【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

72 力丸 9

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「皇妃殿下。」

 義姉上あねうえが、左拳の上に右手を添えて頭を下げた。慌てて、俺も倣う。
 成人なるひと!お前、何てところに、ほいほい入って行くんだよ。普通に挨拶してるし。
 その本人は、と頭を下げたまま目で様子を伺うと、きょろきょろと挙動不審にしてから、俺たちと同じ形を真似ようと手を上げている。肘までしか無い左手が、無理やり持ち上げられて痛そうだ。と、心配していると、皇妃殿下が成人なるひとの腕を下ろさせてから、俺たちに近づいてきた。

「はい、いらっしゃい。挨拶は受けましたよ。頭を上げて。それじゃ、金魚が見られないわ。」

 おずおずと頭を上げると、柔らかく微笑む皇妃殿下が、成人なるひとを抱きしめながら立っていた。

「なるひとちゃん、お友だちと来たのね。大歓迎よ。」

 成人なるひとが、頬を弛めてうんうんと頷いている。
 友だち扱いは、すごく嬉しい。

泉門院せんもんいん乙羽おとわでございます。」
泉門院せんもんいん力丸りきまるでございます。」
「はい。私は雫石しずくです。いつも、常陸丸ひたちまるさんにはお世話になっています。力丸りきまるさんは、お兄さんによく似ているのね。」
「はい。よく言われます。」

 一通りの挨拶の間にも、成人なるひとはもう、部屋の奥の方をちらちらと見ている。皇妃殿下が、そっと離すと、義姉上あねうえの手を繋いで引っ張って行った。
 金魚を見たことがなかった義姉上あねうえが、ふわあ、という顔で水槽に釘付けになる。俺も、こんな大きな金魚を見たのは初めてだった。夜店の金魚すくいの屋台で見た金魚は、もっと小さかった。
 義姉上あねうえの反応を見て嬉しそうな顔の成人なるひとが、勝手知ったる様子で踏み台を持ってきて、上からぱらぱらと餌を入れた。
 金魚が、餌を食べる。面白い顔してるよなー、口をぱくぱくしてさ。

「食べた。なる、食べてる。」

 義姉上あねうえが、声を上げる。皇妃殿下の部屋にいる緊張感は、すっかり解けたようだ。俺も、緊張感が薄れている。
 踏み台から降りて義姉上あねうえの横に立った成人なるひとが、にこにこと餌を食べる金魚を覗きこんだ。嬉しそうだなー、と見ていると、ぷふふふっと笑い出す。

「ねえ、なる。あれ、あれってもしかして?」

 義姉上あねうえも、そう言いながら、ふふふふふと笑い出した。二人で手を繋いで、笑い合っている。
 可愛いなー、と思っていると、写真を撮りたいわ、という皇妃殿下の呟きが聞こえた。思わず、そちらを向くと、楽しそうに二人の様子を見ていらした。ご病気とお聞きしていたけれど、元気になってこられたんだな。良かったなあ。
 金魚はおしりから、しっかりをぶら下げて、優雅に泳いでいる。ははっ。何で、平気でぶら下げてるんだろうなあ。
 俺は、二人に近寄って一緒に覗きこんだ。
 成人なるひとが、楽しそうに笑いながらこちらを見る。

「やっぱり、ぶら下がってるな。」

 と、言うと、うんうんと頷いた。
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