推し活スポンサー公爵との期限付き婚約生活〜溺愛されてるようですが、すれ違っていて気付きません〜

●やきいもほくほく●

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二章 推し活スポンサー

①④ オレリアンside3

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(……何故わざわざそんなことを?)

何か目的があるのだろうか。
けれどミシュリーヌは淡々とゴミを片付けて辺りを綺麗にして去っていく。
それからも練習がある度にミシュリーヌはオレリアンは最後に必ず訓練所のゴミを集めているのを見て目を見開いた。

誰に見られるわけでもなく、ミシュリーヌは練習場を綺麗にしている。
そんな時、ミシュリーヌの髪についていた黄色の花がぽとりと地面に落ちてしまう。
彼女はそのことに気づいてはいないようだ。

オレリアンはミシュリーヌの髪飾りを拾い上げる。
いまだに声を掛ける前に緊張してしまう。
だけどミシュリーヌに髪飾りを手渡すために声をかけた。


『……落としたぞ』

『きゃっ……!』


人がいると思っていなかったのか、ミシュリーヌは肩を跳ねさせて驚いてしまう。
しかしすぐに髪から落ちた髪飾りに気づいたのだろう。
こんな時、オレリアンは何て言葉をかけていいかわからい。
『驚かせて申し訳ない』
そう声をかけようとして口ごもる。
自分よりも年下の少女に気の利いた言葉をかけられないのも申し訳ない。
何も言わないオレリアンをじっと見ていたミシュリーヌ。


『ありがとうございます……!』


彼女は袋を置くと、にっこりと笑みを浮かべて髪飾りを受け取った。
特にオレリアンに興味を持っている様子はない。
そのまま作業を再開しようとするミシュリーヌに驚いていた。


『どうして君が? ゴミなどここを管理している者に任せればいいじゃないのか?』


ポツリと漏れた本音。
余計なことを言ってしまったと、ハッとした後にオレリアンが口元を押さえた時だった。


『わたしがやりたいんです。皆さんに気持ちよく過ごしてほしいから……』

『……は?』

『こんな機会を与えてくださった神様に感謝しているのです! わたしはここにいられるだけで幸せですから』


はにかむように笑ったミシュリーヌを見たまま暫く動けなかった。
何を言っているのか、正直よくわからなかったがミシュリーヌが美しいと思えた。

(彼女は……なんて心が綺麗な子なのだろうか)

何も言わなくなったオレリアンに不思議そうな顔をして見ていたが、ぺこりと頭を下げて背中を向けた。

ミシュリーヌはオレリアンに特別な視線を向けることなく平然と去っていた。
そのことに衝撃を受けていた。
髪飾りを受け取った時に確かに目は合ったはずなのだ。
自分のことを買い被っているわけではないが、令嬢たちの反応がいつの間にか当たり前だと思っていた。
だからこそミシュリーヌの反応に初めて普通というものを感じた。
それが新鮮だと思ったのだ。

ここから数年経ってもミシュリーヌに話しかけることはできなかったが『また話してみたい』と思うのは初めての経験だった。

そのままミシュリーヌと関わることがないままここまで来てしまった。
お酒の勢いなのか、アントニオに『気になる令嬢』と言われたことでミシュリーヌの名前を口に出してしまったのだろう。


回想を終えたオレリアンは眉間に皺を寄せた。

アントニオを止めるために酒を飲んだつもりが、自分の甘い考えでこうなってしまった。
酔った勢いで申し込んだ婚約。
ミシュリーヌはこんな不誠実なオレリアンを軽蔑して、婚約を嫌がるに違いない。

隣国での公務中もオレリアンは体調を崩しかけていた。
心が不安定になると眠れなくなる。
なんとか公務をやり遂げたが、オレリアンは眠れもせずに苦しい日々

なんとか公務を終えて、国に帰ると婚約は成立していた。

久しぶりに会うミシュリーヌはあの頃よりも、ずっとずっと綺麗になり大人びていた。
オレリアンにとって彼女だけは美しくどこにいても輝いて見えた。
周りの景色が寂れて見えても、ミシュリーヌだけは色鮮やかだ。

しかしミシュリーヌは浮かない表情をしていた。
その瞬間、こうなるのは当たり前だと思うのと同時に昔の記憶が蘇る。
〝否定される〟
その恐怖がオレリアンの脳内を支配する。


『この婚約は間違いだった』


気づいた時にはそう言っていた。


『シューマノン子爵にも君にも、本当に申し訳ないことをしたと思っている』

『……え?』

『一年後に婚約を解釈してくれればいい。後の縁談は保証しよう』


口下手な自分にはこう伝えるのが精一杯だった。
ミシュリーヌには婚約の解消を望んでいるのか、あっさりと『わかりました!』と承諾していたのだ。
ショックを受けなかったわけではない。


『わたくしの推し活を邪魔しないこと……それだけは絶対に守ってくださいませ』


推し活が何か説明してもらったもののよくわからないが、ミシュリーヌの笑顔を見れるのはいいのだろう。
彼女には大きな迷惑をかけてしまう。オレリアンには了承するしか道はなかったのだが……。


『わたしには好きな人がいます。その方を全力で応援する活動がしたいのです……!』


その言葉を聞いて、オレリアンは頭が真っ白になった。
平然を装っていたものの、どんどん血の気が引いていく。
ミシュリーヌには想い人がいたのだろう。
どうしてその可能性を考えなかったのか、自分が恥ずかしくてたまらなくなった。

(なんてことをしてしまったんだ……)

オシカツとは好きな人に関わることが目的なのだろう。
オレリアンにできることは、ミシュリーヌの恋を応援することだけ。
一年後に彼女が笑ってくれたらいい。
もちろん婚約を解消した後も、ミシュリーヌが望む未来を用意するつもりだった。
責任を取りオレリアンができることをするべきだと思った。

けれど予想に反してミシュリーヌは大喜び。
ミシュリーヌはそれほど好き人と結ばれたいのだろう。

(俺が彼女の邪魔をしてしまったんだ)

けれどミシュリーヌが笑顔を見られたことが嬉しいと思うのはおかしいだろうか。

(それでもいい。ミシュリーヌが幸せならば……)

この気持ちの名前はわからない。
わからないけれど、ミシュリーヌが一年だけでも婚約者でいてくれることが嬉しいと思ってしまう。
こんな自分はおかしいのだろうか。

しかしオレリアンはまだこの時、知らなかったのだ。
彼女の『オシカツ』の恐ろしさと熱量を……。

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