【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

29 最初に倒れたのは  成人

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半助はんすけ、あかん」 
おみ。俺は大丈夫やから。まだ寝とる人もおるから静かにしぃ」

 階段の側で、壱臣いちおみ半助はんすけの手を掴んで引き止めている。壱臣いちおみは、朝ご飯を作るために朝はいつも早起きだから、こんな時間に二階にいるなんて珍しい。
 料理用の白衣を着て、頭に三角巾も巻いているから、仕事の途中だな。

「おはよ」

 って言うと、二人ともぱっと姿勢を正した。でも、壱臣いちおみ半助はんすけの手を離さない。

「おはようございます」
「おはよう、成人なるひとくん。半助はんすけ、熱があると思うんよ。やのに仕事に行こうとしよるから、止めてくれへん?」
成人なるひとさま、自分のことは自分でよお分かります。おみが大げさなんですわ」

 うわあ。半助はんすけの目の下にひどい隈。美人な顔が台無しだ。ん?美人って女の人に言うんだっけ?でも緋椀ひまりも美人さんだよね?緋椀ひまり三雲みくもは、違うお仕事するからと離宮からいなくなってしまった。寂しい。

生松いくまつう」

 俺は、階段の近くの生松いくまつの部屋の扉を叩いた。

「はい」

 すぐに返事があって、寝ぐせがついている生松いくまつが顔を出す。起こしてごめんね。

半助はんすけ、お熱」 
成人なるひとさま、大したことないて言うてますやろ。生松いくまつ先生、お騒がせしてすいません」
「把握しました」

 すたすたと部屋着の生松いくまつ半助はんすけの近くまで歩く。生松いくまつは誰かの具合が悪くなった時に、いつ起こされてもすぐに駆けつけられるようにって、寝間着じゃなく部屋着を着て寝ている。

「この顔色で仕事に?ベッドに括りつけましょうか?」

 生松いくまつ、にっこり笑う顔が怖いよ?半助はんすけの首筋に手を当てて、ため息を吐く。俺も壱臣いちおみと一緒に、半助はんすけの一つしかない左手を捕まえた。わ、これは。

「ぬくい」
「そやろ?うちが起きたときには、手が冷とうてな。ちょっと震えとったんや。掛布を一枚足したら寝直したし、どうもおかしい思てたわ。仕事が一段落したから見に来たらしっかり着替えとるけど、今度はどこもかしこもぬくいやろ?」
「うん。お熱」

 はあ、と半助はんすけもため息を吐く。

「こんなもんは、熱が上がるまでがしんどいのであって、上がってしまえば何とか動けるもんなんですよ」
「何とか動ける程度で朱実あけみ殿下の護衛を勤めようとは迷惑千万」
「じいや」

 じいやが怖い顔で半助はんすけの後ろに立った。

「私に運ばれるか、自らベッドに戻るか選ばせてやろう」

 じいやの本気の気迫に充てられて、半助はんすけがくらりと揺らいだ。半助はんすけより背の低いじいやに抱えられそうになって、踏ん張る。半助はんすけの小さな声が、吐く息と共に漏れた。

「じ、自分で……」

 それがいいと思うよ?
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