抱擁の旅人

桜木青嗣

文字の大きさ
7 / 15
第二章

変わり果てた思い出に②

しおりを挟む
「あれってもしかして戸田じゃない?」

 自分の名前を呼ばれた気がして、俺は振り返る。すると、数メートル先に見覚えのある顔ぶれがあった。彼らは俺の顔を見るとギョッとした表情を浮かべた。こちらに聞こえる声で言ったつもりではなかったのだろう。俺はそこにいる連中に対しては並々ならぬ感情を抱いており、その中には特に因縁のある奴もいたから気が昂った。

 目が合ってしまった以上、引っ込みがつかなくなったのか、彼らは不審者を見るような微妙な目つきで俺に近づいてくる。そして先程の声の主がおそるおそるという感じで、

「……戸田だよね?」と言った。

 俺はその女──岩崎恵美──の問いかけに「そうだけど」と答えた。

 小学校高学年の頃は、俺の人生が一番充実していた時期であり、男子はもちろん女子とも仲が良かった。岩崎たちのグループとは小学五、六年の頃に付き合いがあった。

 岩崎は地雷を踏まないよう言葉を探すようにして、「中学の時ぶりだよね?」と言った。

「あぁ、そうだな」

「……元気にしてた?」

「ぼちぼちかな」

「あー、そうなんだ……あっ! ほら、みんなのこと覚えてる?」

 自分はもう話すことがなくなったからか、岩崎はその場にいる他の連中を会話に巻き込もうとする。
そのなかで、俺と最初に目が合った松本奈々が仕方なしという表情で、

「あはは、久しぶり」

 と苦笑気味に手を振った。佐々木佑香と杉下のぞみも一緒に見え透いた愛想笑いを浮かべる。

 岩崎たちの態度で俺は明らかに招かれざる客であると感じた。その理由はもちろんわかっている。

 そして、俺が最後に視線を向けたのは、俺の記憶に深く刻み込まれている男だった。

 今度は俺の方からそいつに声をかけた。

「秋山、久しぶりだな」

 秋山裕也、それは俺の「元」親友だった。最後の一人だから自分にお鉢が回ってくるのは覚悟していたであろう秋山は、俺からやや目を逸らしながら「あぁ」と素っ気なく一言だけ発した。

 秋山とは五年生で初めて同じクラスになった。体格が同じくらいで、運動能力にも差がなかった俺たちは自然と仲良くなり、当時学校で流行っていたドッジボールでのよきライバルとなった。

 俺は秋山を一番の親友だと思っていた。それほど俺たちは常に行動を共にしていた。修学旅行では同じ班になり、夜は布団の中での怪談や猥談で盛り上がった。放課後はみんなで輪になって携帯ゲームで遊んだ。喧嘩は何度もしたが、最後には肩を組んで笑いあったものだった。

 そして忘れもしない六年のあの日──。業間休みのドッジボールを終えて校舎に戻ろうとしていた俺たちは、“ダブル告白”を受けた。

 そう、俺たちはちゃんと“親友”をやっていたはずだったのだ。

 そんな秋山との関係は中学に入った途端に砕け散った。クラスが別々になったことで関わりが少なくなったことに加えて、秋山はサッカー部に入り“あっち”の生徒と関わるようになったことで俺と秋山の距離は遠のいていった。

 最初のうちはお互い顔を合わせれば挨拶くらいはしていたが、そのうち、廊下ですれ違っても秋山は俺の挨拶を無視するようになった。そんなことが繰り返され、俺は秋山に話しかけるのをやめた。二年生では同じクラスになったが、既に俺たちは赤の他人となっていた。

 秋山のあの冷徹な態度は今でも忘れられない。ほんの何か月か前まではあんなに仲が良かったのに、親友だったのに、どうしてそんな見下したような目で俺を見るんだ?
 
 俺は秋山が許せなかった。親友だった俺を裏切った怒りと悲しみ、秋山が中学でも普通に友達を作って充実した学校生活を送っていることへの妬み、それに比べてどうして俺はこんなにも苦しい日々を過ごさなければならないのかという僻み、そして、かつて親友だった男との圧倒的な差によって感じる劣等感という嫉み。

 今、目の前に立っている秋山を前にして、内からいくつもの感情が沸々と込み上げてくる。

 俺は目を細めて秋山に問うた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...