【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,322 / 1,325
こぼれ話

ふわふわになっても飴はこの世で一番美味しい

しおりを挟む
 西中さいちゅう国の城の厨房でしばらく手伝いをしていた広末ひろすえが、何か大きな装置を持って帰ってきた。

「広末、おかえり!」
「なる坊、ただいま」
成人なるひとさま、ただいま帰りました」
斑鹿乃むらかのもおかえり」
「なりゅしゃま、おかーり」
末良すえよし、おかえり。末良はただいまって言うんだよ」

 末良は俺の真似して、おかえりって言っちゃった。可愛い。

「なーひとでんか、たーいまー!」
「ん?」

 にっこにこの亀吉かめきちが飛んできたので、慌てて受け止める。

「わわ。亀吉、おかえり?」

 亀吉は、ただいまであってるのかな? ただいまは、もともとここに住んでた人が言う言葉だったような?

「あの、すみません。お邪魔いたします」

 亀吉のお世話係の香月かづきが、なんだか小さくなりながらぺこぺこと頭を下げた。

「いいよー」

 亀吉、付いてきちゃったんだ? 俺が西中国から帰る時も、いっしょいくーって泣いてたもんなあ。
 でも、母上の松吉まつきちは仕事が忙しくて動けないし、仲良しの末良もまだ西中国に残るからって、俺と一緒には来れなかったんだ。あれから一月ひとつき以上経ったけど、俺のこと覚えててくれて嬉しいよ。ほら、小さい子ってさ、すぐ忘れちゃうから。
 広末は挨拶が終わると早速、厨房の端に台を置いて、装置を設置した。
 なになに?
 これなぁに?

「ふっふっふっ」

 広末は楽しそうに笑ってる。斑鹿乃は肩をすくめて笑うと、私は乙羽おとわさまにご挨拶してきます、成人さま、末良と亀吉さまをよろしくお願いします、と手荷物を持って出て行った。
 うん、まかせて。
 装置は、丸い覆いがある筒状のもの。広末がスイッチを入れると、ぶーんと大きめの音がした。

「温まるまでちょっと待ってろよ。危ねえから、あんまり近寄っちゃ駄目だぞ」
「ん、分かった」

 末良と亀吉をつかんで、ちょっと後ろに下がる。俺の一つしかない手でも、小っちゃな二人をまとめて捕まえるくらいは簡単だ。亀吉は、きゃあと喜んで、末良はきゅっと俺の腕をつかんだ。
 よし、と言った広末が、割りばしを右手に持って、筒状の覆いを少し開ける。おお、開くんだ。左手で、何かをざらざらと装置の真ん中の穴に入れた。何か茶色の小さな塊。

「これな。ざらめだ。粒の大きな砂糖」
「おお」

 何だろって思ってたら、広末が説明してくれる。
 そしてまた、今開けたところを閉めた。三人でじぃっと見ていると、広末がまたふっふっふって笑う。
 覆いの中は、白い何かがふわふわと浮き始めていた。

「おお」

 茶色いの入れたのに、白いの出てきた。なんか白いの。
 広末が覆いを開けて、割りばしを突っ込む。手をくるくると動かして、白いふわふわを割りばしに絡めとっていく。

「おおおおお」
「おー」
「おー」

 俺の真似した亀吉と末良も、おおって言ってるうちに、大きな白いふわふわが出来上がっていた。

「できた。綿あめ」

 スイッチを切った広末が、白いふわふわのついた割りばしを俺に差し出す。

「わたあめ」
「そう。綿みたいにふわふわになった飴だ」
「おおおおお」

 あめ。飴? 俺がこの世で一番美味しいって思ってる、あの飴が、綿みたいにふわふわに?
 ってことは、これは、ぺろぺろ舐めるのか?
 甘い匂いにつられて、ぺろと舐めてみたら、しゅわと溶けた。

「おおおおお」

 あまーい。美味しい。

「かめも。かめも」
「とちゃ。すえーしも」

 棒が危ないからって、香月が手を洗ってから、少しだけ綿あめをちぎって亀吉の口に入れた。末良の口には広末が。

「あま」

 亀吉はそう言ってから首を傾げた。

「ない」

 すぐになくなっちゃったらしい。
 俺もちぎって口に入れてみる。

「うま」

 舐めた時より口いっぱいに美味しいのが広がったけど、すぐになくなっちゃった。
 末良は、広末に口に入れてもらって一口食べた。びっくりして細い目を見開いてから、手を伸ばしてくる。はい、と棒を持った手を下げると、むしっと大きな塊をちぎっていった。すごい。そんなにお口に入る?
 末良がぎゅむぎゅむと口に突っ込んだら、綿あめは小さくなって、末良の小さなお口に全部入っちゃった。
 真剣に、あむあむと口を動かしてにぱって笑った。
 それ、美味しいの? 俺もやろう。
 大きめにちぎって口に入れたら、口の中いっぱいがふわふわだ。

「ふわあ」
「うまいか」

 広末が、にこにこして見てる。

「美味しい。すごくすごく美味しい」

 当たり前か。だって、これは飴なんだもんな。綿になった飴。飴はこの世で一番美味しいんだから、美味しくて当たり前だ。
 ない、って言いながら手を伸ばしてきた亀吉とも一緒に三人でちぎってたら、すぐになくなっちゃった。

「おかぁり」

 末良が元気よく言っている。俺も。俺もまだ欲しい。

「広末。俺もおかわり」

 おかわり、なんて初めて言ったかも。
 これ、ふわふわだからいくらでも食べられるねえ!

「うーん。腹が膨れねえわけじゃないんだけどな。ま、いっか。あと一つだぞ」

 広末は、もう一つ作ってくれた。俺たちは、また夢中でちぎって食べた。
 今度、亀吉と末良がいないときに、くるくる巻き付けるのもさせてくれるって。二人がいるときに俺がやってたら、一緒にやりたいって言うから、また今度。そうだね。二人にはまだ危ないよね。俺はお兄ちゃんだからできるけど。あ、そうだ。灯可とうかならどうかな。灯可は俺と同じでお兄ちゃんだから、くるくるもできそう。
 ふわふわなのに、食べていたらなぜかべたべたになった手や口の周りを拭いてもらいながら、俺は灯可と一緒にくるくるする日を考えてにひっと笑った。
 また、楽しみが増えちゃった。
 お腹は膨れてないのに何でか夜ごはんがあまり入らなくて、緋色にちょっと怒られた……。
 
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...