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第二部 江戸闇聴聞 ~絡繰りの音~
第九話 深川、木の香と異音
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師・源七爺さんの死の記憶と、影の組織への静かな憎しみを胸に、市は深川へと足を踏み入れた。
木暮同心から、深川での不自然な出来事、そしてそれに伴う妙な匂いと音の噂を聞き、自身の感覚がそれを確かめるべきだと告げていたからだ。
深川は、日本橋界隈とは異なる独特の雰囲気を持っていた。運河が縦横に走り、無数の材木問屋が軒を連ねる。町の空気は、湿気を含んだ潮の香りと、乾燥した木の香りが入り混じっていた。
市の耳には、船が行き交う水音、材木を運ぶ人々の掛け声、鋸や槌の音が絶えず響いてくる。それは、活気に満ちた、力強い音の響きだった。
市は、お清さんから聞いた噂の手がかりを頼りに、深川の町を歩いた。夜になると人が消えるという特定の場所、そして不自然な匂いと音がするところ。漠然とした情報だったが、市の研ぎ澄まされた感覚は、町の喧騒の中から、僅かな違和感を拾い上げ始めた。
まず、匂い。
材木の香りと潮の香りに混じって、市にはかすかに、しかし確実に存在する、別の匂いが感じられた。それは、無音組が使用していた薬草のような刺激臭とは少し違う。より甘く、しかしどこか淀んだ、鼻腔の奥に残るような、まとわりつく匂いだ。それは、特定の場所から漂ってきている。
深川でも特に大きな材木問屋がいくつか集まっている一角だ。
次に、音。
市の耳は、町の様々な音の中から、不自然な響きを拾い上げようと集中した。
人々の話し声、鳥の鳴き声、遠くの鐘の音。それらの中に、「特定の鳥の鳴き声に似た、細い音」が混じっていないか。
しばらく注意深く耳を澄ませていると、市の耳が、微かな、しかし確かに存在する、人工的な音を捉えた。
「ピィー…」
それは、鳥の鳴き声によく似ている。
しかし、どこか機械的で、不自然な響きだ。そして、その音は、一定の間隔で、同じ場所から繰り返し聞こえてくる。その場所は、先ほど不自然な匂いを感じた材木問屋が集まる一角だ。
匂いと音の手がかりが示す場所へ、市はゆっくりと近づいていった。
その一角は、日中でもどこかひっそりとしており、大きな材木がうず高く積まれ、薄暗い影を作っていた。匂いは、近づくにつれて濃くなっていく。
甘く淀んだ、奇妙な香りだ。それは、人を惹きつけるような香りではない。むしろ、不快感を催させるような、あるいは、五感を鈍らせるような、何かを隠すための匂いだ。
そして、あの音。「ピィー…」という細い音は、まるで何かの合図のように、一定の間隔で繰り返されている。
それは、無音組が使っていた「音の連絡手段」と関係があるのではないだろうか?
市がその一角の入口に差し掛かった時、数人の男たちが慌ただしく出てくる気配を感じた。彼らの足音は、庶民のそれとは違う。どこか訓練された、しかし焦りを含んだ足音だ。そして、彼らが纏う匂い。あの甘く淀んだ香りが、彼らから強く漂っている。
市は咄嗟に道を譲った。男たちは市の存在に気づいたようだが、足を止めることなく、早足でその場を離れていった。彼らの足音は、すぐに闇の中に消えていった。
男たちが去った後、市はゆっくりと彼らが出てきた場所、大きな材木問屋の敷地に足を踏み入れた。匂いは、そこで最も濃厚だった。そして、微かに、鉄の匂い、血の匂いが混じっていることに気づいた。
「血…」
市の心臓がドクリと跳ねた。この場所で、何かが起こったのだ。第八話で聞いた「人が消える」という噂は、本当だったのかもしれない。そして、この匂いと音は、それを引き起こした者たちの痕跡なのだ。
市は、自身の感覚を研ぎ澄ませ、慎重に敷地内へと進んだ。積まれた材木の隙間、倉庫の中。匂いを頼りに、血の匂いが強い場所を探す。
やがて、市は一つの倉庫の入り口にたどり着いた。中から、かすかにうめき声が聞こえる。
「誰か… いますか…?」
市が声をかけると、うめき声が止まった。しばらくの沈黙の後、かすれた声が聞こえてきた。
「だ… 誰だ… 行っちまえ…!」
その声は、恐怖と、そして弱弱しい抵抗を含んでいた。市は、中に人がいることを確信した。
「私は按摩師の市と申します。怪我をなさったのではありませんか? 手当てをさせてください」
市は、自身の身分を明かし、優しく語りかけた。しばらくの沈黙の後、うめき声の主が、ゆっくりと体を起こす気配がした。そして、市の嗅覚が、その人物から漂ってくる匂いを捉えた。あの甘く淀んだ香り。そして、鉄の匂い。彼は、この事件の被害者なのだ。
市は倉庫の中に入った。中は薄暗く、材木の匂いが充満している。被害者は、倉庫の片隅でうずくまっていた。市の感覚は、彼の体の震え、浅い息遣い、そして脈の乱れを捉えた。彼は、ただの怪我ではない。何か、尋常ではないことに巻き込まれたのだ。
「大丈夫ですか? どこか痛むところは?」
市は被害者の傍らに跪き、その体にそっと触れた。肌は冷たく、異常なほどに緊張している。腕や足に、何かに引きずられたような擦過痕があることに気づいた。そして、後頭部に、鈍器で殴られたような感触があった。
「お前… 目が見えねぇのか…?」
被害者が弱弱しい声で尋ねた。
市は頷いた。
「はい。ですが、その代わりに、あなたの体の声が聴こえます。何があったのか、話していただけませんか? 私は、あなたの力になりたいのです」
被害者は、市の言葉に、安堵と、そしてまだ消えない恐怖の入り混じった息をついた。そして、震える声で、断片的に語り始めた。
夜中、倉庫で仕事をしていた時のこと。突然、あの甘い香りが漂ってきた。意識が朦朧とし、体が動かなくなった。そして、音もなく忍び寄ってきた者たちに襲われたこと。何をされたのかは、はっきり覚えていない。ただ、何か大切なものを奪われた気がする…
被害者の話と、市の感覚で得られた情報が繋がった。不自然な匂いと音を使って標的の意識を奪い、目的を果たす。これは、まさに影の組織、無音組の手口に似ている。しかし、使われた香りは、無音組のものとは少し違う。そして、彼らの目的は何だったのか? 人を消すことだけではない。何か大切なものを奪ったと、被害者は言った。
市は、被害者に簡単な手当てをし、体を温めるための薬膳茶を勧めた。そして、すぐに木暮同心に連絡を取った。深川での出来事は、新たな影の組織の活動であり、それは第一部で市が関わった事件と深く繋がっている。そして、無音組から得られた「音」の情報が、この事件の鍵となる可能性がある。
深川の闇に響く、不自然な音。それは、影の組織が仕掛ける「絡繰り」の始まりを告げる音なのかもしれない。
市は、師の遺志を継ぎ、この新たな闇の音を聴き、その裏に隠された真実を暴く決意を新たにした。
第二部の物語は、今、深川の木の香りと共に、静かに幕を開けたのだ。
木暮同心から、深川での不自然な出来事、そしてそれに伴う妙な匂いと音の噂を聞き、自身の感覚がそれを確かめるべきだと告げていたからだ。
深川は、日本橋界隈とは異なる独特の雰囲気を持っていた。運河が縦横に走り、無数の材木問屋が軒を連ねる。町の空気は、湿気を含んだ潮の香りと、乾燥した木の香りが入り混じっていた。
市の耳には、船が行き交う水音、材木を運ぶ人々の掛け声、鋸や槌の音が絶えず響いてくる。それは、活気に満ちた、力強い音の響きだった。
市は、お清さんから聞いた噂の手がかりを頼りに、深川の町を歩いた。夜になると人が消えるという特定の場所、そして不自然な匂いと音がするところ。漠然とした情報だったが、市の研ぎ澄まされた感覚は、町の喧騒の中から、僅かな違和感を拾い上げ始めた。
まず、匂い。
材木の香りと潮の香りに混じって、市にはかすかに、しかし確実に存在する、別の匂いが感じられた。それは、無音組が使用していた薬草のような刺激臭とは少し違う。より甘く、しかしどこか淀んだ、鼻腔の奥に残るような、まとわりつく匂いだ。それは、特定の場所から漂ってきている。
深川でも特に大きな材木問屋がいくつか集まっている一角だ。
次に、音。
市の耳は、町の様々な音の中から、不自然な響きを拾い上げようと集中した。
人々の話し声、鳥の鳴き声、遠くの鐘の音。それらの中に、「特定の鳥の鳴き声に似た、細い音」が混じっていないか。
しばらく注意深く耳を澄ませていると、市の耳が、微かな、しかし確かに存在する、人工的な音を捉えた。
「ピィー…」
それは、鳥の鳴き声によく似ている。
しかし、どこか機械的で、不自然な響きだ。そして、その音は、一定の間隔で、同じ場所から繰り返し聞こえてくる。その場所は、先ほど不自然な匂いを感じた材木問屋が集まる一角だ。
匂いと音の手がかりが示す場所へ、市はゆっくりと近づいていった。
その一角は、日中でもどこかひっそりとしており、大きな材木がうず高く積まれ、薄暗い影を作っていた。匂いは、近づくにつれて濃くなっていく。
甘く淀んだ、奇妙な香りだ。それは、人を惹きつけるような香りではない。むしろ、不快感を催させるような、あるいは、五感を鈍らせるような、何かを隠すための匂いだ。
そして、あの音。「ピィー…」という細い音は、まるで何かの合図のように、一定の間隔で繰り返されている。
それは、無音組が使っていた「音の連絡手段」と関係があるのではないだろうか?
市がその一角の入口に差し掛かった時、数人の男たちが慌ただしく出てくる気配を感じた。彼らの足音は、庶民のそれとは違う。どこか訓練された、しかし焦りを含んだ足音だ。そして、彼らが纏う匂い。あの甘く淀んだ香りが、彼らから強く漂っている。
市は咄嗟に道を譲った。男たちは市の存在に気づいたようだが、足を止めることなく、早足でその場を離れていった。彼らの足音は、すぐに闇の中に消えていった。
男たちが去った後、市はゆっくりと彼らが出てきた場所、大きな材木問屋の敷地に足を踏み入れた。匂いは、そこで最も濃厚だった。そして、微かに、鉄の匂い、血の匂いが混じっていることに気づいた。
「血…」
市の心臓がドクリと跳ねた。この場所で、何かが起こったのだ。第八話で聞いた「人が消える」という噂は、本当だったのかもしれない。そして、この匂いと音は、それを引き起こした者たちの痕跡なのだ。
市は、自身の感覚を研ぎ澄ませ、慎重に敷地内へと進んだ。積まれた材木の隙間、倉庫の中。匂いを頼りに、血の匂いが強い場所を探す。
やがて、市は一つの倉庫の入り口にたどり着いた。中から、かすかにうめき声が聞こえる。
「誰か… いますか…?」
市が声をかけると、うめき声が止まった。しばらくの沈黙の後、かすれた声が聞こえてきた。
「だ… 誰だ… 行っちまえ…!」
その声は、恐怖と、そして弱弱しい抵抗を含んでいた。市は、中に人がいることを確信した。
「私は按摩師の市と申します。怪我をなさったのではありませんか? 手当てをさせてください」
市は、自身の身分を明かし、優しく語りかけた。しばらくの沈黙の後、うめき声の主が、ゆっくりと体を起こす気配がした。そして、市の嗅覚が、その人物から漂ってくる匂いを捉えた。あの甘く淀んだ香り。そして、鉄の匂い。彼は、この事件の被害者なのだ。
市は倉庫の中に入った。中は薄暗く、材木の匂いが充満している。被害者は、倉庫の片隅でうずくまっていた。市の感覚は、彼の体の震え、浅い息遣い、そして脈の乱れを捉えた。彼は、ただの怪我ではない。何か、尋常ではないことに巻き込まれたのだ。
「大丈夫ですか? どこか痛むところは?」
市は被害者の傍らに跪き、その体にそっと触れた。肌は冷たく、異常なほどに緊張している。腕や足に、何かに引きずられたような擦過痕があることに気づいた。そして、後頭部に、鈍器で殴られたような感触があった。
「お前… 目が見えねぇのか…?」
被害者が弱弱しい声で尋ねた。
市は頷いた。
「はい。ですが、その代わりに、あなたの体の声が聴こえます。何があったのか、話していただけませんか? 私は、あなたの力になりたいのです」
被害者は、市の言葉に、安堵と、そしてまだ消えない恐怖の入り混じった息をついた。そして、震える声で、断片的に語り始めた。
夜中、倉庫で仕事をしていた時のこと。突然、あの甘い香りが漂ってきた。意識が朦朧とし、体が動かなくなった。そして、音もなく忍び寄ってきた者たちに襲われたこと。何をされたのかは、はっきり覚えていない。ただ、何か大切なものを奪われた気がする…
被害者の話と、市の感覚で得られた情報が繋がった。不自然な匂いと音を使って標的の意識を奪い、目的を果たす。これは、まさに影の組織、無音組の手口に似ている。しかし、使われた香りは、無音組のものとは少し違う。そして、彼らの目的は何だったのか? 人を消すことだけではない。何か大切なものを奪ったと、被害者は言った。
市は、被害者に簡単な手当てをし、体を温めるための薬膳茶を勧めた。そして、すぐに木暮同心に連絡を取った。深川での出来事は、新たな影の組織の活動であり、それは第一部で市が関わった事件と深く繋がっている。そして、無音組から得られた「音」の情報が、この事件の鍵となる可能性がある。
深川の闇に響く、不自然な音。それは、影の組織が仕掛ける「絡繰り」の始まりを告げる音なのかもしれない。
市は、師の遺志を継ぎ、この新たな闇の音を聴き、その裏に隠された真実を暴く決意を新たにした。
第二部の物語は、今、深川の木の香りと共に、静かに幕を開けたのだ。
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