署名は、公爵家執事セバスチャン・リュディア。印もまた、公爵家の公式封蝋にございます」

 ロベールは堂々たる態度で言い切った。

「そ、そんなはずは……」

 エリアナは小さくつぶやいた。
 アレクシスは不正取引などする人ではない。
 何か恐ろしいことが起きている気がして、脚が小刻みに震える。

 ロベールは契約書の束を従者に渡し、今度は黒革の帳簿を持ち上げた。表紙の端には、やはりヴァルモント家の紋章が焼き印されている。

「この帳簿には、十年にわたる取引の収支が記されております。南方ギルドよりの入金、禁制物資の売却益、そして……港湾役人への賄賂の支払いまで」

 ぱらぱらとページをめくるたび、インクで黒く汚れた数字がちらりと見えた。
 その数字の脇には、見慣れた略号――執事セバスチャンのサインに似た記号が、いくつもいくつも記されている。

 エリアナは、胸に冷水をかけられたような心地がした。

(そんな……セバスチャンが、そんなことを?)

 信頼してきた家人の名が、黒く汚れた文字として並んでいる。めまいがした。

「さらに、南部港湾税関の台帳と船荷証券の写しもございます」

 別の書類が持ち上げられ、官吏が前に進み出る。
 彼はこわばった顔つきで敬礼し、王の前にひざまずいた。

「税関職員、ヨアン・ブライスにございます。ここに証言書を……」

 税関印と魔術印が押された証言書が示され、その内容が読み上げられる。

「――ヴァルモント公爵家名義の通関手続きが、過去数年にわたり反復継続して行われていたことを、このヨアン・ブライスは確かに見聞した……」

 エリアナの耳には、もう言葉が遠く響いているだけだった。

 その証言を裏打ちするように、騎士団長が一歩前に出て、木箱の蓋を開く。

 黒く鈍く光る鉱石が、燭光を受けて不気味な輝きを放った。
 希少鉱石ロクサロイドだ。見間違いようがなかった。
 箱の側面には、やはり、鷲と月桂冠の紋章が刻まれている。

「先日、南部港倉庫を急襲した際に押収した品です。箱にはヴァルモント公爵家の紋章が刻まれ、封蝋も公爵家のものと鑑定されています」

 騎士団長の声には、義憤が含まれていた。


 完璧なまでに証拠が揃っている。
 契約書、裏帳簿、税関の書類、押収された禁制品。
 ヴァルモント公爵が禁制品の不正取引に関わっていたことは、もはや疑いようのない事実、だと誰もが思うだろう。

 恐ろしさのあまり、エリアナは震えていた。

 そんな彼女の手を、アレクシスがぎゅっと握り返した。
 大丈夫だ、心配するな、というように。

 エリアナは彼の横顔を見上げた。
 アレクシスは表情を変えずに、王をまっすぐ見返していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました

蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。 互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう… ※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした 義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。 そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。 奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。 そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。 うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。 しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。 テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。 ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

処理中です...