【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第一章 初めての幸せ

12 緋色 3

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「ごめんなさい」

 囁くような小さな声。ぐらりと十三じゅうさんの体が傾く。頭を拭いていた手拭いをよけて、眠ってしまった体を抱き止める。膝の上に頭を乗せて、胸をぽんぽんと叩いてやると、すぐに寝息が深いものになった。

「だよなあ」

 ベッドサイドに立っていた常陸丸ひたちまるが呟いた。

「可愛い顔してますもんね、こいつ」
「酷かったぞ。無理やり突っ込んだ跡の傷だらけ。裂傷の痕だな。孔の形もちょっと変形してる。体中の、手当てしないまま塞がった傷痕より酷いくらいだ」
「体洗ったら、ヤる合図ってことですか。それ以外に洗うこともない、と。……胸くそ悪くなってきましたねえ」

 ふー、と何かを堪えるように常陸丸ひたちまるが息を吐く。そして、ああ、と呟いた。

生松いくまつがね、こいつのこと、えらい優しく世話するんですよ。必ず寝てる間を狙って来て、オムツ替えて、丁寧に体を拭いて」
生松いくまつ?」
「こいつの世話係。最初に来たときは、戦闘人形ドールだってんでガタガタ震えてたから、横で銃を構えて付き添ってたんです。でも、オムツ替えた後、哀しそうな顔して、いつでも呼んでくださいって。その後も、皆怖がってるから自分が行きますって、誰にも譲らずに世話してくれてます」
「そうか」

 あの、酷い傷痕を見たのだろう。この小さな体にどれだけ無理を強いたのか。

「……もしかして、今、すごい幸せ、なんですかね、十三じゅうさんは」

 動けるようになってからも、トイレ以外にはベッドから下りようともせず、ゴロゴロと布団に転がっている。飽きもせず、すりすりと布団に顔を擦り付けては、うっとりする。
 食事は、何を出しても美味しそうに食べる。水と粥と雑炊しかやってないが、水でさえ、こんなうまいものあるのかーって顔で飲む。
 飴は、傑作だったな。口の回りがべたべたになって、大変だった。飴を食べてから、常陸丸ひたちまるが近寄るとポケットばかり見ている。何食って、大きくなったんだろうな? いや、大きくなってねえか。

「名前をな、付けてやろうかと思って」
「数字ですもんね。十三じゅうさん
成人なるひとってどうだ? 人形から、人になったってことで」
「殿下にしては、上手いですねー。拾った猫みたいなもんだから、タマとか言うかと思ってましたよ」
「それも、いいな」

 成人なるひとを、膝の上からベッドに移すと、いやいやと首をふっている。そういや、くっつくのも好きだな。今日は、ここで寝るか。
 軍服を脱いでいると、ぼりぼりと頭を掻いた常陸丸ひたちまるが、踵を返した。

「シャワールーム行ってきます。俺は、ソファで寝るから毛布出しといてください」
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