【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

文字の大きさ
113 / 252

113 どじょうとおたまじゃくしはどちらが好きですか?

しおりを挟む
「誕生日会、すごかったねえ」

 一太は、興奮冷めやらぬまま家に帰った。大学と近い場所にある実習先の幼稚園は晃と暮らす家とも近く、とても助かっている。
 実習は、自身の出身の園で受ける者が多いが、一太は児童養護施設に併設の保育施設だったので幼稚園ではないし、何処にあったのかも知らない。もちろん、もともと住んでいた辺りになど近寄りたくもないので、大学から紹介してもらえる施設に行くことにしたのだ。
 晃も、実習先はどこを選んでもいいと言われて、一太と同じ施設を希望した。病気持ちだったこともあって幼稚園にはあまり通えていないから思い入れもないし、一太と二週間も離れているのが寂しいから一緒の場所がいい、と晃は言った。
 実習はこちらで行くことにしたから帰らない、と実家に電話した時には、帰るのが面倒臭いからこっちで行く、なんて陽子さんに言っていたけれど。
 一太も、二週間も晃くんと離れるのは寂しいな、と思っていたので、同じ場所にしてくれてとても嬉しかった。
 それに、同じ園にいたら、違うクラスで実習していても家で情報交換ができる。提出する書類やレポートを書く時にも協力できるし、協力しなくても、晃と隣り合って座って何かをしているだけで一太は幸せだった。
 幼稚園で開催された誕生日会は大盛り上がりで、その後も子どもたちは皆、テンションが高く、それなりにトラブルがあった。朝の会議で、そうなるだろうと聞いていたので、あちこちで小さなトラブルの仲裁をしながら、可愛いなあ、と思って一太は午後を過ごした。一太も、高揚する気持ちを抑えるのが大変だったから。

「え、ああ。今日はいつもより疲れたね」

 晃の疲れた声に、一太はあれ? と首を傾げる。晃は、誕生日会はそんなに楽しくなかったのだろうか。特別なし物として披露された園長先生の手品も、一太はとても楽しかったのだけれども。

「皆、興奮して大変だったよ」
「あ、うちも」

 そんな事を話しながら、家の中に入る。手を洗って弁当箱を水につけると晃は、ひと休みと言ってベッドを背に座り込んでしまった。

「俺さ、楽しかった。晃くんの好きな色とかさ、好きな食べ物とか遊びとか聞けたし」
「あはは。あれ、参ったね。急に言われたから、焦って酷かったよー」
「え? ちゃんとできてて凄かったよ。俺、呼ばれてたら、答えられなかったかも」

 舞台に上がった子どもたちは、元気に自己紹介をした後、その他の子どもたちが手を挙げてする質問にどんどん答えていた。何を質問されるか分からないので、はらはらどきどきのイベントだ。
 司会の先生が、手を挙げている子どもをランダムに当てるから、どんなバスが好きですか? と車好きの子に聞かれたり、どじょうとおたまじゃくしはどっちが好きですか、と聞かれたりする。どんなバスって言われてもそんなにバスに種類あるの? と驚いたり、なんで、どじょうとおたまじゃくしの二択? と思ったり。
 好きな色とか好きな食べ物とか分かりやすい質問もあって、誕生月の子どもたちが元気いっぱいに答えていた。恥ずかしがり屋のりっかちゃんやまだ小さい年少組の子は、隣で先生に補佐してもらいながら答えていたけれど、答える方も質問に負けない謎の答えもあり、笑いの絶えない催しだった。
 一太は大笑いしながら、晃が上手く答える様子をとても楽しく見ていた。
 晃くんはどじょうの方が好きなのかあ、とか、やっぱり青色が好きなんだなあ、などと思って、楽しいばかりのイベントだった。

「晃くん」

 一太が、帰りに買ってきた食料を冷蔵庫に入れ終えて振り返ると、晃は、ベッドを背に座って船を漕いでいた。
 どうりで、途中から生返事しか聞こえなくなったはずだ、と近寄って、ベッドの上の毛布を晃の体にかける。エアコンがごうごうと音を立てて部屋を暖めてくれているけれど、寝たら寒いかもしれないから。
 晃は、僕、あんまり体力が無いんだ、と言っていたことがあった。けれど、こんな風に寝落ちてしまっている姿は見たことがなかったから、本当にすごく疲れたのだろう。
 実習も残りあと二日、というところでの大騒ぎの誕生日会だ。大変だった。
 前に立たされていたしね。
 一太ももちろん疲れてはいるが、アルバイトを休ませて貰っている分、時間に余裕があるなあ、という印象だった。それに、ほんの小さな頃から全ての家事を一人でこなしていた一太には、家事を半分引き受けてもらえる今の環境は、天国のようだった。
 晃くんに甘え過ぎていたのかもしれないなあ。
 一太は、眠る晃の顔を少し眺めてから、よし、と気合いを入れる。こうして、晃の隣に座り込んでいたら、自分も眠たくなってしまいそうだ。 
 明日の弁当の分も計算して米を研ぎ、炊飯器のスイッチを押して、弁当箱を洗う。
 あまり遅い時間になる前に掃除機をかけたかったが、晃を起こしたくなくて諦めた。
 静かにできる仕事をと、洗濯機の中で乾燥まで終わった洗濯物を取り出し、丁寧にたたむ。今日、着用していたエプロンを鞄から出して洗濯機に入れながら、乾燥までしてくれるなんて、なんて便利な道具なんだ、としみじみドラム式の洗濯機を眺めてしまう。
 それから、気合を入れて風呂場に入った。暖房の届かない風呂場は、外と同じくらい寒い。大急ぎで洗って水で流すと、手足がじんじん痺れて懐かしくなった。ずっと、こんな寒さに耐えながら冬を過ごしてきた。夏より冬の方が、死が近くて恐ろしかった。
 
「いっちゃん!」

 風呂場から出て、タオルでかじかむ手足を拭いていると、晃が慌てた様子で洗面所へ駆け込んでくる。
 驚いていると、

「ごめん」

 と、抱きしめられた。

「え、なに?」
「ごめん。仕事、全部やらせちゃった」
「ああ、そんなの……」

 言いかけた一太の手を、晃が握る。

「また、こんなに冷えて。お湯を使ったらいいよって言ってるのに」
「あ、うん……」

 体を洗うのすらほとんどお湯を使えなかった一太には、風呂洗いや皿洗いにお湯を使うなんてなかなか出来なくて。
 けれど晃は、その度にこうして、冷えきった手足を心配してくれるのだ。

「早く暖かい部屋でぬくまろう」

 晃に抱えられるように居間へ入れば、一太の冷えていた手足がじんじんと温まっていく。

「俺、幸せだな……」

 本当に、幸せだ。
しおりを挟む
感想 682

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...