【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
301 / 1,325
第四章 西からの迷い人

88 様々な初めて  三郎

しおりを挟む
 力丸りきまるさまに手を引かれて広めの食堂に入り、びくりと立ち止まった。
 私と母が連れてきた者達が、座って食事をしている。固い表情だが皆、身綺麗で、酷い扱いを受けている様子は無かった。
 弐角にかくさまの顔色が、一番悪いくらいや……。
 弐角にかくさまの護衛二人と従者と見られる一人も、目の下に濃い隈がある。
 たった四人で、来たのか。
 母なら、なんとみっともない、と言うやろう。
 自分の連れてきたのは、護衛だけで四人、母の護衛も四人。従者も四人。服の係、髪の毛の係、身の回りの世話係が二人。母は更に、服の係がもう一人居て、母方の従兄弟が二人、後学のためと付いてきている。そちらにも、従者と護衛が二人ずつ。中央で、どこかの貴族と懇意になって屋敷に招かれたときに、側近も無しで行くんは恥ずかしいから連れていき、と祖父が言うてたから、一二三ひふみの側近候補ということなんやろう。
 披露宴の招待状には、招待状のある者と護衛一人しか入れんて、はっきり書いてあるのにな。
 無駄な大所帯でやってきたもんや、と今なら分かる。
 今さら、やけど。

「どれにする?」

 身を固くして、食事をする家臣を見ていたので、力丸りきまるさまに手を引かれたままだった。

「どれって?」
「殿下にお金もらったから、好きなの食べていいよ。俺、大盛り焼き肉定食ー。」

 目の前に大きな箱があって、メニューが小さく書いてあり、メニューの下にボタンがある。自動の販売機、と言うやつやな。力丸りきまるさまがお金を入れて、ボタンを押すと券がぺらりと出てきた。首を傾げたが、確かに、こんなんから定食が出てくる訳がない。
 個室に案内されて、店の最高級料理です、という物が運ばれてくるのを待つ食べ方しかしたことないから、何でも珍しい。

「何これー。」

 利胤としたねさまに抱かれたままの成人なるひとさまが近寄ってきて、尋ねていた。
 私も、素直に聞けたらええんやけど。

「食べたいものをあの看板で選んだだろ?それで、この券売機で券を買って、あそこでくださいってお願いするんだ。」

 力丸りきまるさまの言葉に、うんうんと頷いた成人なるひとさまが、利胤としたねさまの腕から下りて私の後ろに立つ。

「あ、先にどうぞ。」
「いいの?俺、うどん。」
成人なるひと、何うどん?」
「普通の。」
「普通のって、何も乗ってないやつ?素うどん?」
「うん。」

 成人なるひとさまが力丸りきまるさまにお金をもらって、楽しそうに入れる。左上のボタンに背伸びをした所で、力丸りきまるさまが、ひょいとそれを押した。

「あー!」
「え?なに?これだろ?」
「俺、俺がボタン……。」
「届かなかったじゃん。」

 これは、力丸りきまるさまがあかんやろ。私も自分で、ボタン押してみたい。

「まったく、力丸はせっかちでいかん。もう料理を取りに行け、邪魔じゃ。成人なるひと、じいじのボタンを押してくれ。わしはこの天ぷらそばセットだ。」
「……うん。押す。」

 悲しそうな顔のまま頷く成人なるひとさまを利胤としたねさまが、ひょいと持ち上げた。ボタンを押して出てきた券を取って少し笑ったから、機嫌は直ったらしい。教えてもらってお釣りのボタンも押し、出てきた釣り銭を私の手に乗せて行ってしまった。

「決まったか?」

 そちらをぼんやり見ていると、力丸りきまるさまの声がした。

「あ、すみません。」

 てっきり一緒に行ったかと思っとったので驚いた。慌てて券売機にお金を入れる。ちゃりんと入っていくのが楽しい……。天ぷらそばの単品を押すと、それで足りるのか?と聞かれた。

「充分です。」
「ま、足りなきゃまた、買えばいいか。行くぞ。謝らないと。」

 成人なるひとさまに謝ることを後回しにして、私のことを待ってくれたんか……。
 何故かほっとした気分で、急いで力丸りきまるさまの後を追った。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...