抱擁の旅人

桜木青嗣

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第二章

変わり果てた思い出に③

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「俺たちさ、昔は仲良かったよな」

 すると秋山は、困ったような顔で、

「いや、中学の頃はあんまり絡まなかったと思うけど」と言った。

 秋山の表情や声色からは、面倒臭がっていることを気取られたくないという感じが伝わってくる。

 小学校の頃のあの二年間がなかったことのようにされているようで俺は腹が立った。

 だから、

「何言ってんだよ。五、六年の頃毎日遊んでただろ」

 と俺はやや怒りを交えながら秋山に言った。

 すると秋山は、

「そういえばそうだったな」

 と今度は迷惑がった表情を隠さなかった。

「そうだよ、あんたら小学校の頃仲良かったじゃん」

 場を和ませようとしたのか、岩崎が冗談めかしながら言った。秋山はバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。

 結局、秋山にとって俺との二年間の関わりは、取るに足らないものだったのだ。たかが二年間の関わりよりも、その後の月日で培った関係の方が重視されるのは考えてみれば当然のことだった。

 だが、秋山たちが俺に対してどこか警戒するような、距離を置くような態度を取るのは、しばらく疎遠だったからというだけではもちろんない。

 “あの事件”は俺が思っていた以上に、同級生たちに未だ暗い影を落としていたのだ。

「ねぇ、おなかすいた」

 と、杉下の袖を幼稚園児くらいの子供が引っ張った。

「はいはい、もうすぐだから待ってな」

 杉下は子供の頭を撫でた。俺の視線に気づくと、

「あぁ、この子うちの子」と言った。

 見た目四、五歳といったところだろうか。俺たちは今年で二十五歳だ。ということは二十歳そこいらで産んだということだろうか。生まれてこのかた女と付き合ったことすらない俺は杉下の子供を見て自分との途方もない距離を感じた。

「……もう子供がいるのか」

「まぁね。ダンナは、あれ」

 杉下はある方向を指差した。

「ほら、津山って覚えてる? あいつがうちのダンナ」

 それは、俺の嫌いだった“あっち”の男だった。

 中三の修学旅行の夕飯時に、「どけよ」と舌打ちしながらぶつかってきた感じの悪いやつだった。俺は津山とはクラスも同じになったこともなければ喋ったこともなかったのだが、なぜか一方的に嫌われていた。

 それは多分、俺が“あっち”の“ボス”と敵対関係にあったからだろう。

 “あっち”のやつらは、そんなのばかりだった。

 俺はショックだった。杉下が“あっち”の男と結婚して子供まで作っていたということに。俺は当時も今も杉下に気があるわけでは全くない。

 ただ、“こっち”側でかつて仲の良かった杉下が“あっち”側の男と結婚して家族まで作ったということは、“こっち”と“あっち”、“俺たち”と“あいつら”との間にあった境界線が、まるでコーヒーがミルクと溶けて混じり合うように消え去ってしまったのだということを思わせた。

 それは、俺たちはもう二度とコーヒーには戻れないことを意味していた。

「よし、じゃあ兄ちゃんと向こう行って遊ぶか!」

 俺との会話をやめられる口実だと思ったのか、秋山が杉下の子供の手をとってそそくさと逃げるように立ち去った。

「それじゃ、あたしたちも行くから」

 と岩崎たちも軽く手を振ると秋山の後を追いかけるようにして俺の前からいなくなった。
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