【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

23 当たり前を知る  三郎

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「なるちゃん、こんにちは。新しいお友だち?」
「うん、三郎さぶろう
「はじめまして。三郎さぶろうと申します」
「あら、あなたも西の訛りがあるのねえ」
三郎さぶろう壱臣いちおみの弟」
「あらまあ、壱臣いちおみさんの?そう。お兄さんのとこに来たの?」
「あ、はい」
壱臣いちおみさん、元気?また顔を出すように言っておいてね」
「あ、はい」
三郎さぶろうのパンツ買いに行くね」
「あら、また?いってらっしゃい」

 ここまでが一括り。そんな会話をあちこちで繰り返しながら、商店街という場所を歩く。店が立ち並ぶ道の上には屋根があって、車は進入禁止だから安心して歩ける場所。よう考えられとるなあ、と思う。

「あの、成人なるひとさま。パンツと言わんとお洋服を買いに行くと言うてくれませんか?」
「ん?」
「あの、私のお洋服を買いに行く、と」
「あ、うん。分かったー」

 ようやく挨拶の隙間を縫って伝えることができた。もうだいぶ手遅れな気がするけど、せめて少しでも……。
 また、何かの店の前で店主らしき者がにこやかに挨拶をしてくる。成人なるひとさまが楽しそうに返事をして、壱臣いちおみさんによろしくねー、で終わる。

「あの、兄上はずいぶん、ここの方々と仲がよろしいんですね?」
「うん」
「買い物に来られてたんですか?」
壱臣いちおみのお店、あったから」
「え?」

 お店?兄上の?
 それは料理のお店ということやろか?
 なんとまあ。私がお祖父様や母上の言いなりの人形でおる間に、兄上は調理師の免許を取って、城を出て、店まで構えてはったんか。流石、兄上。尊敬します。
 すたすたと歩く成人なるひとさまに付いていくと、ここだよ、と閉じられた店を示された。商店街の端の方で、今は看板も何も無い。中からは、工事をしている音が聞こえる。

「美味しかった」
「でしょうね!」

 思わず力強く言うと、成人なるひとさまがにこっと笑ってこちらを向く。

「あ、いえ、兄上の料理はいつも美味しいですから」
「うん」
「また何かのお店になるんですね」
「髪の美容液のお店」
「へ?あ、ああ、そうなんや……」
壱臣いちおみ三郎さぶろうもいつでも買えるね」
「え?あ、いや、私は……」

 短いみっともない髪を引っ張る。もうずっと、何の手入れもしていない髪はぱさぱさで。触っては、その感触にぞっとして手を離す日々。

「お給料で買うんだよ。お仕事して、欲しいもの買うんだ。楽しいよ」

 にこにこしたままの成人なるひとさまが歩き出した。慌てて付いていく。
 そうか。仕事して対価を貰い、欲しいものを買う。もう、座って見てたら品物が積まれていったりすることは無いんや。パンツの一枚も、そうやって手に入れる。私はもう、それができる。
 母上。あなたの望む形では無かったけど、私はちゃんと大人になれたみたいや。

 
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