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第一章
柔らかな絶望のなかで⑤
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カーテンの隙間から覗く陽の光と、雀のさえずりが朝であることを知らせていた。こんな時間に目覚めるのはいつぶりだろうか。
小学校の頃は楽しかった。友達に囲まれて毎日のように砂まみれになって遊んだ。そして、美月という初恋もした。
悩みや不安や辛いことももちろんあった。だが今と比べればそんなのは些細なことだった。生きることへの喜びがあの頃にはあったのだ。あの頃の俺は、自分が幸せだと思っていなかったかもしれない。今思えばあの頃は、本当に贅沢で幸せな時間だった。そしてそんな日々は永遠に続くものだと思っていた。
しかし、中学に入ってからその心地良い日常は奪われた。部活を中心とした上下関係の始まり、厳格な教師の生活指導、よその小学校出身者との軋轢と、かつての友人たちからの裏切り。
俺はほんの一か月前まで通っていた小学校の、暖かでのんびりとした雰囲気との絶望的な落差に打ちのめされた。そして、一年の夏休み直前に起きた「金属バット事件」で、俺は死んだ。
俺は美月が好きだった。美月は元気で明るいおてんばな少女だった。俺に向けたあの弾けるような笑顔は、俺の心の隅に今でも染みのように残っている。
しかし三年の修学旅行、美月はそれを境にぱったりと学校に来なくなってしまった。彼女が何故学校に来なくなったのか、その理由は分からずじまいとなった。
俺の中で美月という存在は、俺の在りし日の象徴だった。美月は今、どこで何をしているのだろうか。美月には謝りたいことがあった。伝えたいことがあった。このまま美月に何も言えずに人生を終えるのは嫌だ。もう一度、美月に会いたい……。
やるべきことができた。寝起きであるにもかかわらず、意識は明瞭としていた。俺は一目散にゴミ箱に向かった。暗くて中が見えないのでカーテンを勢いよく開け放ち、朝の光を部屋中に取り込む。何年振りだろうか、朝日を浴びたのは。目が眩むが、構わずにゴミ箱の中を漁る。ゴミを掻き分け、目当てのそれを見つけた。クシャクシャに丸まった葉書を畳の上で伸ばして広げる。
“同窓会”。忌々しい響きだ。確かに、中学時代には筆舌に尽くしがたい思い出がある。殺してしまいたいほど憎い人間がいる。
しかし、美月という初恋の相手もいる。この機会を逃せばもう二度と美月に会えないかもしれない。どうする? このまたとない機会を逃して一生美月への未練を引きずったままでいるか、未練を無くせると信じて同窓会に行くか。
「もう、俺にはこれしかない」
しばしの黙考の末、賭けてみることにした。俺にとっての終わりと始まりである中学時代に戻ることを決めた。
小学校の頃は楽しかった。友達に囲まれて毎日のように砂まみれになって遊んだ。そして、美月という初恋もした。
悩みや不安や辛いことももちろんあった。だが今と比べればそんなのは些細なことだった。生きることへの喜びがあの頃にはあったのだ。あの頃の俺は、自分が幸せだと思っていなかったかもしれない。今思えばあの頃は、本当に贅沢で幸せな時間だった。そしてそんな日々は永遠に続くものだと思っていた。
しかし、中学に入ってからその心地良い日常は奪われた。部活を中心とした上下関係の始まり、厳格な教師の生活指導、よその小学校出身者との軋轢と、かつての友人たちからの裏切り。
俺はほんの一か月前まで通っていた小学校の、暖かでのんびりとした雰囲気との絶望的な落差に打ちのめされた。そして、一年の夏休み直前に起きた「金属バット事件」で、俺は死んだ。
俺は美月が好きだった。美月は元気で明るいおてんばな少女だった。俺に向けたあの弾けるような笑顔は、俺の心の隅に今でも染みのように残っている。
しかし三年の修学旅行、美月はそれを境にぱったりと学校に来なくなってしまった。彼女が何故学校に来なくなったのか、その理由は分からずじまいとなった。
俺の中で美月という存在は、俺の在りし日の象徴だった。美月は今、どこで何をしているのだろうか。美月には謝りたいことがあった。伝えたいことがあった。このまま美月に何も言えずに人生を終えるのは嫌だ。もう一度、美月に会いたい……。
やるべきことができた。寝起きであるにもかかわらず、意識は明瞭としていた。俺は一目散にゴミ箱に向かった。暗くて中が見えないのでカーテンを勢いよく開け放ち、朝の光を部屋中に取り込む。何年振りだろうか、朝日を浴びたのは。目が眩むが、構わずにゴミ箱の中を漁る。ゴミを掻き分け、目当てのそれを見つけた。クシャクシャに丸まった葉書を畳の上で伸ばして広げる。
“同窓会”。忌々しい響きだ。確かに、中学時代には筆舌に尽くしがたい思い出がある。殺してしまいたいほど憎い人間がいる。
しかし、美月という初恋の相手もいる。この機会を逃せばもう二度と美月に会えないかもしれない。どうする? このまたとない機会を逃して一生美月への未練を引きずったままでいるか、未練を無くせると信じて同窓会に行くか。
「もう、俺にはこれしかない」
しばしの黙考の末、賭けてみることにした。俺にとっての終わりと始まりである中学時代に戻ることを決めた。
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