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第四章 西からの迷い人
98 想像の範囲内 緋色
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乾杯の音頭を終えた壱鷹が、じっと綾女を見た。
ぐ、と眉根を寄せた綾女が料理へと目を逸らす。
「ようやっと、口に合うもんが食べられるわ。」
箸を持ち上げて、わざとらしく言葉を落とした。
「綾女。」
壱鷹の抑えた声。綾女は顔を上げもしない。
「一二三は、どこだ?」
空いている隣の席。当主と当主の妻が並んだその隣。まるで、その存在を忘れたかのように誰も言及しない。
「一二三と共に出たのではないのか?そなたが名代だと言って皇都へ向かったのではあるまい?」
基本的に、壱鷹は勝手に出た一団の顔ぶれを知らない。壱鷹が名代として指名し、皇都へ送り出したのは弐角。次期当主として指名したのも弐角。
それを不服とし、こちらこそ真の名代であると勝手に皇都へ向かった一団がいた、という認識くらいで詳しく調べるための手駒はいなかった。そのようなことに手を割いているなら国内の状勢を整える方が先決だから。ただ、名代として立てるなら一二三だろうと思っている。綾女が共に行ったというならなおさら。
皇都へ行ってしまったなら、離れた場所でできることは限られているのだから、そちらは弐角に任せている。領地での主権争いで精一杯。何とか現状の五分五分を保っていたところへ、俺が弐角の後ろ楯となって逆転しようという場面。
出立前の朱実の言葉を思い出し、予想通りの展開に少しうんざりする。
壱鷹の言葉に目を見開いたのは八朔与市だった。担ぐ御輿を失っていることに、今気付いたのか?いくら飾るだけのつもりでも、無くては困るだろうに。
「私かて、聞きたいわ。緋色殿下のお城で消えたんやから、緋色殿下に聞かはったら如何です?うちは、晩餐に招かれた後から生きた心地がせえへんかった。いくら皇家や言うたかて、酷い侮辱やったわ!お父様、皇家に抗議してください。食堂で使用人とおんなじ食事を出すやなんて。一緒に食べろやなんて!しかもその後から、宿屋から一歩も出られへんように閉じ込められとったんですよ。」
「なん、だ、と……?」
捲し立てる綾女に、八朔与市が呆然と声を上げる。
「せっかく皇都に行ったのに、始めにデパートに一回行けただけや。結婚披露宴にも参加できひんし、ほんまえらいめにおうたわ。」
「そんで、お前は、一人おめおめと帰って来たんか……?」
「え?」
「そんなことになっとる報告は受けとらん。一二三が行方知れずやて?何で手紙を寄越さんのや?披露宴にも出とらんのか?緋色殿下がご訪問されるから歓迎の準備を、という電報が届いたからてっきり上手くいったとばかり思うて、歓迎の準備を進めとったいうのに……。」
最後の方は、ギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえそうな唸り声だった。
ぐ、と眉根を寄せた綾女が料理へと目を逸らす。
「ようやっと、口に合うもんが食べられるわ。」
箸を持ち上げて、わざとらしく言葉を落とした。
「綾女。」
壱鷹の抑えた声。綾女は顔を上げもしない。
「一二三は、どこだ?」
空いている隣の席。当主と当主の妻が並んだその隣。まるで、その存在を忘れたかのように誰も言及しない。
「一二三と共に出たのではないのか?そなたが名代だと言って皇都へ向かったのではあるまい?」
基本的に、壱鷹は勝手に出た一団の顔ぶれを知らない。壱鷹が名代として指名し、皇都へ送り出したのは弐角。次期当主として指名したのも弐角。
それを不服とし、こちらこそ真の名代であると勝手に皇都へ向かった一団がいた、という認識くらいで詳しく調べるための手駒はいなかった。そのようなことに手を割いているなら国内の状勢を整える方が先決だから。ただ、名代として立てるなら一二三だろうと思っている。綾女が共に行ったというならなおさら。
皇都へ行ってしまったなら、離れた場所でできることは限られているのだから、そちらは弐角に任せている。領地での主権争いで精一杯。何とか現状の五分五分を保っていたところへ、俺が弐角の後ろ楯となって逆転しようという場面。
出立前の朱実の言葉を思い出し、予想通りの展開に少しうんざりする。
壱鷹の言葉に目を見開いたのは八朔与市だった。担ぐ御輿を失っていることに、今気付いたのか?いくら飾るだけのつもりでも、無くては困るだろうに。
「私かて、聞きたいわ。緋色殿下のお城で消えたんやから、緋色殿下に聞かはったら如何です?うちは、晩餐に招かれた後から生きた心地がせえへんかった。いくら皇家や言うたかて、酷い侮辱やったわ!お父様、皇家に抗議してください。食堂で使用人とおんなじ食事を出すやなんて。一緒に食べろやなんて!しかもその後から、宿屋から一歩も出られへんように閉じ込められとったんですよ。」
「なん、だ、と……?」
捲し立てる綾女に、八朔与市が呆然と声を上げる。
「せっかく皇都に行ったのに、始めにデパートに一回行けただけや。結婚披露宴にも参加できひんし、ほんまえらいめにおうたわ。」
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「え?」
「そんなことになっとる報告は受けとらん。一二三が行方知れずやて?何で手紙を寄越さんのや?披露宴にも出とらんのか?緋色殿下がご訪問されるから歓迎の準備を、という電報が届いたからてっきり上手くいったとばかり思うて、歓迎の準備を進めとったいうのに……。」
最後の方は、ギリギリと奥歯を噛みしめる音が聞こえそうな唸り声だった。
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