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第四章 西からの迷い人
130 香りを合わせて 緋色
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契約の書類を交わし終え、運ぶための運賃を上乗せした金額設定や、商店街の店舗の視察などの日程を細かく決めてひと息ついた頃に、衝立の後ろから壱臣が出てきた。
とろりと気持ち良さそうに頬が緩んで上気し、何とも言えぬ色気を漂わせている。
後ろから出てきた半助が、嫌そうに部屋の中の人間を見回した。
まあ、伴侶のこんな顔を晒したくはないよな。
何となく情事の後を見たような気分になって苦笑していると、俺と店主のやり取りをひたすら大人しく見ていた弐角が、ばっと立ち上がり、壱臣に近寄った。ぎゅっと抱きしめて囁く。
「臣。綺麗や。」
ぼさぼさとただ無秩序に伸びていた髪が、短く整えられて艶を持っている。動くと、弐角と似た香りが控え目に漂った。不機嫌な半助の肩口までの髪も、艶々として下ろされているから、ついでに手入れをしてもらったんだろう。
真っ直ぐな黒髪が美しい顔を縁取っている。
「綺麗やなんて、角、大げさや。」
「ほんまやで。俺が臣に世辞を言うてどうするん?」
「でも、また短うなってしもた。」
髪を引っ張る癖を見せながらこちらに歩いてくる壱臣の香りと半助の香りは別物のようだ。
「短うても、今の臣が一番綺麗。」
はにかんでうつ向きながらソファに座る壱臣を嬉しそうに見ていた店主が、弐角に声をかけた。
「若様。兄君とお連れの方の香りを確かめてみて頂けますか?」
隣り合って寄り添うように座った二人の後ろから近寄った弐角が、おお、と声を上げる。
「これは、お見事。」
ふふ、と本心からの笑みを溢した店主が、こちらを向いて説明を始める。
「兄君とお連れ様にお付けした美容液が新商品でしてね。違う香りでありながら、共にいるとまるで一つの新しい香りのように混じり合うんです。」
「ほう。」
恋人同士や夫婦ならば、同じ香りを纏いたがるものかと思っていたが。
「想い合う者同士が同じ香りを纏うのが流行りでしたが、男の好みに合わせるとすっきりし過ぎる、女の好みに合わせるとどうにも甘い香りになる、と揉め事も多うて。間を取ると、どちらの好みにも合わん凡庸な香りになってしまう。この問題を解決しようとの大計画です。ようやっと一つ形になりまして、いよいよ大々的に売り出そうという品なんですよ。」
「凄いな。」
常陸丸が感嘆の声を上げた。
本当に、すごい熱意だ。この店は拾い物かもしれん。時勢を見る目があるようだ。研究も怠らない。この店を贔屓にしている九鬼の当主も、見る目があるということだな。
「殿下や泉門院さまも是非、ご伴侶とお試しください。」
朱実への報告のことを考えていると、そんな言葉が聞こえてきた。
成人と別の香り?
……ないな。
これ、一緒だ!
お揃いのパーカー、使う石鹸や洗濯物のかすかな匂いにも、俺と同じものを見つけて喜ぶ伴侶を思い浮かべる。
「うちはそれはいらん。」
「うちも。」
乙羽もたぶん、違う物を選ぶくらいなら常陸丸に合わせるだろう。元より、常陸丸が乙羽に異を唱える訳がない。
俺たちは顔を見合わせて笑った。
とろりと気持ち良さそうに頬が緩んで上気し、何とも言えぬ色気を漂わせている。
後ろから出てきた半助が、嫌そうに部屋の中の人間を見回した。
まあ、伴侶のこんな顔を晒したくはないよな。
何となく情事の後を見たような気分になって苦笑していると、俺と店主のやり取りをひたすら大人しく見ていた弐角が、ばっと立ち上がり、壱臣に近寄った。ぎゅっと抱きしめて囁く。
「臣。綺麗や。」
ぼさぼさとただ無秩序に伸びていた髪が、短く整えられて艶を持っている。動くと、弐角と似た香りが控え目に漂った。不機嫌な半助の肩口までの髪も、艶々として下ろされているから、ついでに手入れをしてもらったんだろう。
真っ直ぐな黒髪が美しい顔を縁取っている。
「綺麗やなんて、角、大げさや。」
「ほんまやで。俺が臣に世辞を言うてどうするん?」
「でも、また短うなってしもた。」
髪を引っ張る癖を見せながらこちらに歩いてくる壱臣の香りと半助の香りは別物のようだ。
「短うても、今の臣が一番綺麗。」
はにかんでうつ向きながらソファに座る壱臣を嬉しそうに見ていた店主が、弐角に声をかけた。
「若様。兄君とお連れの方の香りを確かめてみて頂けますか?」
隣り合って寄り添うように座った二人の後ろから近寄った弐角が、おお、と声を上げる。
「これは、お見事。」
ふふ、と本心からの笑みを溢した店主が、こちらを向いて説明を始める。
「兄君とお連れ様にお付けした美容液が新商品でしてね。違う香りでありながら、共にいるとまるで一つの新しい香りのように混じり合うんです。」
「ほう。」
恋人同士や夫婦ならば、同じ香りを纏いたがるものかと思っていたが。
「想い合う者同士が同じ香りを纏うのが流行りでしたが、男の好みに合わせるとすっきりし過ぎる、女の好みに合わせるとどうにも甘い香りになる、と揉め事も多うて。間を取ると、どちらの好みにも合わん凡庸な香りになってしまう。この問題を解決しようとの大計画です。ようやっと一つ形になりまして、いよいよ大々的に売り出そうという品なんですよ。」
「凄いな。」
常陸丸が感嘆の声を上げた。
本当に、すごい熱意だ。この店は拾い物かもしれん。時勢を見る目があるようだ。研究も怠らない。この店を贔屓にしている九鬼の当主も、見る目があるということだな。
「殿下や泉門院さまも是非、ご伴侶とお試しください。」
朱実への報告のことを考えていると、そんな言葉が聞こえてきた。
成人と別の香り?
……ないな。
これ、一緒だ!
お揃いのパーカー、使う石鹸や洗濯物のかすかな匂いにも、俺と同じものを見つけて喜ぶ伴侶を思い浮かべる。
「うちはそれはいらん。」
「うちも。」
乙羽もたぶん、違う物を選ぶくらいなら常陸丸に合わせるだろう。元より、常陸丸が乙羽に異を唱える訳がない。
俺たちは顔を見合わせて笑った。
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