【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
346 / 1,325
第四章 西からの迷い人

133 大人の時間 1  緋色

しおりを挟む
 服を握りしめていた成人なるひとの右手がするりと緩む。その瞬間は、いつも少し寂しい。
 深く眠ったのだと安堵もするが、俺を掴まえて離さないその手が、俺だけを必要としてくれているようで、とても好きなのだ。
 時間が許して、体勢的に本人がしんどくないのなら、起きるまでこうして、腕の中で寝ていてくれて構わないのだが。
 滑らかな頬をそっと撫でる。抱え直してから、横で控えている荘重むらしげにその体を預けた。軽い体は、寝てしまって動かしにくいはずの時でさえ、簡単に人の手を渡る。起きている時も、成人なるひと荘重むらしげの支えを好んでいるしな。
 宝物のように大切に成人なるひとを抱えた荘重むらしげが、一礼して食事場所としていた部屋を出ていく。
 さて。
 成人なるひとを抱えて昼食を摂っていたので、前屈みとなっていた背中を伸ばす。戦闘服に着替えて、仕事をするか。

 ずらりと並んだ九鬼くき家の直参じきさん家臣たちが、上座に案内された赤い軍服姿の俺を見て、一斉に包拳礼をとる。羽織袴の集団が物珍しくて、まじまじと眺め回してしまった。属国扱いで自治を任せている西の国々は、まだまだ独自の文化を色濃く残しており、先日まで敵対していた帝国の方が、言葉遣いや服装、髪型などが似通っているような気がして笑ってしまう。元は、あちらと同国であったんだったか……。
 手を軽く挙げて、挨拶を受けたことを示しながらそんなことを思う。手を下ろし、顔を上げた者は皆、長い髪を丁寧に結っている。複雑な編みかたをした者もいれば、ただ一つに纏めている者もいるが、飾り紐が髪を彩って、如何に艶やかな整えられた髪が大切なのかを知ることができた。
 脇に避けた家臣の真ん中に、八朔はっさく家の面々が引き立てられてくる。昨日のままの羽織袴姿と、女も豪華な着物を纏ったままであったが、皆一様に髪をばっつりと肩より上で切られていた。ぼさぼさと乱れた髪が何ともみすぼらしい。
 成る程。
 壱臣いちおみがいつも恥ずかしそうにうつ向いていた理由を、ようやくはっきりと知ることができた気がした。
 ざきざきと無造作に切られたあの髪は、この国の者にとって最大の侮辱なのだ。
 よくも、うちの大事な料理人を苛めてくれたな。相応の報いは受けてもらおうか。
 八朔はっさく家の様子にざわめく部屋を、もう一度ぐるりと睨み付けて、一段下の壱鷹いちたかの言葉を待った。
しおりを挟む
感想 2,501

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

処理中です...