367 / 1,325
第五章 それは日々の話
17 治療 3 緋色
しおりを挟む
「気持ちいいの好き。緋色とくっつくの好き。ちゅーも」
「好きなこと、いっぱいありますね」
いつの間にか話は、好きなこと、になっている。生松は気にした様子もなくそのまま、にこにこと先を促す。
「仕事するの好き。」
成人の嫌なことや、何故それが嫌なのかを聞いて、それらを取り除くための会話なのかと思っていたが、話は好きなことに移り、口も軽くなったようだ。成人は、もともと多弁じゃない。口がきけないふりを何日でも続けることができるし、聞いたことに答える形で話すことが多い。
成人の説明は、慣れない人間には分かりにくいようだ。
うちの者はすっかり慣れているが、最近加わった壱臣などはよく成人の話に首を傾げている。自分から話し出すということも少ない。まあ、だから多弁な力丸と気が合うのだろう。
「飴、ラムネ、ミックスジュース、金平糖、アイスクリーム」
話は、好きなものに移ったらしい。甘いもんばかりだな。
「茶碗蒸し、焼き海老、焼き」
こんなにたくさん話してるのは珍しい。少し興奮したように、頬に赤みが差している。
「金魚、ぞう、オルゴール、お布団」
「お布団」
息継ぎの合間に、生松が口を挟む。
「点滴をお布団の上でしたりしますけど、お布団は好きなままですか?」
「うん。気持ちいい」
「そう」
「緋色のお布団なら、好き」
「殿下のお布団……?」
「んーと、雫石さんのお布団も好き」
「ふむ。成人のお布団は?」
「え?」
「好きですか?」
「俺のお布団?」
「はい」
成人は首をひねっている。どういうことだ?
「え、と……。これ?」
悩んだ成人は俺の膝から下りて、自分の遊びの場所へ歩く。俺たちの部屋のその場所は、成人が本を読んだりパズルをしたりするために、毛足の短い絨毯を敷いて小さな本棚と小さな机と小さなソファ、もたれかかれるビーズクッションを置いた成人の秘密基地だ。
持てずにずるずると引っ張ってきたのは、大きなビーズクッション。
「俺のお布団?」
「……あ、いえ、それは違いますね」
ソファから立ち上がり、あれ?と首を傾げる成人からビーズクッションを取り上げて、元に戻す。抱き上げて、いつも二人で寝ている布団の側まで歩く。
「布団はこれだろ?」
と言えば、
「それは緋色の」
と返事が返ってきた。
俺たちの隣まで歩いてきた生松が難しい顔をしている。
「これは、お二人のお布団でしょう?」
「え?」
「え?」
もしかしてずっと、俺の布団を借りていると思っていたのか?
「そうなの?俺のお布団?」
母上の所の昼寝布団も、お前専用の物が置かれているんだが?確かにどれも、わざわざ成人の物だと言ってはいない。
「お布団を、貰ったことがない?」
こくこくと頷くのを見て、生松が呆然としている。
当たり前過ぎて、誰も言わなかったこと。成人には当たり前では無かったこと。
秘密基地を見る。
宝箱のオルゴール。大切な物を入れるために宝箱が必要だと、力丸が訴えた。だって、大事にしまっておきたい物ってあるじゃん? 成人の物って分かるように。
成人が、俺に隠したいものがあるのかと思ったのが表情に出たのを見咎めて、力丸は言った。
力丸は、持ってきた絵本に書いてある自分や常陸丸の名前を全て丁寧に消して、なるひと、と書き直していた。絵本をどこに持ち運ぶ訳でもない、もし落としたって成人に返ってくるだろう、と思っていたが、あれは、その絵本が成人の物だと示すために、とても有効だったのか。
学校で使う辞書にさ、兄上の名前が書いてあっても、落としたら俺の所に返ってくるよ? 兄上が卒業してて、もういないなら俺のじゃん? でもさ、そういうことじゃないんだよなあ。俺のだって思って持ちたいの。
力丸が言っていたことは正直、そんなに意味が分かっていなかった。
今、何となく分かった気がする。自分の物だと、認識することが大切なのか。
成人は服を着るときも必ず、これ俺の? と聞く。そうだ、というと嬉しそうに笑ってから着る。左袖が半分しか無い服なんだから、見たら分かるのに。
もしかして布団に関して、その小さな一言が無かった……?
「好きなこと、いっぱいありますね」
いつの間にか話は、好きなこと、になっている。生松は気にした様子もなくそのまま、にこにこと先を促す。
「仕事するの好き。」
成人の嫌なことや、何故それが嫌なのかを聞いて、それらを取り除くための会話なのかと思っていたが、話は好きなことに移り、口も軽くなったようだ。成人は、もともと多弁じゃない。口がきけないふりを何日でも続けることができるし、聞いたことに答える形で話すことが多い。
成人の説明は、慣れない人間には分かりにくいようだ。
うちの者はすっかり慣れているが、最近加わった壱臣などはよく成人の話に首を傾げている。自分から話し出すということも少ない。まあ、だから多弁な力丸と気が合うのだろう。
「飴、ラムネ、ミックスジュース、金平糖、アイスクリーム」
話は、好きなものに移ったらしい。甘いもんばかりだな。
「茶碗蒸し、焼き海老、焼き」
こんなにたくさん話してるのは珍しい。少し興奮したように、頬に赤みが差している。
「金魚、ぞう、オルゴール、お布団」
「お布団」
息継ぎの合間に、生松が口を挟む。
「点滴をお布団の上でしたりしますけど、お布団は好きなままですか?」
「うん。気持ちいい」
「そう」
「緋色のお布団なら、好き」
「殿下のお布団……?」
「んーと、雫石さんのお布団も好き」
「ふむ。成人のお布団は?」
「え?」
「好きですか?」
「俺のお布団?」
「はい」
成人は首をひねっている。どういうことだ?
「え、と……。これ?」
悩んだ成人は俺の膝から下りて、自分の遊びの場所へ歩く。俺たちの部屋のその場所は、成人が本を読んだりパズルをしたりするために、毛足の短い絨毯を敷いて小さな本棚と小さな机と小さなソファ、もたれかかれるビーズクッションを置いた成人の秘密基地だ。
持てずにずるずると引っ張ってきたのは、大きなビーズクッション。
「俺のお布団?」
「……あ、いえ、それは違いますね」
ソファから立ち上がり、あれ?と首を傾げる成人からビーズクッションを取り上げて、元に戻す。抱き上げて、いつも二人で寝ている布団の側まで歩く。
「布団はこれだろ?」
と言えば、
「それは緋色の」
と返事が返ってきた。
俺たちの隣まで歩いてきた生松が難しい顔をしている。
「これは、お二人のお布団でしょう?」
「え?」
「え?」
もしかしてずっと、俺の布団を借りていると思っていたのか?
「そうなの?俺のお布団?」
母上の所の昼寝布団も、お前専用の物が置かれているんだが?確かにどれも、わざわざ成人の物だと言ってはいない。
「お布団を、貰ったことがない?」
こくこくと頷くのを見て、生松が呆然としている。
当たり前過ぎて、誰も言わなかったこと。成人には当たり前では無かったこと。
秘密基地を見る。
宝箱のオルゴール。大切な物を入れるために宝箱が必要だと、力丸が訴えた。だって、大事にしまっておきたい物ってあるじゃん? 成人の物って分かるように。
成人が、俺に隠したいものがあるのかと思ったのが表情に出たのを見咎めて、力丸は言った。
力丸は、持ってきた絵本に書いてある自分や常陸丸の名前を全て丁寧に消して、なるひと、と書き直していた。絵本をどこに持ち運ぶ訳でもない、もし落としたって成人に返ってくるだろう、と思っていたが、あれは、その絵本が成人の物だと示すために、とても有効だったのか。
学校で使う辞書にさ、兄上の名前が書いてあっても、落としたら俺の所に返ってくるよ? 兄上が卒業してて、もういないなら俺のじゃん? でもさ、そういうことじゃないんだよなあ。俺のだって思って持ちたいの。
力丸が言っていたことは正直、そんなに意味が分かっていなかった。
今、何となく分かった気がする。自分の物だと、認識することが大切なのか。
成人は服を着るときも必ず、これ俺の? と聞く。そうだ、というと嬉しそうに笑ってから着る。左袖が半分しか無い服なんだから、見たら分かるのに。
もしかして布団に関して、その小さな一言が無かった……?
1,510
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる