【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

12 静かな病室  成人

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 右腕の無い人を病院に連れて帰り生松いくまつに診てもらうと、右腕の切ったあとが腐りかけていると言う。処置した後はあるが、まだ治療の最中に動き回ったのだろう、ということだった。
 忍部しのぶべ博士が手術をして、肩の辺りで少しだけ残っていた右腕を切り落とした。

「しばらく食事もちゃんと摂っていないと思いますよ。栄養が全く足りてません。」

 生松いくまつはどこか怒ったように言って、残った左腕に点滴をつないだ。
 心配で、暇があれば様子を見に行く。白かった顔色は、熱を出して真っ赤になっている。額に乗せたタオルはすぐに温くなるから、冷たい水を張った洗面器に浸けて、片手で絞れるだけ絞ってまた乗せてあげた。
 時々、苦しい息の下から、おみおみ…と呟く。それが、探している人なんだろうか。胸が詰まるような悲しい声だった。
 この人を連れて帰ろうとしたら、後を付けてくる気配があった。はじめは連れて帰るのをしぶっていた緋色ひいろが、面倒事なら仕方ない、と結局連れて帰ってくれたのは助かった。追っ手は、王城の門の内側まで入り込むようなら捕らえろ、そうでなければ泳がせておけと緋色ひいろは言った。その後、どうなったのかは聞いてない。
 二日経って、目が開いた。しんどいだろうに、すぐに覚醒して体に緊張が走ったのが分かった。戦闘に慣れた人の反応に、じいやがふっと気配を見せる。分かりやすくそちらへ視線をやったので、かなり強そうだった。

「動いたらだめ。」

 治らないうちに動いたから傷口が腐ったのだと生松いくまつが言っていた。これ以上腐ったら、もう切り落とせない。右腕は無くなってしまった。

「お水飲む?」

 いつも、自分が言われていることを言ってみる。腕がないのも一緒だし、きっとやることも一緒だ。
 冷たい水をコップに入れて、ストローを差した。抱き上げてあげられないからどうしよう、と思っていると生松いくまつが来てくれた。
 生松いくまつは俺に笑いかけてから、ベッドを覗きこむ。

「目が覚めましたか?良かった。私は医者です。」

 生松いくまつがそっと怪我人をベッドから抱き起こして俺の方を向くので、ストローを差したコップを口に近付けた。怪我人はしばらく目線をきょろきょろとさせた後、ストローに口を付ける。
 そうそう。水分取るんだよ。
 一口飲んだら止まらなくなったみたいで、息を切らしながら全部飲みきった。飲み終わったら、ぐったりしている。
 分かるよ。食べたり飲んだりするのって疲れるよね。

「後で粥も持ってきます。成人なるひとにお世話をお願いしてもいいですか?」

 もちろん。
 俺が頷くと、ベッドに戻して診察をして生松いくまつは出ていった。
 ベッドの人が、軽くため息を吐く。

「痛い?」

 そりゃ痛いよね。腕を切ったし、熱も高いし。
 俺はまた、片手でタオルを絞る。じっとこちらを見る視線。額にタオルを乗せてあげると、少し目が潤んだ。

「ありがとう……。」

 掠れた声に頷いて、緋色ひいろが迎えに来るまでそこで黙ってお世話をした。
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