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一章 役立たず王女、島流しにされる
②
しおりを挟むシールカイズ王国は山に囲まれていて鉱山がたくさんあり、そこでは宝石がよく採れた。
王族や貴族たちは宝石を加工し、他国に輸出することで富を得ていた。
シールカイズの宝石はどれも上質で、この国でしか採れない珍しいものもあった。
その希少性から高値で取り引きされて、他国の王族や貴族たちの間で大人気だったのだ。
幼い頃に『シールカイズの宝石』と言われたのはメイジーだった。
母譲りのホワイトゴールドの髪や白い肌は天使のようだ。
控えめな彼女は愛らしく庇護欲を誘ったため、皆から可愛がられていた。
そのことが気に入らなかった王妃とジャシンスに潰されてしまったのだ。
ジャシンスは王妃と同じで真っ赤な血のような髪とダークブラウンの瞳。
そしてわがままで好き勝手に散財して他者を傷つけて時には死に追いやることもあった。
そんな残虐でわがままな性格から裏では『赤の魔女』『わがまま王女』と呼ばれていた。
メイジーの心の拠り所は母親が残してくれた白い珠が嵌め込まれた指輪、それと本だ。
部屋に閉じこもっていたメイジーはたくさんの本を読んでいた。
彼女のそばには乳母となったリディという侍女が一人だけ。
リディだけはメイジーを心から愛してくれていた。
リディがいてくれたからメイジーは壊れずに済んだのだ。
部屋の中にいれば安全だった。
けれど突然、メイジーの取り巻く環境は一変することになる。
ジャシンスとメイジーの父親であるシールカイズ国王が病気になり寝たきりの状態になった。
そして次に王位を継いで女王になるのはメイジーだと指名したのだ。
それがジャシンスが十八歳の時、メイジーが十七歳の時だった。
メイジーが邪魔になった王妃とジャシンスは、すぐに動いた。
シールカイズ国王が何もできない間にメイジーに罪を被せて島流しにしたのだ。
その際に母親の形見でもある大切な指輪も奪われてしまう。
『メイジーはお母様から貰った大切な指輪を盗んだ罪人だわ!』
ジャシンスに罪人のレッテルを貼られて引き摺られるようにして海へ。
ジャシンスはメイジーの立場も婚約者も奪い取った。
そこで現れたのは第三王女のサファイアである。
彼女はシールカイズ国王の隠し子だったのだ。
国を憂いた者たちはサファイアを支持して、シールカイズ王国を取り戻そうと動く。
ジャシンスと王妃から王位を取り戻すまでを描く物語である。
序盤で女王に指名されたにもかかわらず、表に出ることもなく、復讐も果たせずに島流しされてしまうのが第二王女メイジー。
『役立たず王女』は物語においても役立たずのまま。
消えて二度と表舞台に出ることはない。
宝石が出てくるということで仕事仲間に教えてもらったお話ではあるが、主人公のサファイアは日本からの転生者だった。
そして島流しされている最中のこの状況と杏珠で日本にいる記憶を持っているが体はメイジーというこの状況。
憶測ではあるが、メイジーに転生してしまったのが杏珠ということになる。
しかしもう海の上でメイジーは島流しにされた後だ。
ジャシンスと戦うこともなく、逃げ道を模索する隙もなく、この有様である。
(……このタイミングで記憶を思い出すってどういうことよ)
体から力が抜けた瞬間に蘇るのは杏珠の記憶。
杏珠は母子家庭で育った。
経営者だった父親は秘書だった母に無理やり関係を迫り、生まれたのが杏珠だった。
そのせいで母は退職に追い込まれてしまう。
本妻とその娘に疎まれながら育ったのはメイジーと同じ境遇だろう。
母親は杏珠を守りながら女手一つで育ててくれた。
(たくさんお金を稼いでいつかお母さんに楽をさせたい……!)
その気持ちで杏珠はひたすら勉強に励んだ。
杏珠が中学生になった頃、ついに母親が嫌がらせに耐えきれなくなり精神を病んでしまう。
本妻からずっと虐げられていたと知った杏珠は自分の無力さを恨んだ。
本妻から虐げられ続けた理由は父親が逃げる母親に執着していたからだ。
職や住む場所が転々と変わるのはそのせいだったと、成長した今なら気がつくことができた。
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