推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

●やきいもほくほく●

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二章 推し活スポンサー

①⑤

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* * *


ミシュリーヌは推し活が終わり、ジョゼフと共にティティナ伯爵邸へと向かう。
クロエは珍しく用があるからとシューマノン子爵邸に先に帰っていく。
彼女と離れるのは久しぶりすぎて違和感を覚えた。
それほどクロエといつも一緒にいたのだ。

今日はジョゼフと新商品についての打ち合わせだった。
訓練場からティティナ伯爵邸まで興奮してミシュリーヌはモアメッドへの気持ちが止まらない。


「今日のモアメッド様は一段と輝いていたわね! ぎりぎり間に合ってよかったわ」

「なぁ、ミシュリーヌ……ちゃんと説明してくれよ」

「さすがの剣捌きよね。魔法にかかったみたいにビリビリと痺れちゃったわ! はぁ……今日なんて寝癖があったのよ。寝癖っ! くぅー……最高に可愛かった! 顔面国宝すぎて推せるわー」

「…………あのさ」


ジョゼフが乱暴に紅茶のカップを置いた。
ソーサーが擦れて音を立てたため、ミシュリーヌは視線を空からジョゼフへと移す。


「ジョゼフ、変な顔をしてどうしたの?」

「君こそどうしていつもと何も変わらない態度なんだよ」

「ふふっ、それはね……」

「それは?」

「な、なんでもないわ」


ミシュリーヌはオレリアンとの約束が口から出そうになり、思わず口を塞ぐ。

(この話はジョゼフにも内緒にしないといけないわ。レダー公爵の名誉のためにも!)

ミシュリーヌは何度か頷いた後に何事もなかったように話を逸らす。


「それよりも新商品のサンプルのことだけど……」

「そうじゃないでしょう?」

「……むぅ」


やはりジョゼフ相手に一筋縄ではいかないようだ。
ミシュリーヌは頬を膨らませて不満をアピールするが、さすが幼馴染といったところか。
無視して話を続けていく。


「クロエから話は聞いたけどまさか本当にレダー公爵と婚約するなんて思わなかったよ。でも、どうしてミシュリーヌを……?」

「それだけは誰もわからないのよ」


ジョゼフも両親や兄と同じ反応である。
しかしミシュリーヌが一番そう思っていた。


「ミシュリーヌがあのレダー公爵と……今までも信じられないな。国内外でもあんなに人気がある騎士なんてそうそういないよね。同性からも人気があるんだよ?」


やはりオレリアンに対してはジョゼフのような反応をするのが当然なのだろうか。
同性にも人気があるというのは初耳である。


「モアメッド様だって同性に人気だもの! レダー公爵に負けていないわっ」

「はいはい」


確かにオレリアンはかっこいいとは思う。

(同性のジョゼフがここまで言うなんて……やっぱりレダー公爵は人気があるのね)

けれどミシュリーヌにとっては、推しであるモアメッドの方がずっとずっと輝いて見えた。


「レダー公爵からの婚約の申し込みだなんて。今から大変になりそうだ。レダー公爵のそばにいたら推し変したくなるんじゃない?」

「…………わたしは推し一筋だもん」

「だろうね」


ジョゼフは呟くように言うミシュリーヌを見てにっこりと笑う。


「クロエから聞いたが、マリアン様にも絡まれたんだろう? どうしてそんなに呑気なんだよ……」

「マリアン様にはわたしではなく、レダー公爵か父に直接言ったほうがいいと伝えたわよ?」

「…………そう。まぁ、なんというか君らしいけどさ」


ジョゼフは額を押さえながら首を横に振っている。
ミシュリーヌが公開練習に遅れてくるのは珍しいため、ジョゼフに何かあったのかと問われた。
だがモアメッドの推し活に夢中なミシュリーヌの代わりに、何故かクロエが説明していたのだ。
ジョゼフはこうなった経緯を今すぐに話せとミシュリーヌを訴えてくるが、答えはわからないだ。
そんな押し問答をティティナ伯爵邸に向かう馬車の中で話したと言うわけだ。


「クロエの言う通りこのまま引くことはないだろうね」

「だけど子爵令嬢のわたしに何か言っても現状は変えられないわ」

「マリアン様にその考えが伝わればいいけど……まぁ、無理だろうね」

「どうして? これ以上、わたしに話してもどうにもならないでしょう?」

「そういう問題じゃないと思うよ。僕にもそれくらいはわかるけどね。とにかく一人にならならいように気をつけて。その辺はクロエがしっかりしているから大事だと思うけれど……」


ジョゼフはクロエのそばにいても平気な数少ない男性の一人だ。
ちなみに残りは父と兄である。
幼い頃からクロエに接しているからだろう。


「大丈夫よ、ジョゼフ。クロエならわたしが守るから安心して!」

「……うーん、今はそういうことにしておこうか。あとでクロエに手紙を書くから渡してくれ」

「わかったわ」


ジョゼフは再びため息を吐くと頷いた。


「レダー公爵と直接会って、ミシュリーヌはどう思ったの?」

「どうって……?」


ミシュリーヌはオレリアンの姿を思い出して首を傾げた。
オレリアンと対峙して思ったことは推し活のスポンサーになってくれた喜びと、今にも体調を崩しそうな顔色の悪さだ。


「顔色が悪かったから休んで欲しかったわ!」

「レダー公爵を見てこんな反応をする令嬢がいるなんて思わなかった」


ジョゼフは降参とでもいうようにヒラヒラと手を挙げる。
彼はもうオレリアンの話に飽きたのか、侍女に指示を出す。
あるものを持ってきた侍女たち見てミシュリーヌは立ち上がり駆け寄った。

黄色の生地に美しいオレンジ色の名前の刺繍。
星の模様がいくつか散りばめられているではないか。


「す、素晴らしい出来栄えだわ……!」

「そうでしょう? かなりこだわったんだ」

「これは注文が殺到するでしょうね!」


新しいグッズは推しの名前や色を使ったタオルだ。
ジョゼフは自慢げに笑っていたが、あることを口にする。

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