【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

132 八つ当たり  緋色

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 成人なるひとは町の散策が楽しかったようで一生懸命話していたが、ふと静かになったかと思うと、頭を俺の体にもたせ掛けて、うとうとしている。

「飯を食うまで寝るな。」

 膳がきたので、先に食べさせてしまうことにして何とか箸を渡したが、手に持ったままぼんやりとして膳を眺めるばかりだ。
 料理人が替わったのか、昨日までのような贅を尽くした物ではなく、一汁三菜が乗っている。いつもと似たような構成だから食べやすいはずだが。
 箸を取り上げて、味噌汁を口元にやると、ふーふーとしてから一口飲んで手に持った。気に入ったか?まあ、味噌汁さえ飲んでおけば、だいたいの栄養は摂れるだろ。

「うちの屋敷から料理人を連れてきました。質素で申し訳ない。」

 弐藤にふじが俺の横で正座し、丁寧に頭を下げる。

「これがいい。」

 そう返事をすると、しみじみとこちらを眺めた。ふ、と笑うと目元の皺を深くした。

弐角にかくは、良き友を得た。」
「お互い様だ。」
「ありがとうございます。」

 どやどやと、むさ苦しい集団が入ってくる。
 移動ばかりで動き足りないと、力丸りきまる才蔵さいぞうを引っ張って鍛練できる場所へ出ていくのを見て、常陸丸ひたちまる半助はんすけまで付いていったのだ。
 暇な留守番だった利胤としたねも合流していたらしい。
 相変わらず才蔵さいぞうだけが疲れ果てた様子で帰ってきた。他の者は爽やかな汗をかいたと言わんばかりだ。半助はんすけは汗の後も見えない。
 この城の八朔はっさく方の武門の者たちが、少しでもその鍛練の様子を見ていたなら、それだけでもう動きは封じたようなもんだな。
 本人たちには、楽しい手合わせに過ぎないが。
 
「殿下、成人なるひとが寝てる。」

 力丸りきまるの声に視線を落とすと、飲み干した味噌汁の椀を手にしたまま、船を漕いでいた。

「おっと。」

 具も食べてほしかったが仕方ない。椀を手から外して、置いてあった濡れ布巾で口元を拭う。寝やすいように抱き直そうと動くと、いつものうつ伏せの形にしがみついてきた。
 やっぱりこれか。
 この姿勢、あまり楽なようには見えないんだがな。

「やっぱりそれ。」

 力丸りきまるがけらけらと笑う。ずいぶんと機嫌がいい。成人なるひととたっぷり遊んだからだろう。腹立つな……。
 ちょいちょいと合図して側に呼び、おでこを指で弾く。

「ってぇ!何?何なんですか?」
「うるさい。成人なるひとが起きる。」
「はあ?理不尽。」

 もぞ、と動いた成人なるひとの背中をぽん、ぽんと叩く。座椅子の背凭れがぎし、と音を立てた。
 口を尖らす力丸りきまるがひどく子どもっぽい。俺とはできない遊びができるのだろう、と思うと離す訳にもいかず、さりとて面白くもない。
 何とも……。
 自分の気持ちの揺れが可笑しくて、笑いながらもう一発、逃げる力丸りきまるの額をぺしりと叩いておいた。
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