406 / 1,325
第五章 それは日々の話
56 斎さんのこと 三郎
しおりを挟む
執務室に戻ると白衣の人が居た。この人が、睦峯先生か。この家で暮らしているから何度か会っているのかもしれないけれど、私には覚えが無かった。この家で白衣を着るのは二人で、生松先生は出掛けたから、残っているのは睦峯先生だと判断しただけだ。
斎さんの様子を見ている。斎さんの椅子は、横に付いているハンドルを回すと背もたれが倒れて、寝る姿勢になることができる優れもの。足元も跳ね上げると、まるでベッドのようになる。
朝食の後、斎さんのお皿を片付けに来た乙羽さまが、斎さんが寝ているのを見ると、嬉しそうに椅子をベッドに変えた。薄手の毛布を持ってきて掛けて出ていった。
「ずっと寝てたか?」
「は、はい」
睦峯先生と話すのは初めてで、話しかけられたことに驚いた。途中で起こした方が良かったんやろか?
「そうか。魘されたりとかは?」
「無いです」
睦峯先生は斎さんの眉間の皺を指で擦って伸ばしながら、聞いてくる。
私が手にした盆を見て、お、そんな時間か、と言った。
慣れた様子で椅子の足置きを倒し、ハンドルをゆっくり回して座り姿勢に戻しながら斎さんに声をかける。
「斎さん。昼ごはんの時間だよ」
「ん?」
ゆっくりと目を開けた斎さんは、朝よりだいぶ顔色が良くなっているように見えた。
「昼……?」
「そう、昼ごはん」
私から盆を受け取った睦峯先生が、当然のように斎さんの隣に、部屋の隅に置いてあった簡易椅子を引っ張ってきて座った。
「ええ?昼?」
「はいはい。寝起きだから水を飲んで」
睦峯先生は、目をぱちくりとさせている斎さんに水を飲ませると、ゆっくり助け起こして御手洗いに連れていき、また椅子に座らせる。当然のように、雑炊をすくって斎さんの口元に持っていくと、一口食べてから斎さんが、はたと気付いたようだ。
「自分で食べられます」
「俺は食べてきたから気にしなくていい」
「そうではなくて」
斎さんは今日、右手が震えて使いにくいと言っていたから、睦峯先生はそれを知ってらっしゃるのやろう。
そのうち、こういうお手伝いの機会もあるかもしれん、と思って、自分の席からじっと見ていたら、斎さんが深々と頭を下げてきた。
「三郎。寝てしまって申し訳ない。君がやってくれると思ったら、ほっとして」
「いえ」
「引き継ぎがすんだら、私の役目も終われるかな……」
下を向いたまま、呟くように言われた言葉に首を傾げる。
「え?」
「まだ、そんな馬鹿なこと考えてんのか?」
私の疑問の声は、睦峯先生の怒声にかき消された。
斎さんの様子を見ている。斎さんの椅子は、横に付いているハンドルを回すと背もたれが倒れて、寝る姿勢になることができる優れもの。足元も跳ね上げると、まるでベッドのようになる。
朝食の後、斎さんのお皿を片付けに来た乙羽さまが、斎さんが寝ているのを見ると、嬉しそうに椅子をベッドに変えた。薄手の毛布を持ってきて掛けて出ていった。
「ずっと寝てたか?」
「は、はい」
睦峯先生と話すのは初めてで、話しかけられたことに驚いた。途中で起こした方が良かったんやろか?
「そうか。魘されたりとかは?」
「無いです」
睦峯先生は斎さんの眉間の皺を指で擦って伸ばしながら、聞いてくる。
私が手にした盆を見て、お、そんな時間か、と言った。
慣れた様子で椅子の足置きを倒し、ハンドルをゆっくり回して座り姿勢に戻しながら斎さんに声をかける。
「斎さん。昼ごはんの時間だよ」
「ん?」
ゆっくりと目を開けた斎さんは、朝よりだいぶ顔色が良くなっているように見えた。
「昼……?」
「そう、昼ごはん」
私から盆を受け取った睦峯先生が、当然のように斎さんの隣に、部屋の隅に置いてあった簡易椅子を引っ張ってきて座った。
「ええ?昼?」
「はいはい。寝起きだから水を飲んで」
睦峯先生は、目をぱちくりとさせている斎さんに水を飲ませると、ゆっくり助け起こして御手洗いに連れていき、また椅子に座らせる。当然のように、雑炊をすくって斎さんの口元に持っていくと、一口食べてから斎さんが、はたと気付いたようだ。
「自分で食べられます」
「俺は食べてきたから気にしなくていい」
「そうではなくて」
斎さんは今日、右手が震えて使いにくいと言っていたから、睦峯先生はそれを知ってらっしゃるのやろう。
そのうち、こういうお手伝いの機会もあるかもしれん、と思って、自分の席からじっと見ていたら、斎さんが深々と頭を下げてきた。
「三郎。寝てしまって申し訳ない。君がやってくれると思ったら、ほっとして」
「いえ」
「引き継ぎがすんだら、私の役目も終われるかな……」
下を向いたまま、呟くように言われた言葉に首を傾げる。
「え?」
「まだ、そんな馬鹿なこと考えてんのか?」
私の疑問の声は、睦峯先生の怒声にかき消された。
1,371
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる