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一章 役立たず王女、島流しにされる
③
しおりを挟む彼女の美しさは失われて寝たきりになってしまうと、父親はあっさりと手のひらを返す。
手切れ金として百万ほど杏珠の前に置かれて『お前はもう俺の娘じゃない』と、縁を切るように言われた。
それらに杏珠の心に激しい怒りが込み上げる。
父親と同じ宝石事業に入ったのは彼らへの復讐心からだ。
通信制の高校に通いながらアルバイトでお金を貯めた。
専門学校に通いながら宝石鑑定士の資格を取り、母の看病をしながら就職したのは買取業や宝石バイヤー、自社で研磨職人や加工職人、ジュエリーデザイナーとして幅広い事業を展開する会社で父親の経営するライバル会社だ。
ここで成り上がると決めて、ひたすら会社に情熱をぶつけた。
採掘業者や採掘業者とや鉱山主を繋ぐ仲介業者に関わり、宝石バイヤーとして頭角を現すようになる。
そのうち他のバイヤーのように世界に行ってみたいと思うようになる。
だけど母親を置いてはいけなかった。
(お母さんが元気になったら、色々な場所に連れて行けるように今からいっぱい貯金しないと……!)
そんな気持ちで誤魔化していたものの母親の症状はどんどんと悪化して、病は体まで蝕んでいく。
なるべくそばにいようと仕事を早く切り上げては面会時間ギリギリまで病室にいた。
そんなある日……病院からの電話で母の危篤を知り駆けつけると震える手が伸ばされていた。
手を握りながら母親との最後の時間を過ごした杏珠だったが、そのまま帰らぬ人へ。
まともな会話もできないまま亡くなってしまった母親。
(わたしは何のために頑張ってきたんだろう……)
お金を稼ぐ意味もわからなくなり、途方に暮れていた杏珠の前に置かれた一枚のメモ。
そこには四桁の数字が書かれていた。
口座の暗証番号かとも思ったがそれも違った。
メモの内容は結局わからないまま家に帰り、母親の荷物を整理していた時にダイヤル式の小さな金庫を見つける。
まさかと思い、四桁の数字をダイヤルに入力するとカチャリと金庫のフタが開いた。
『杏珠の夢を応援する』というメモと共に通帳が入っていた。
そこには母親が自分のことを思って貯めてくれたお金が入っていた。
それと二人で撮った写真が入っていたのだ。
メモと写真を見た瞬間、その場に崩れ落ちた。
もっと一緒にいたかった、そんな後悔が押し寄せるが、前に進まなければと立ち上がる。
(お母さん、ありがとう……!)
通帳を握りしめて涙を拭った。
母の思いを無駄にしないためにもすぐに行動に移す。
会社から独立することを選択したのだ。
独立したい意思を伝えると社長も背中を押してくれた。
そのタイミングで父親の会社が自己破産。
小さなジュエリー会社を立ち上げると、今までの積み重ねの成果なのか、たくさんの人たちが協力してくれた。
富裕層向けに自宅の訪問販売を始めて、今まで
最初は苦労したが、事業も軌道に乗り始めて念願の店舗を出せたという時だった。
父親と義母、姉と見知らぬ男が現れたのだ。
「ほう……さすが俺の娘だ。まずは共同経営者としてやっていこうじゃないか」
「さっさと金を出しなさい。今まで育ててやった恩を返すのよ!」
「……勝手なことを言わないでください!」
父親と義母の身勝手な発言に頭に血が昇る。
今更家族として振る舞う姿は吐き気すら覚えた。
姉と見知らぬ男はショーケースに入った宝石を自分のもののように触れ始めた。
「ふーん、なかなかいいじゃない。これを売ればまた元の生活に戻れるわ」
「今すぐに出て行ってください。警察を呼びますよ」
「何だその態度は! 家族に向かって……!」
「わたしの家族は母だけです。お引き取りください」
「あの女に似て気だけは強いこと。さっさとこの店を明け渡しなさいっ!」
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