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二章 サバイバル生活
①⑧
しおりを挟む──そこから本当の地獄が始まった。
この島での生活は何もかもが原始的。
火を起こすのも手作業。海水から飲み水を作るのだってそうだ。
今日の食べ物を得るために魚や虫を捕まえるのは男性の仕事だが捌くのは女性の仕事。
先ほど生きていた生物の命をいただくのは色々と考えさせられた。
王女として暮らし、日本に住んでいる記憶があるせいか余計に苦痛に思うのかもしれない。
中でも強烈に辛かったのは芋虫をすり潰したもの。
彼からすればオヤツのようなもので、栄養価が高く重宝しているそうだ。
子どもたちは生きたまま踊り食い状態である。
メイジーにも進めてくれたのだが、彼らの大好物をいつまでも断り続けるわけにもいかない。
メイジーにも腹を括る時がくるようだ。
どうせ食べるのなら女性人気が高い甘めなものを頼んだ。
『メイジー、食べろ』
『この芋虫、一番あまい』
「い、いただきます……!」
メイジーはすり潰した芋虫を口にする。
暫く口の中にあり、咀嚼できなかったが震えながらも飲み込んでいく。
嗚咽して吐き出さなかったことが奇跡だろう。
今後の人生の中において、この食感と味を二度と忘れることはない。
ココナッツのような木の実からできた固い皿に入ったものを平らげたメイジーは暫く放心状態で動けなかった。
もちろんお毎日お風呂など入れるはずもなく、汚れた体を拭くだけ。
そんな中、ガブリエーレはわざわざ浴槽を作るように指示を出したのだそう。
メイジーがあの風呂のような場所で体を綺麗にできたのは神の生け贄になるためだったから。
本来はガブリエーレが使うものらしい。
彼が何者なのかがますますわからなくなる。
髪や顔につけたオイルは女性たちが化粧品代わりによく使っているものだそうだ。
木の実を潰して、絞って抽出する油を塗って肌を綺麗にしている。
着衣は海から流れ着いたものを使うこともあるそうだが、基本的には本人の自由。
女性たちは木の実や葉で染めた布を胸元や腰に巻いている。
洗濯ももちろん自分たちで行う。
ここでの生活を続けていくうちに、メイジーの珠のような肌は常に日に焼けて赤みを帯びていく。
今まで本をめくるだけの生活は一転して、何もかも自分でやらなければならない。
島の長の家に居候しつつ、体力のないメイジーは毎日疲れ果てて死んだように眠った。
島民たちとの仲を深めつつ、ガブリエーレについて聞いてみた。
彼がここに来たのはメイジーがこの島に流れ着く一週間前のこと。
なんと突然、空から舞い降りたらしい。
その美しすぎる容姿と見たことのない髪色や目の色。
何より喉や腕にある紋様が彼らが信仰している神に描かれているものに似ていたそう。
極め付けは嵐の日に不思議な力で大波を退けたことで、彼はこの島の神になったらしい。
てっきりこの島の住人ではないかと思っていたガブリエーレだが、たった二週間でここまで登り詰めるとはさすがである。
ガブリエーレが何者なのかは結局のところ彼らもわからないのだという。
一日中、岩場でできた崖の上にいて島を守ってくれているというが、メイジーには彼が何者で何を考えているのかまったくわからない。
メイジーは生け贄から神の遣いに昇格した日からガブリエーレの世話をしている。
主に食事を運んだり、入浴の介助をしたりしているのだが、その度にガブリエーレから飛ぶ嫌味に耐えるのが屈辱である。
『さっさと動け。手際が悪い』
『まるで召使いだな。元王女サマ』
『役に立つんだろう? で、いつがその時だ?』
いちいち勘に触る言い方ではあるが、笑顔で耐えるしかない。
メイジーがブチ切れないのをつまらなそうにしているガブリエーレ。
明らかに人で遊んでいるではないか。
(いつか……いつか絶対に跪かせてやるんだからっ!!!!)
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