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第五章 それは日々の話
96 楽しんだ方がいい 緋色
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「今月は、三郎が十九歳、政巳が二十二歳、末良が一歳になりました。おめでとう!」
名前の上がった三人を目立つ場所に立たせて、メモを手にした成人が少し掠れた高めの声を張り上げる。
ほんの少し前まで、誕生日の存在も、自分の年齢も知らなかったくせに、いつの間にか誕生日会を取り仕切っているとはね。
楽しそうで何よりだ。
「おめでとう!」
参加者の声があちらこちらから聞こえて、拍手が響いた。
困ったように目線を下にして立つ三郎と、長い背筋を伸ばして明るい顔で立っている政巳、広末にしがみついて、顔を胸に埋めている末良。三者三様の主役たち。
拍手が済んだら、主役たちはその場に座って、参加者が祝いにくるのを待つ。おめでとうの言葉とプレゼントが、積み上がっていく。
ぎこちない笑顔を見せる三郎は、積み上がっていくプレゼントに、ただただ驚いているようだ。
プレゼントは、絶対に渡さなくてはいけない訳ではない。同じ場所で働いているからといって、よく知らない者もいるのだし、ただ、おめでとうと祝うだけでいい、と言ってあるのだが、皆、小さな飴玉一つでも必ず準備している様子だ。
成人の貢ぎ癖が、使用人にまで伝染しているのか。
あいつの稼ぎはとにかく、誰かへの贈り物で消えることが多い。自分で使うのは、ほんの少しの駄菓子だけで、毎月の誰かへの誕生日プレゼントや出かけた時の土産に消えている。自分の欲しいものを買えよ、と言うと、買ってる、といい笑顔で答えた。それが欲しい物なのなら、仕方ない。お前の物は俺が買おう。……ああ、そうか。
確かに、好きな相手の欲しい物を選んで買ってやるというのは、楽しいかもしれないな。
「三郎、おめでとう」
成人が渡した綺麗な包み紙を開けた三郎が、ぐ、と息を呑んだ。見事な細工の施された櫛。それをぎゅっと握った方と違う手が、短くなった髪を引っ張る。最近は、手ぐしで整えているだけなのだろう。所々、束になって絡んでいる。仕事中は手拭いを頭に巻いていることが多いから、プレゼントの中には、お洒落な手拭いも置いてあった。
「あり……ありがとう、ございます」
喉に詰まったような声で言う三郎の感情は分からない。
梳かす髪も無いのに、と悲しんでいるのかもしれない。櫛を持っていないことに気付いてくれたことを喜んでいるのかもしれない。汚ない髪だと言われたような気がして、落ち込んでいるのかもしれない。これで、少しは髪の手入れができると思ったのかもしれない。
「ええもん、もろたねえ、三郎。うちが梳いてあげよ」
にこにこと三郎の手を覗きこんだ壱臣が、のんびりした声を上げた。
「兄上……」
「うちからの贈り物な、髪の毛の美容液にしようと思てたんやけど、売ってるとこが無くて買えんかったんや。使いさしやけど、これ使ててくれるか?また店ができたら、新しいの、買うてくるからな」
初めての自分用の美容液を、惜しげもなく差し出す壱臣に、三郎が慌てて頭を振る。
「ええです。そんなん、ええんです」
「やっぱり使いさしは、失礼やな。ごめんな」
「そうやなくて」
そうして話している間にも壱臣は、美容液を手に出して三郎の髪に馴染ませ、櫛をひょいと三郎の手から取って梳かしはじめた。
「いい匂いですね」
興味を持った佐鳥が話しかけ、壱臣が、そうでしょう?とおっとり返事を返している。
そうしている間にも、気にせず三郎に話しかけながら贈り物が手渡されていて、成人がにこにことその様子を見守っていた。
だんだんと、泣き笑いの顔になる三郎は、嬉しい方の気持ちが大きくなっていっているのかもしれない。
名前の上がった三人を目立つ場所に立たせて、メモを手にした成人が少し掠れた高めの声を張り上げる。
ほんの少し前まで、誕生日の存在も、自分の年齢も知らなかったくせに、いつの間にか誕生日会を取り仕切っているとはね。
楽しそうで何よりだ。
「おめでとう!」
参加者の声があちらこちらから聞こえて、拍手が響いた。
困ったように目線を下にして立つ三郎と、長い背筋を伸ばして明るい顔で立っている政巳、広末にしがみついて、顔を胸に埋めている末良。三者三様の主役たち。
拍手が済んだら、主役たちはその場に座って、参加者が祝いにくるのを待つ。おめでとうの言葉とプレゼントが、積み上がっていく。
ぎこちない笑顔を見せる三郎は、積み上がっていくプレゼントに、ただただ驚いているようだ。
プレゼントは、絶対に渡さなくてはいけない訳ではない。同じ場所で働いているからといって、よく知らない者もいるのだし、ただ、おめでとうと祝うだけでいい、と言ってあるのだが、皆、小さな飴玉一つでも必ず準備している様子だ。
成人の貢ぎ癖が、使用人にまで伝染しているのか。
あいつの稼ぎはとにかく、誰かへの贈り物で消えることが多い。自分で使うのは、ほんの少しの駄菓子だけで、毎月の誰かへの誕生日プレゼントや出かけた時の土産に消えている。自分の欲しいものを買えよ、と言うと、買ってる、といい笑顔で答えた。それが欲しい物なのなら、仕方ない。お前の物は俺が買おう。……ああ、そうか。
確かに、好きな相手の欲しい物を選んで買ってやるというのは、楽しいかもしれないな。
「三郎、おめでとう」
成人が渡した綺麗な包み紙を開けた三郎が、ぐ、と息を呑んだ。見事な細工の施された櫛。それをぎゅっと握った方と違う手が、短くなった髪を引っ張る。最近は、手ぐしで整えているだけなのだろう。所々、束になって絡んでいる。仕事中は手拭いを頭に巻いていることが多いから、プレゼントの中には、お洒落な手拭いも置いてあった。
「あり……ありがとう、ございます」
喉に詰まったような声で言う三郎の感情は分からない。
梳かす髪も無いのに、と悲しんでいるのかもしれない。櫛を持っていないことに気付いてくれたことを喜んでいるのかもしれない。汚ない髪だと言われたような気がして、落ち込んでいるのかもしれない。これで、少しは髪の手入れができると思ったのかもしれない。
「ええもん、もろたねえ、三郎。うちが梳いてあげよ」
にこにこと三郎の手を覗きこんだ壱臣が、のんびりした声を上げた。
「兄上……」
「うちからの贈り物な、髪の毛の美容液にしようと思てたんやけど、売ってるとこが無くて買えんかったんや。使いさしやけど、これ使ててくれるか?また店ができたら、新しいの、買うてくるからな」
初めての自分用の美容液を、惜しげもなく差し出す壱臣に、三郎が慌てて頭を振る。
「ええです。そんなん、ええんです」
「やっぱり使いさしは、失礼やな。ごめんな」
「そうやなくて」
そうして話している間にも壱臣は、美容液を手に出して三郎の髪に馴染ませ、櫛をひょいと三郎の手から取って梳かしはじめた。
「いい匂いですね」
興味を持った佐鳥が話しかけ、壱臣が、そうでしょう?とおっとり返事を返している。
そうしている間にも、気にせず三郎に話しかけながら贈り物が手渡されていて、成人がにこにことその様子を見守っていた。
だんだんと、泣き笑いの顔になる三郎は、嬉しい方の気持ちが大きくなっていっているのかもしれない。
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