【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

70 動物園の楽しみ方  緋色

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 開園直後の動物園は、人もまばらで、のんびりとできそうだった。入り口近くのぞうの前まで走った成人なるひとは、一番見やすい正面で立ち止まる。悠々と歩くぞうを見て、ほうっと満足げなため息を吐いた。

「なる。置いて行かないでよー」

 後ろから走ってきた乙羽おとわに文句を言われても、にこにこと頬が緩んでいる。

「ごめーん。ぞうが見えたから」
「今日も大きいわねえ」
「ねえ」

 乙羽おとわ成人なるひとの隣で、にこにことぞうを眺め始める。
 やっぱり今日も、ぞうとの付き合いは長くなりそうだな。

「端の方なら、邪魔にはならないだろ」

 同じことを思ったらしい常陸丸ひたちまるが、通行人の邪魔をせずにぞうが見える場所をうろうろと探して、手にしていたパイプ椅子を置いた。
 ぞうの飼育員にも声を掛けて、しばらく滞在するが気にしないでほしい、と断りを入れている。

「気が利くな」
「あれ?俺の有能さに、今頃気付きました?」
「とうに知っているが?」

 え?と赤くなって、固まってしまった顔が可笑しい。
 俺が、お前以外の者を側に置くのを嫌がるから、何でもしなくてはならなくなったんだろ?知っているし、感謝もしている。本来、皇族には、護衛の他に侍従がいて、交渉事や身の回りの世話などはそういった役目の者がするものなのだが、どうにもそういった役割りで側に付けられた者に、気の合う者はいなかった。側近とやらいう役目の者も然り。
 結局、同級生の中で俺が側に置いたのは、常陸丸ひたちまる乙羽おとわだけで、家格の低い常陸丸ひたちまるが、陰口の対象になっていたのは知っている。俺の睨みと常陸丸ひたちまるの強さに恐れをなして、すぐに誰も何も言えなくなったようだが。
 そんなわけで、侍従の仕事も側近の仕事もこなす、有能な護衛の出来上がりだ。ついでに、友人。忙しいな、お前。

常陸丸ひたちまる、かばの所へ行こう」

 ぞうの前から乙羽おとわの声がした。

「おう」

 常陸丸ひたちまるは、嬉しそうに乙羽おとわの側へ走る。今日は護衛はお休み。後でな、と手を振る友人に手を振り返して、成人なるひとに近寄る。

「もうちょっと、ぞう見るね」
「ああ、いいよ」

 少しずつ、入園する者が増えてきた。邪魔にならない所で見ようか、とパイプ椅子へ誘うと、喜んで座ったので、俺も腰をおちつける。
 常陸丸ひたちまるがいなくても、荘重むらしげが何人か連れてきているだろう。一ノ瀬いちのせは、姿を見せないから気楽でいい。成人なるひと乙羽おとわ常陸丸ひたちまるとも気が合うようだし。
 貸してくれた朱実あけみに感謝だな。常陸丸ひたちまるをたくさん、休ませてやれそうだ。
 のんびりと椅子に腰かけて、ぞうを堪能している成人なるひとの横で、ぞうの尻尾に合わせてゆらゆら揺れたり、ぞうの糞を見て、すごいすごい、と笑う成人なるひとを堪能した。
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