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三章 転機の訪れ
③⑥
しおりを挟むメイジーはすぐにミミの元へと向かった。
フルーツの種を大量にもらって葉の袋に詰める。
頑張って作った網を持って慌てて海へと戻っていく。
それから手当たり次第に貝を乱獲して網のそばに持っていた。
この貝は取るだけなら何の問題はない。
問題は中身を確認しようとする時だ。
口を開いた瞬間にこちらに噛みついてくる凶暴さに、挟まれた鼻をそっと触れた。
外側は似ているからわからないけど、中はハッキリ色がわかれている。
メイジーはチラリと中を見てから色別に仕分けていく。
どんなに気をつけても貝が早すぎて噛みつかれてしまう。
何度も指や鼻を噛まれてしまった。
「いたたっ……! もうなんでこんなに凶暴なのよ!」
色を確認するだけでこんな風になってしまうのだ。
種を入れ込むのも苦労しそうだ。
そして七枚の網に赤やピンク、青と水色、黄とオレンジ、緑、紫、茶色、黒とわけていく。
波が高くなる時間は避けて島の手伝いに向かい、また海辺に戻って作業をしていると日が暮れてしまう。
(そろそろ戻らないと。夕食の支度の時間だわ……!)
次の日のために、貝が入った網を岩場に固定しなければならないのだが、その作業に苦戦していた。
(貝も暴れるし、気を抜くと転んでしまいそう。なかなか括れない……! 海の中は動きづらいわ)
大苦戦しながらも、なんとか貝が入った網を一つずつ固定していく。
すっかりと日が落ちて暗くて手元が見えずらくなってしまった。
それに加えて皮膚が擦り切れていたり、貝に噛まれていた部分に海水が沁みて痛い。
『手伝ってやろうか?』
「……!」
声を掛けられたメイジーはハッとした。
ガブリエーレの周りには不思議な光の玉が飛んでいる。
いつも油を染み込ませた木を松明代わりにしているのだが、ガブリエーレの元にそれを持っていくのはメイジーの役割りだ。
つまりそれがないため自分で何かを光らせているのだろう。
(いけない……っ! もうこんな時間に!)
メイジーが慌てて立ち上がると、波に貝と網が流されてしまう。
「あっ……!」
慌てて網を取りに行こうとするものの岩に躓いて転んでしまう。
顔面から飛び込んでしまい、額を強くぶつけてしまったらしい。
頭が割れるような痛みが走る。
貝もここぞとばかりに網から逃げていく。
顔を上げたメイジーは腕を伸ばしながら涙目になっていた。
(ああ……わたくしの努力がっ)
メイジーは空っぽな網が波に流れないように掴む。
嫌な予感がしつつ、ゆっくりと体を起こす。
水でびしょ濡れだし、そこら中が痛すぎて顔が歪む。
(黒い真珠が逃げちゃったわ。一番数が少なかったのに……)
メイジーは顔についた水を拭って海岸へと戻る。
そしてこの惨状をずっと見ていたであろうガブリエーレを見上げた。
「ごめんなさい……もう夕食の時間よね。すぐに準備するわ」
『……そこまで時間をかけて苦労して、ボロボロになっても何も成果が得られない。それでも続けるのか?』
ガブリエーレはメイジーの顔を見れば質問ばかりする。
水を払ってスカートの裾の水分を絞りながら答えた。
「えぇ、続けるわ。当たり前じゃない」
『……何故?』
「何故って……」
そう聞かれてメイジーは改めて考えた。
うまい言葉が見つからずに顎に手を当てて首を捻っている。
『もう俺の力に気がついているのだろう? どうして頼ろうとしない?』
ガブリエーレは不思議な力を使う。
言葉を理解する能力、周りに浮いている光の玉、メイジーとムーを助けた時、水が操った時だってそうだ。
恐らく彼はやろうと思えば大抵のことは何だってできてしまうのだろう。
これだけ自信満々なのも頷ける。
それなのにこうして何もせずに毎日海を眺めているのがよくわからない。
何かを待っているにしては余裕があるようだし、目的があるわけでもない。
神のようにただ海を眺めているだけだ。
ガブリエーレはメイジーの答えを待っているのか、こちらをじっと見ている。
暗闇の中で青い瞳が光に照らされて怪しく光る。
「どうしてって言われても……」
どうして時間をかけて用意するのか。
なぜ島民たちやガブリエーレを頼らないのか。
苦労をして丸い真珠を作るために思考錯誤するのか。
ボロボロになっても成果がなくても続けるのかと自分に問いかける。
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