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一章 役立たず王女、島流しにされる
①
しおりを挟む見渡す限りの青い空、波の音がすぐ近くに聞こえる。
ゆらゆらと揺れる体とギシギシと軋む木材。
(ここは……?)
上半身を起こすと、そこには信じられない景色が広がっていた。
「…………ここ、どこ?」
空と同様、どこまでも広がる海。
周りには島や陸地、他の船も見当たらない。
頭に浮かぶのは〝死〟の文字。言葉を失っていた。
下を向けば焦茶色の今にも壊れてしまいそうな人一人寝転べるだけの小さな船。
木材は傷んでいて今にも沈んでしまいそうだ。
「……きゃっ!」
波に揺られて尻もちをついて後ろに倒れ込む。
背中が痛むが、なんとか起き上がろうとしてバランスを崩してしまう。
「痛い……」
そう呟いた瞬間、ハラハラと涙が溢れ出てくる。
悲しい気持ちが込み上げてきて涙は止まることはない。
このままでは波に揺られて船から落ちてしまう。
どうにかバランスを取る方法を考えた結果、震える手で体を支えながら船に寝転んだ。
今まで感じたことがない恐怖が襲う。五感のすべてが警鐘を鳴らす。
自らを荒く息を吐き出しながら、震える手を抑えるようにお腹の上で手を組んだ。
そしてこの絶望的な状況で諦めたように目を閉じる。
(今、何をしているんだっけ……落ち着いて。わたしは杏珠(あんじゅ)……え? 違う、わたしはメイジーだわ)
自分のことを思い出そうとして出てきたのは二つの名前だ。
(この記憶は何? 夢だった宝石バイヤーとして働いていたから…………ううん、違う。わたしは王女。第二王女としてシールカイズ王国で……何言ってるの? 日本に住んでいるのに)
頭が混乱してしまい思わず起き上がって自身の格好を確認する。
先行投資で買ったオーダーメイドのスーツではない。
下を見ると地味な色だがダークブルーの生地は上品なものだとわかる。
ホワイトのレースや生地がアクセントに使われていて美しい。
けれど重たくて腹部の締め付けが苦しいと感じた。
(ドレス……?)
胸下まで伸びるホワイトゴールドの髪。
ウィッグかと思い、引いてみると頭皮から引かれる痛みを感じる。
「これって、わたしの髪よね……黒髪だったはずなのに……この髪色は?」
つまりこれは自分の髪ということになる。
船から投げ出されないようにヘリを掴んで恐る恐る海を覗き込む。
そこに映っていたのはホワイトゴールドの髪にヘーゼルの瞳。
長く伸ばされた前髪をめくると、くりっとした目に小さな唇。
可愛らしい顔に驚いて体を引いた。
「ど、どういうこと!? わたしはメイジー? いや、メイジーって誰なのよ!」
自分で言っておいて自分で突っ込んでしまった。
けれど自分が今、記憶にある『杏珠』ではないことは確かだ。
そこでズキンと頭が痛んで額を押さえた。
『メイジー・ド・シールカイズ』
彼女は悲劇の脇役だった。
第一王女で悪役のジャシンス・ド・シールカイズに婚約者を取られてしまい、国宝を盗んで売ろうとしたという罪を被せられて島流しに合う王女だ。
彼女は無口で暗くて何も言えずに、いつも下を向いて部屋にこもりきりだった。
それは幼い頃からジャシンスに虐げられ続けた結果だった。
その理由は単純でメイジーが自分より美しいことが気に入らなかったからだ。
彼女たちは母親が違う。
メイジーの母親は元々体が弱く、メイジーを産んで暫くして亡くなったと聞いた。
彼女の形見だという指輪がたった一つの繋がりだった。
けれどメイジーの美しさに嫉妬した王妃とジャシンスの嫌がらせが始まった。
陰湿な虐めに耐えられずメイジーはすっかり人間不信となってしまう。
それからはずっと部屋に閉じこもったまま……。
彼女は『役立たず王女』、そう呼ばれていた。
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