【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

11 成人 8

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わっぱがおりましたな」

 部屋の扉を閉めて、廊下の声を聞く。見つかってしまった。

「とりあえず、緋色ひいろさまのお部屋へどうぞ」

 ちっとも慌ててない声で、乙羽おとわが言う。仕事部屋へ入っていく音がしてほっとした。
 さすがに、声は聞こえてこない。
 お出かけから帰ってきてあの人がいたら、生松いくまつは喜ぶのだろうか。昼ご飯は、あの人がいるなら、俺は一人かな。
 廊下の声も聞こえなくなったし、ソファに座ってぼんやりしてたら、乙羽おとわが部屋に入ってきた。

「なる、お水は飲んだ?」

 忘れてた。
 立ち上がって冷蔵庫へ向かう。冷たいお水は美味しい。
 冷蔵庫には開いてないペットボトルの水しか無かった。新しいペットボトルの蓋は片手では開けられないので、諦めてコップに水道の水を出す。飲もうとしたら、乙羽おとわがそれを止めた。

「冷蔵庫の水が飲みたいなら、言えばいいのに」

 別に、いいよ?
 冷たい水は一番美味しいけど、水道の水も不味い訳じゃないし。不味くても、死なないなら大丈夫。
 最近は、美味しいものを口にしすぎて贅沢なんだよね。飴とか!
 でも乙羽おとわは、コップの水を捨てて冷蔵庫の、ペットボトルに入った水を開けていでくれた。
 美味しーい。

「美味しいんでしょ」

 乙羽おとわが柔らかく笑う。綺麗な人だな。

「蓋を開けてって言うだけなのよ。私が、側にいるときはお願いしていいのよ。何でも」

 お願い?
 無いよ。
 じっと俺の顔を見ていた乙羽おとわは、小さなため息をついて、俺をソファに引っ張っていった。隣り合わせに座って、俺の右手を握る。

「なるは、手が一つしかなくて困ることがあるでしょ? そういう時は、近くにいる人に助けてってお願いしてもいいんだよ。助けてあげるからね」

 助けて?
 よく分からない。
 曖昧に笑って頷くと、また溜め息を吐いている。

「美味しいお水が飲めて良かったね」

 それは、分かったのでこくこくと頷く。
 緋色ひいろが部屋に入ってきた。

乙羽おとわ利胤としたねが、昼食を一緒に食べるそうだ。たぶん、夜も帰らないだろうから、夕食も追加で、客室の準備も頼んできてくれるか」
「案内の途中で、頼んできましたわ。酔っ払ったおじ様を叩き出すわけにはいかないでしょう?」
「流石だな、助かる。成人なるひとは、どうした?」
「難しいのよ、色々ね……」
「……? 成人なるひと、今日は、ご飯はここで一人で食べてくれるか。客が来ててな、皆そちらに行かなきゃならん」
「はい」

 緋色ひいろが忙しそうに出ていった扉を、じーっと見てたら、乙羽おとわがまた、右手をぎゅ、と握った。

「じゃ、私も行くね。手伝ってくる。ご飯は、持ってくるからね」
「はい」

 一人でご飯を食べるのは、拾われてから初めてかもしれない。
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