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第二章
変わり果てた思い出に②
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「あれってもしかして戸田じゃない?」
自分の名前を呼ばれた気がして、俺は振り返る。すると、数メートル先に見覚えのある顔ぶれがあった。彼らは俺の顔を見るとギョッとした表情を浮かべた。こちらに聞こえる声で言ったつもりではなかったのだろう。俺はそこにいる連中に対しては並々ならぬ感情を抱いており、その中には特に因縁のある奴もいたから気が昂った。
目が合ってしまった以上、引っ込みがつかなくなったのか、彼らは不審者を見るような微妙な目つきで俺に近づいてくる。そして先程の声の主がおそるおそるという感じで、
「……戸田だよね?」と言った。
俺はその女──岩崎恵美──の問いかけに「そうだけど」と答えた。
小学校高学年の頃は、俺の人生が一番充実していた時期であり、男子はもちろん女子とも仲が良かった。岩崎たちのグループとは小学五、六年の頃に付き合いがあった。
岩崎は地雷を踏まないよう言葉を探すようにして、「中学の時ぶりだよね?」と言った。
「あぁ、そうだな」
「……元気にしてた?」
「ぼちぼちかな」
「あー、そうなんだ……あっ! ほら、みんなのこと覚えてる?」
自分はもう話すことがなくなったからか、岩崎はその場にいる他の連中を会話に巻き込もうとする。
そのなかで、俺と最初に目が合った松本奈々が仕方なしという表情で、
「あはは、久しぶり」
と苦笑気味に手を振った。佐々木佑香と杉下のぞみも一緒に見え透いた愛想笑いを浮かべる。
岩崎たちの態度で俺は明らかに招かれざる客であると感じた。その理由はもちろんわかっている。
そして、俺が最後に視線を向けたのは、俺の記憶に深く刻み込まれている男だった。
今度は俺の方からそいつに声をかけた。
「秋山、久しぶりだな」
秋山裕也、それは俺の「元」親友だった。最後の一人だから自分にお鉢が回ってくるのは覚悟していたであろう秋山は、俺からやや目を逸らしながら「あぁ」と素っ気なく一言だけ発した。
秋山とは五年生で初めて同じクラスになった。体格が同じくらいで、運動能力にも差がなかった俺たちは自然と仲良くなり、当時学校で流行っていたドッジボールでのよきライバルとなった。
俺は秋山を一番の親友だと思っていた。それほど俺たちは常に行動を共にしていた。修学旅行では同じ班になり、夜は布団の中での怪談や猥談で盛り上がった。放課後はみんなで輪になって携帯ゲームで遊んだ。喧嘩は何度もしたが、最後には肩を組んで笑いあったものだった。
そして忘れもしない六年のあの日──。業間休みのドッジボールを終えて校舎に戻ろうとしていた俺たちは、“ダブル告白”を受けた。
そう、俺たちはちゃんと“親友”をやっていたはずだったのだ。
そんな秋山との関係は中学に入った途端に砕け散った。クラスが別々になったことで関わりが少なくなったことに加えて、秋山はサッカー部に入り“あっち”の生徒と関わるようになったことで俺と秋山の距離は遠のいていった。
最初のうちはお互い顔を合わせれば挨拶くらいはしていたが、そのうち、廊下ですれ違っても秋山は俺の挨拶を無視するようになった。そんなことが繰り返され、俺は秋山に話しかけるのをやめた。二年生では同じクラスになったが、既に俺たちは赤の他人となっていた。
秋山のあの冷徹な態度は今でも忘れられない。ほんの何か月か前まではあんなに仲が良かったのに、親友だったのに、どうしてそんな見下したような目で俺を見るんだ?
俺は秋山が許せなかった。親友だった俺を裏切った怒りと悲しみ、秋山が中学でも普通に友達を作って充実した学校生活を送っていることへの妬み、それに比べてどうして俺はこんなにも苦しい日々を過ごさなければならないのかという僻み、そして、かつて親友だった男との圧倒的な差によって感じる劣等感という嫉み。
今、目の前に立っている秋山を前にして、内からいくつもの感情が沸々と込み上げてくる。
俺は目を細めて秋山に問うた。
自分の名前を呼ばれた気がして、俺は振り返る。すると、数メートル先に見覚えのある顔ぶれがあった。彼らは俺の顔を見るとギョッとした表情を浮かべた。こちらに聞こえる声で言ったつもりではなかったのだろう。俺はそこにいる連中に対しては並々ならぬ感情を抱いており、その中には特に因縁のある奴もいたから気が昂った。
目が合ってしまった以上、引っ込みがつかなくなったのか、彼らは不審者を見るような微妙な目つきで俺に近づいてくる。そして先程の声の主がおそるおそるという感じで、
「……戸田だよね?」と言った。
俺はその女──岩崎恵美──の問いかけに「そうだけど」と答えた。
小学校高学年の頃は、俺の人生が一番充実していた時期であり、男子はもちろん女子とも仲が良かった。岩崎たちのグループとは小学五、六年の頃に付き合いがあった。
岩崎は地雷を踏まないよう言葉を探すようにして、「中学の時ぶりだよね?」と言った。
「あぁ、そうだな」
「……元気にしてた?」
「ぼちぼちかな」
「あー、そうなんだ……あっ! ほら、みんなのこと覚えてる?」
自分はもう話すことがなくなったからか、岩崎はその場にいる他の連中を会話に巻き込もうとする。
そのなかで、俺と最初に目が合った松本奈々が仕方なしという表情で、
「あはは、久しぶり」
と苦笑気味に手を振った。佐々木佑香と杉下のぞみも一緒に見え透いた愛想笑いを浮かべる。
岩崎たちの態度で俺は明らかに招かれざる客であると感じた。その理由はもちろんわかっている。
そして、俺が最後に視線を向けたのは、俺の記憶に深く刻み込まれている男だった。
今度は俺の方からそいつに声をかけた。
「秋山、久しぶりだな」
秋山裕也、それは俺の「元」親友だった。最後の一人だから自分にお鉢が回ってくるのは覚悟していたであろう秋山は、俺からやや目を逸らしながら「あぁ」と素っ気なく一言だけ発した。
秋山とは五年生で初めて同じクラスになった。体格が同じくらいで、運動能力にも差がなかった俺たちは自然と仲良くなり、当時学校で流行っていたドッジボールでのよきライバルとなった。
俺は秋山を一番の親友だと思っていた。それほど俺たちは常に行動を共にしていた。修学旅行では同じ班になり、夜は布団の中での怪談や猥談で盛り上がった。放課後はみんなで輪になって携帯ゲームで遊んだ。喧嘩は何度もしたが、最後には肩を組んで笑いあったものだった。
そして忘れもしない六年のあの日──。業間休みのドッジボールを終えて校舎に戻ろうとしていた俺たちは、“ダブル告白”を受けた。
そう、俺たちはちゃんと“親友”をやっていたはずだったのだ。
そんな秋山との関係は中学に入った途端に砕け散った。クラスが別々になったことで関わりが少なくなったことに加えて、秋山はサッカー部に入り“あっち”の生徒と関わるようになったことで俺と秋山の距離は遠のいていった。
最初のうちはお互い顔を合わせれば挨拶くらいはしていたが、そのうち、廊下ですれ違っても秋山は俺の挨拶を無視するようになった。そんなことが繰り返され、俺は秋山に話しかけるのをやめた。二年生では同じクラスになったが、既に俺たちは赤の他人となっていた。
秋山のあの冷徹な態度は今でも忘れられない。ほんの何か月か前まではあんなに仲が良かったのに、親友だったのに、どうしてそんな見下したような目で俺を見るんだ?
俺は秋山が許せなかった。親友だった俺を裏切った怒りと悲しみ、秋山が中学でも普通に友達を作って充実した学校生活を送っていることへの妬み、それに比べてどうして俺はこんなにも苦しい日々を過ごさなければならないのかという僻み、そして、かつて親友だった男との圧倒的な差によって感じる劣等感という嫉み。
今、目の前に立っている秋山を前にして、内からいくつもの感情が沸々と込み上げてくる。
俺は目を細めて秋山に問うた。
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