【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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114 憧れていた場所に立っている

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「松島くん、村瀬くん、夜ご飯を一緒に食べて帰ろ。打ち上げしよう、打ち上げ!」

 実習の最終日。大変お世話になりました、と先生方に挨拶をして園を出ると、一緒に実習を頑張っていた女の子二人が、一太たちの前に回り込んで誘ってきた。

「え? なに?」
「一緒に頑張った仲じゃん? 今日ならいいでしょ、松島くん」

 一太が戸惑っていると、髪の毛の短い女の子が晃を見上げて言う。賀川かがわ実咲みさきさん。子どもたちと、元気に走り回っている所をよく見かけた。まだまだ元気が余っているみたいで凄いな、と一太は思う。一太は、二週間、無事に終わった、と思うと気が抜けて、今は家でのんびりしたい気分だ。
 だが、今日なら、って言うということは、今までにも晃くんは誘われていたってことか、と一太は気付く。そして断っていたんだな、と。

「ええ、と。そうだな……」

 晃は、困ったように眉を下げた。一太の方を、ちらりと見てくる。

「え? 俺?」
「村瀬くん、行こうよ。私、もっと二人とお話してみたかったんだ。同じ所で実習してたのに、全然話す時間も無かったじゃない?」

 賀川かがわは、元気いっぱいに声をかけてくる。

「ね? 紗良さらも、ちょっと話したいって言ってたもんね」

 振り返った賀川かがわの後ろで、背の低い女の子がこくこくと頷いた。北村きたむら紗良さらは、実習中、女の子たちとおままごと遊びや折り紙遊びをしている姿をよく見かけていた。細かい作業が得意なようで、北村先生に作ってもらった、と見事な花の折り紙を見せてくれた女の子がいたのを覚えている。凄い、と思った一太も、折り紙の本を見ながら家で何度か練習してみたが、どうにも上手くできなかった。
 それこそ、折り方を詳しく尋ねてみたかったが、実習中は時間がない。その後も、その日の纏めレポートと翌日の準備、家事、と毎日やる事がいっぱいで、実習が済んだらとっとと家に帰っていたので、話をする暇はほとんど無かった。
 実習はどうだった? とか、晃くん以外の人とも話してみたいかも……。

「あ、あの。このまま、一緒に夜ご飯食べて、食べながらお話するってこと?」
「そうそう。うちら皆、初めての実習だったじゃん? 注意された事とかいっぱいあるし、子どもへの話し方、あれで合ってたのかなー、とか思ってることあるんだけど、村瀬くんもある?」
「あ、ある」
「そういうの、愚痴も込みで話さない?」

 話したいかも。
 正直、家でぐてっと寝転がってしまいたい気持ちもあるが、帰ったらやっぱり、ついつい家事をしてしまいそうな気もする。

「話す。話したい」
「え?」

 晃が、ひどく驚いた顔で一太を見た。晃くんは行きたくなかったのかな。
 でも、一太の顔を見た晃は、すぐに少し笑って頷いてくれた。

「やった、決まり。行こう行こう」
「うん、行く」

 何だか、こういう一つ一つが全て、ずっと憧れていた学生生活みたいじゃないか、と気付いて、一太は、とてもはしゃいだ気持ちになっていった。
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