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第五章 それは日々の話
33 罪と罰 1 三郎
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斎さまに付いて書類仕事を手伝い、今日はここまでにしましょう、と言われて部屋へ戻ろうとした夕刻に、生松先生に呼び止められた。
「壱臣さんを少しの間、三郎の部屋に泊めてもらえますか?」
「へ?」
兄上を泊める?私の部屋に?
「あ、え?でも、寝具が……」
「ああ。壱臣さんがいつもお使いのものをそちらへ運びますので、心配いりません」
「あの、私はええんですけど……その……」
兄上は嫌やないやろか。それに、半助は?
「大丈夫ですよ。壱臣さんの了承は取ってあります。半助さんの具合が悪くてね、壱臣さんと離したいんです。入院させてもいいんですが、半助さんは病院ではなかなか休めないようでして」
「ああ……」
気配を探るのに長けた者は、しょっちゅう見回りのある病院では気が休まらへんのやろう。
でも、半助が具合が悪い?兄上じゃなく?
生松先生は、戸惑う私を笑顔で見ている。
西国からの帰り、ずっと具合が悪そうにしとったのは兄上だ。蒼白な顔で、車の中でもずっと目を閉じて、半助の膝に頭を乗せていた。父上や角兄上に、挨拶もせんと帰ってきたようやし、帰ってからも二日ほどは姿を見んかった。
その後は、普通に仕事をしとったから、治ったんやなと思てたけど。
「それでは、お願いしますね」
あっという間に、私の部屋に兄上のベッドが運び込まれた。今まで暮らしていた環境からするととんでもなく狭く、けど一人で使用しとると広く感じる部屋。流石に二つのベッドがあると狭い。私の持ち物は、先日成人さまと購入した服や下着、渡されている手拭いと歯ブラシにコップくらいのものやから、何の問題もないんやけど。
兄上はいつ来られるのか、お風呂とか一緒に行くんかな、とどきどきしとったけど、よく考えたら兄上は忙しい。私たちの食べた後の食器を片付けないと仕事が終わらない。
待っとったらあかんな、と私は、私の寝るための準備をすることにした。ここにぼおっとしとったって、誰も着替えさせてはくれない。風呂に案内して洗ってもくれない。黙って、言われるがまま立ったり座ったりしとったら、全てが終わっていた暮らし。全てを自分でせんなんくなってから何ほども経っとらん。時計を見ながら、一生懸命次にやることを考えていないと、寝るための時間が無くなるし、起きた後、仕事に間に合わないことを知った。
囚人に割く人員などないからな、とはじめは思っとった。
よく考えたら、拘束されもせず、何にもできない私に根気よく自分で生活する術を教えてくれていた。この宮の全ての人が。
部屋から出て、食事の部屋に行くこと。食事を受け取って座る場所を決め、食べる。食べ終えたら、食器を洗い場に片付ける。もたもたしとったら、食器を洗う使用人に迷惑がかかるから、時間を見て食堂に行かなあかん。少ない品数に驚いたが、食べきることができるのはこのくらいなんやと知った。母上やお祖父様なら、犬の餌かと憤るような食事は、ほかほかと湯気が上がっていて、何とも美味しかった。
「何で三郎の部屋なんだ?俺の部屋にしろよ」
食事を終えて部屋へ戻ろうとすると、二階の廊下で力丸さまの声がする。少し咎める響きを持って。
「いいんですよ、これで」
「だって、夜に……」
「聞かせようと思ってます」
「何で?まだ罪を償ってないからか?」
「そう、ですね……。そうなってしまうのかも。彼の感情を戻したいと思うことは、罪を意識させることなのかも……」
私に気付いた生松先生が口をつぐむ。力丸さまも、何か言いたげにこちらを見たけど、黙って自分の部屋に入ってしまった。
「今夜はお願いしますね」
いつもと変わらない笑顔を向けてくる生松先生に私は、はい、と答えるしかなかった。
「壱臣さんを少しの間、三郎の部屋に泊めてもらえますか?」
「へ?」
兄上を泊める?私の部屋に?
「あ、え?でも、寝具が……」
「ああ。壱臣さんがいつもお使いのものをそちらへ運びますので、心配いりません」
「あの、私はええんですけど……その……」
兄上は嫌やないやろか。それに、半助は?
「大丈夫ですよ。壱臣さんの了承は取ってあります。半助さんの具合が悪くてね、壱臣さんと離したいんです。入院させてもいいんですが、半助さんは病院ではなかなか休めないようでして」
「ああ……」
気配を探るのに長けた者は、しょっちゅう見回りのある病院では気が休まらへんのやろう。
でも、半助が具合が悪い?兄上じゃなく?
生松先生は、戸惑う私を笑顔で見ている。
西国からの帰り、ずっと具合が悪そうにしとったのは兄上だ。蒼白な顔で、車の中でもずっと目を閉じて、半助の膝に頭を乗せていた。父上や角兄上に、挨拶もせんと帰ってきたようやし、帰ってからも二日ほどは姿を見んかった。
その後は、普通に仕事をしとったから、治ったんやなと思てたけど。
「それでは、お願いしますね」
あっという間に、私の部屋に兄上のベッドが運び込まれた。今まで暮らしていた環境からするととんでもなく狭く、けど一人で使用しとると広く感じる部屋。流石に二つのベッドがあると狭い。私の持ち物は、先日成人さまと購入した服や下着、渡されている手拭いと歯ブラシにコップくらいのものやから、何の問題もないんやけど。
兄上はいつ来られるのか、お風呂とか一緒に行くんかな、とどきどきしとったけど、よく考えたら兄上は忙しい。私たちの食べた後の食器を片付けないと仕事が終わらない。
待っとったらあかんな、と私は、私の寝るための準備をすることにした。ここにぼおっとしとったって、誰も着替えさせてはくれない。風呂に案内して洗ってもくれない。黙って、言われるがまま立ったり座ったりしとったら、全てが終わっていた暮らし。全てを自分でせんなんくなってから何ほども経っとらん。時計を見ながら、一生懸命次にやることを考えていないと、寝るための時間が無くなるし、起きた後、仕事に間に合わないことを知った。
囚人に割く人員などないからな、とはじめは思っとった。
よく考えたら、拘束されもせず、何にもできない私に根気よく自分で生活する術を教えてくれていた。この宮の全ての人が。
部屋から出て、食事の部屋に行くこと。食事を受け取って座る場所を決め、食べる。食べ終えたら、食器を洗い場に片付ける。もたもたしとったら、食器を洗う使用人に迷惑がかかるから、時間を見て食堂に行かなあかん。少ない品数に驚いたが、食べきることができるのはこのくらいなんやと知った。母上やお祖父様なら、犬の餌かと憤るような食事は、ほかほかと湯気が上がっていて、何とも美味しかった。
「何で三郎の部屋なんだ?俺の部屋にしろよ」
食事を終えて部屋へ戻ろうとすると、二階の廊下で力丸さまの声がする。少し咎める響きを持って。
「いいんですよ、これで」
「だって、夜に……」
「聞かせようと思ってます」
「何で?まだ罪を償ってないからか?」
「そう、ですね……。そうなってしまうのかも。彼の感情を戻したいと思うことは、罪を意識させることなのかも……」
私に気付いた生松先生が口をつぐむ。力丸さまも、何か言いたげにこちらを見たけど、黙って自分の部屋に入ってしまった。
「今夜はお願いしますね」
いつもと変わらない笑顔を向けてくる生松先生に私は、はい、と答えるしかなかった。
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